側近の休日
「ほぉ、兄上がねぇ……」
「はい。心当たりがおありですか」
さっそく質問をぶつけてみると、シェリーは美貌を苦笑で崩した。
「心当たりっていうか――うん、別に隠すことでもないわね。『勇者』の資格だけなら持ってるのよ私」
「……マジ?」
「ウソだったらこのお酒返してもいいわ。机探って御覧なさい」
失礼しますと断って、ロデルは姉貴分の机を開けた。抽斗には、酒の次に宝石を好む(こう書くと欲の塊のようである)シェリーの夢と『お宝』が詰まっている。
奥の方よという助言に従って探してみると、「あった」
少々デザインが古めかしいものの、確かに『勇者』の認定に用いられる紋章だった。「でしょー。お姉様は嘘つかないのよん」
「でも、なぜ? 魔王の血とかは関係なかったりするの?」
「私は兄上と違って、即位するべき立場じゃなかったし……。当時は人間界も今以上にバタバタしてたらしくて、ちょっとでも戦力が欲しいみたいなこと言われて」
途中でケタケタ笑いつつ語り、また酒を注ぐ。上質なアルコールをきこしめしてゴキゲンなのか、弁舌も滑らかであった。
常に持つ謎めいた部分をすべて話してくれそうな勢いだ。
「試験官ぜんぶブッ飛ばしたら、すぐ認めてくれたわ。ひとりだけ、どうしても勝てないヤツもいたけどね――懐かしいような、昨日のことのような」
『覚醒』を終えた魔族にとって過去とは、連綿たるひとつづきの現在である。
だから、忘れたくない出来事や人物を、決して忘れないこともできる。
「……そっかぁ」
「どした? 『勇者』に興味でも沸いてるのかな」
「うん。仲良くなった『勇者』がいて」
「そう……。友達は大事にしなさいね、ロデル。でもあんまり拘るのもよくないかも?」
「分かってるんだけど」
「『魔王』と違いがありすぎる?」
「うん。だからもっと知りたいの」
「んじゃ、受験のハナシつけといたげるよ。『霧の森』でいいよね? 知り合いいるし」
随分顔の広い人だとは思っていた。
冒険旅行が趣味なら不思議はないかとも思ったけれど、まさか『勇者』としての顔も持っていたなんて。
「魔王軍でも大丈夫?」
「誰でもなれるわけじゃないけど、当時から実力主義一辺倒だからねー。そこらへんは『魔王』と同じ。がんばってみなさい、訓練になら付き合ったげる」
滑らかな口に任せて胸をドンと叩いてみせる。
「ありがとう、シェリーねえさま」
「なんの。たまには姉貴ヅラさせなさい。……あ、そういえば最近シリルがスネてるわよ」
「え゛」
「出番が少なすぎるってさ。支店にも行ってみてあげてよ」
少々焦りつつ快諾する。
「よし。用事終わりかな?」
「うん」
油断だった、といえばそうだろう。
龍人族としては小柄な(出るべきところは出てるから羨ましい)体格からは想像もつかない膂力を失念していたロデルは、
「じゃあ――えいっ」
「わ!」
一息で抱え上げられてしまった。「んっふっふー。今日は遅いし、久しぶりに泊まって行ってよ」
「な、なぜ横抱きですか?」
「これは趣味ぃー」
「んなテキトーな……」
「いいからいいから」
一人で眠るには少々大きい寝床に降ろされ、座る。どこぞの姫君のように優しく扱ってくれる。
本当に酔ってるんだろうかこの人は、などと思っていると、
「せっかくだから兄上とのノロケでも聞かせなさぁい、うふふ」
「あ、あぅ……」
完全に主導権を持っていかれてしまうロデルであった。
2016年 03月10日 12時01分 公開
2016年 03月10日 12時02分 脱字修正




