陣中見舞
「あれ、父上ひとり?」
「うむ。最近ロデルが忙しそうなのでな。それに、あまり余ばかりが独占したら社の者にどやされそうだ」
「同情しますよ」と口では言うが、目が笑っていた。
シリルは現在、人間界の西大陸で『ワンダーダイス』二合店舗を運営している。
立地は西大陸北部の魔法国家。北大陸の影響で日進月歩の発展が続く将来ある王国だ。
陣中見舞いにやってきた(というか要求があった)スゴロクは、冒頭のとおり歓迎(?)されて入店したと言うわけである。
「調子はどうだ」
「絶好調でもないけど、ここはおもしろいよ」
店番を雇いの少女に任せてバックヤードに引っ込んだ二人は、見舞いの軽食をさっそく摘みながら話す。
「帝国から溢れてるのかもね、こっちの国にも続々と才能ある人が乗り込んでくるんだ。店番の子も面白いんだよ」
「ほーう?」
「アリスちゃんって言ってね。大事な友達に追いつきたいって、すごく頑張ってる」
「弟子に欲しいな」
「父上は『壁』であろうとし過ぎるのが難点だよねぇ」ひとしきり笑ってから、
「本題」
「む」
「ダイス社って社内恋愛アリ?」
「ナシにしたらその場で相談役を降ろされるわい……だいたい何組か夫婦もいるじゃねぇかウチ」
スゴロクからして婚約発表を済ませている。今更だ。「聞いてみただけだよ」
好きな女子でもできたかと問うと、
「や、ローレンス卿がね……ぷくくっ」
やたら艶やかな口角を歪ませる。
「ほう、それは珍事である!」
「珍事はさすがにヒドくね? あの人らしいとはお世辞にも言えないけど」
魔法と戦いに心と情熱を奪われ、スゴロク以上に他者の『壁』であろうとする生粋の魔法戦士。シリルはその逸話を漁るように読んだし、本人の薫陶も受けている。
「確かに言いすぎだった。ヤツがひとりの女子に夢中になるさまが想像できんのだ」
たとい本心では誰よりも愛情を渇望しているとしても、だ。
ローレンス=レーゲンシュタットという男がそれを他者に見せるような素直さを持ち合わせていないことは、スゴロクも充分に承知している。
「だよね。……で、その娘を鍛える巻き添えで社員全部が相当鍛えられてるんだけどさぁ」
「何だその顔わ」
「お客さんたちと、ちょっと遊んでみたいなと思ってサ。その事後承諾取りたいわけ」
くくっと楽しげに喉を鳴らしつつ、書類を持ち出してきた。
『ワンダー・スタジアム建設構想』と銘打たれたそれに、魔王は秒速でサインを終えた。
2016年 03月12日 11時57分 公開




