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彼女を振っても刺されない方法って、ある?  作者: 柊弐男
第三章 委員長と一ノ瀬んちへ
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EP.10 鉄血の委員長・篠原翼

「付き合い始めたばかりで、二人そろって授業をサボるなんて、少し度が過ぎるんじゃない?」

「……は?」


 不意に声をかけられ、箸を持つ手が緩んだ。ミートボールが床に落ちる。

 声の主は形のいい眉をひそめ、慌ててそれを拾う俺を、汚いものでも見るような目で見ていた。


「それ……まだ食べるつもり?」

「食い物を粗末にしちゃダメだろ。まだ三秒ルールの範囲内だし」

「何が三秒ルールよ。くだらない」


 呆れた顔で、彼女は言った。


 今は昼休み。

 クラスの連中はみんな昼飯を食っていて、もちろん俺もその一人だ。

 購買で買ったミートボール弁当を半分ほど平らげたところで、こいつが机の前にやってきた。そして、腰に手を当て、いきなりさっきの質問をぶつけてきたのだ。


 こいつの名前は篠原翼。うちのクラスの委員長だ。

 四角いフレームの眼鏡をかけ、二本の三つ編みを肩に垂らした、いかにも優等生って格好をしている。

 顔は結構可愛いが、いつも俺に八千万円でも貸しているような仏頂面だ。


 はぁ。せっかく綺麗な顔してるのに、なんでこんな付き合いづらい性格なんだろうな?


挿絵(By みてみん)

(※生成AIを使用して制作した挿絵です。)


「……それで?」

「ん?」

「昨日、二人で学校を休んで、いったいどこに行っていたの?」

「ああ、昨日の話か……まあ、話すと長くなるんだよ」

「長くなる?」

「うん。いろんなところに行ったからな」


 俺は肩をすくめた。できれば、昨日のことはあまり思い出したくない。

 篠原は一瞬黙り込み、それから、むっとしたように目をしばたたかせた。


「ま、待って。まさか、付き合って初日から、一(・)線(・)を越えたんじゃないでしょうね……?」

「一線?」

「まだ高校生なのに、そんな不純なことをしていいと思っているの?」

「へえ~? 不純なことって、どんなことだ? 聞かせてくれよ~」


 言いたいことを察した俺は、わざと耳に手を当て、彼女に顔を近づけた。

 篠原は言葉に詰まり、羞恥と怒りで顔を真っ赤にした。


「参ったなあ。『一線』って何の線? 『不純なこと』って、どういうこと? さっぱりわかんねえんだけど~?」

「あなた……! ……!」

「説明してくれないかな、委員長様? ん? ん?」


 今、鏡を持ってこられたら、自分の顔に向かって一発ぶち込んでしまうだろう。

 それくらい、俺は腹の立つ顔をしていた。


 はは。軽蔑されるかもしれないが、実はこいつをからかうのは、俺の密かな楽しみの一つなのだ。

 だって、くそ真面目なやつほど反応が面白いんだもん!

 女の子に意地悪してるとか言うなよ? いつも先に突っかかってくるのは向こうだ。

 俺はやり返すついでに、ちょっと楽しんでいるだけなんだから。


「……最低ね、高橋広志」


 篠原は冷たい顔で吐き捨てた。


「同感。女子高生をからかって楽しむなんて……本当に最低だね、広志さん」


 ルビーまで、同じ顔で言ってきた。

 黙れ、このピンクツインテール。さっきの「ん? ん?」は、お前の真似なんだぞ。


「で、結局何の用だよ、委員長? まさか、わざわざ説教しに来ただけじゃないだろ?」

「無断欠席扱いにされたくなければ、きちんと欠席の連絡を入れるように言いに来たの。それと、昨日は先生から保護者に連絡があったから、家の人もあなたの行動は把握しているはずよ」

「うちは放任主義なんだ」

「はぁ。でしょうね」

「へへ」

「それから、一ノ瀬さんが今日来ていない理由を、何か知らない? 昨日は一緒にいたんでしょう?」

「まあ、そうだけど……」


 そう聞かれたって、俺にも答えようがない。

 昨日の夜、十一時過ぎには、確かに霞はうちにいた。

 ずぶ濡れで殺気を漂わせながら、妹を抱いて帰ってきた俺と鉢合わせした。しかも、俺たちの関係を誤解していたらしい。


 幸い、最後には誤解も解け、何事もなく済んだ。

 霞が連絡すると、十五分後には家の前に高級車が現れ、あいつを乗せて帰っていった。

 帰り際には、俺の頬にキスまでして、こう言ったのだ。


『明日も会えるの、楽しみにしてるね、広志くん♥』


 だから、今日どうして学校に来ていないのか、さっぱりわからない。

 可能性が高そうなのは、風邪でもひいたってところだろうか。

 あの土砂降りの中、あんなに長く、一人きりで立っていたんだ。寂しさにも、寒さにも耐えながら……

 そう考えると、胸が痛んだ。


 ……胸が痛む?

 なんで、俺を殺したやつのために、胸を痛めてるんだ?


 …………


 矛盾した感情が込み上げてきた。

 どう受け止めればいいのかわからず、俺は眉をひそめ、苦いものでも飲み込んだような顔になった。


「あなたに何か連絡は来ていないの?」

「……いや。朝、LINEを見たときは何も来てなかったし、今日はまだやり取りしてない。風邪でもひいて、寝てるんじゃねえの?」

「メッセージを送って、確かめてみたら?」

「それは……」


 うーん。どうしたもんかな。

 霞に何があったのかは、確かに気になる。

 だけど、今は事情が事情だ。

 できれば好感度を上げたくないんだよな……

 むしろ、別れたいなら、ここは放っておいて、薄情な男だと思わせるべきじゃないのか?


 迷いが顔に出ていたらしい。委員長様は、それを見逃さなかった。


「高橋広志。あなた、本当に最低ね」

「なんだよ?」

「彼氏なら、こういうときに連絡して心配するのも、恋人としての甘い義務でしょう? それなのに、その反応は何?」


 篠原は信じられないという顔で腕を組んだ。

 まるで、絶対に許せない人間を目の前にしたように、全身から怒りを漂わせている。


「なんでお前が怒ってんだよ。俺、お前にいくら借金してんだ?」

「あなたがこんなに最低な人だなんて、信じられないだけ。付き合って二日目で、病気かもしれない彼女を放っておくなんて、それでいいと思っているの?」

「『それでいいと思っているのぉ~?』って、いっつもそればっか。うるせえんだよ!」


 俺は思いっきり腹の立つ顔で、こいつの口癖を真似してやった。

 それが、篠原を完全に怒らせたらしい。


 眉を吊り上げ、怒りで全身をこわばらせている。

 怒鳴りたいのはわかるのに、喉から出てくるのは「あなた……! あなた……!」だけだった。


 やがて、篠原は足を強く踏み鳴らし、深く息を吸った。どうにか怒りを押し殺してから、言った。


「ついてきて」

「おい、待っ……! 何すんだ……!」


 俺は強引に教室から引っ張り出された。


 ──篠原翼。

 うちのクラスの鉄血の委員長。

 成績優秀で、規則はきっちり守る。正義感がやたらと強く、どんな些細なことにも口を出さずにはいられない、頭の固いやつだ。

 俺みたいな気ままな人間とは、まさに天敵同士だった。


 だけど、そのときの俺は、まだ気づいていなかった──


 いつも俺とぶつかってばかりのこの女が、俺と霞の恋愛のもつれに巻き込まれることになるなんて。


 しかも、俺が想像するより、ずっと深く。

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