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彼女を振っても刺されない方法って、ある?  作者: 柊弐男
第一章 恋の吉兆、死の予兆
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EP.04~05 彼女の愛、断れない

(本エピソードは、もともと2話に分かれていたものを1話にまとめたものです。) 


 どうして彼女の手を振り払ったのか。俺にもよくわからない。

 なぜか頭の中に響いた声を聞いただけなのに、体が勝手に反応していた。


 霞は振り払われた手を押さえ、一瞬、傷ついた顔をした。

 だけど、すぐに笑顔で取り繕った。


「ひ、広志くん、きっと最近ストレスが溜まってるんだよ……幻覚が見えるのも、そのせいだと思う。そうだ、今日はもう学校に行くのやめて、気晴らししようよ!」


 ……わけもわからず手を振り払われたのは彼女のほうなのに、俺のおかしな行動に理由までつけてくれるなんて。


 俺、マジ最低!


 霞の提案で、俺たちは近くの海沿いの公園へ向かった。

 ここは観光スポットでもあり、遠方から訪れる人も多い。

 だけど平日の今は人影もまばらで、波の音やカモメの鳴き声まではっきり聞こえるほど静かだった。


 俺は東屋のベンチの背もたれに体を預け、頬を撫でる海風に身を任せた。

 それでも、胸の内の混乱はいつまでも消えなかった。



『ヒロ……♥』



 ただ名前を呼ばれただけなのに、耳にした瞬間、全身に鳥肌が立った。

 くそ。この高橋広志、とうとう本当におかしくなったのか?

 幻覚の次は幻聴かよ……せっかくの初デートだってのに!


「ああああああ消えうせろおおおおおお────!」


 俺は立ち上がり、目の前に広がる青い海に向かって叫んだ。これで少しは症状がマシにならないかと思ったのだ。

 残念ながら、クソほどの効果もなかった。


「うるさいんだけど。少し静かにしてくれない、広志さん?」


 あの忌々しいピンクのツインテールが、あろうことか俺に迷惑そうな視線を向けてきやがった!


 くそくそくそくそ、なんでまだいるんだよおおおおお────!!!


「どう、広志くん。少しはよくなった?」

「いや……どうやら俺のストレス、便器の汚れよりしつこいらしい」

「誰が便器の汚れだよ、こら────!」

「……はぁ。自分は便器の汚れじゃないって、わめいてる」

「なっ……! 広志さん、あなた……!」

「幻覚のくせに、ずいぶん感情豊かだな」

「こ、この~~~~!」


 幻覚さんは顔を真っ赤にして、俺をぶん殴ろうとでもいうように飛んできた──


 そのとき、霞がベンチから跳ね起き、眉を吊り上げて、横を向いて叫んだ。


「いい加減にして、幻覚さん! どうして私と広志くんの邪魔ばっかりするの!? 私たちが何かしたっていうの!!」

「「…………」」


 俺と幻覚さんは、そろって呆気に取られた。


「言っとくけど、たかが幻覚でも、女である以上、私(・)の(・)彼氏にまとわりつくのは許さないから!」

「「…………」」

「いい!? 広志くんは私のなの! わ・た・し・の!」

「「………………」」


 幻覚さんはぽかんと口を開けて俺を見た。それから、少(・)し(・)離(・)れ(・)た(・)と(・)こ(・)ろ(・)にいる霞を指さした。まるで「何してんの、あの人?」とでも言いたげに。


 俺はいたたまれなくなり、誰(・)も(・)い(・)な(・)い(・)場(・)所(・)に向かって罵声を浴びせる彼女を、慌ててなだめに行った。


「広志くん! なんで止めるの!? 今日こそ、あの憎たらしい幻覚に思い知らせてやるんだから……!」

「わかった、わかったから。とりあえず落ち着けって……」

「このっ、泥棒猫! うちの広志くんに手を出そうったって、そうはいかないんだから……!」


 ……結局、何もない空間に向かって拳を振り回し続ける彼女を、あれこれ手を尽くして、ようやく落ち着かせた。


 な、なんか一気に疲れたぞ……


 挿絵(By みてみん)

(※生成AIを使用して制作した挿絵です。)



 /////////



 彼女の気をそらすために、俺は場所を変えることにした。

 制服のままではあちこち出歩きにくいこともあり、霞の手を引いて、近くのデパートに逃げ込んだ。


 ところが、見て回っているうちに、前を行く霞が買い、後ろをついていく俺が荷物を持つ、という流れになっていた。

 アクセサリーに、化粧品に、服……彼女が立ち寄るのは、どれもかなり高そうな店ばかり。

 会計のときにブラックカードまで取り出したものだから、俺も店員も目を丸くした。

 さすが、上流階級のお嬢様。金を使うときも、まったくためらいがねえ……


 数時間後には、俺の両手は大小さまざまな買い物袋でいっぱいになり、霞も買ったばかりの服に着替えていた。

 ダークカラーのVネックのニットが豊かな胸のラインを際立たせ、白い鎖骨には繊細なアクセサリーが華を添えている。下は、上品で女性らしいミモレ丈のスカート。

 生まれ持った彼女の気品も相まって、華やかさと可愛らしさが見事に調和していた。


 ようやくこの買い物マラソンも終わりかと思ったら、霞は俺をメンズの売り場へと連れていった。


「これと、これ。それから、これを合わせて……よし! 広志くん、着てみて!」


 俺は見るからに高そうな服を何着も持たされ、試着室に押し込まれた。


「…………」


 あの……霞さん。俺、買えないんだけど?


 いやいや、彼女が親切に服を選んでくれるのは、そりゃ嬉しいよ?

 だけど、うちはごく普通の家庭だ。一着何万円もする服を、ためらいもなく買えるほどの余裕はない。


 とはいえ、俺は霞が選んでくれた服に着替えた。

 それにしても、霞のセンスは本当にいいよな。

 オフホワイトのハイゲージニットのポロシャツに、すっきりしたシルエットのダークカラーのショートジャケット。袖は肘の下までまくり、上質なパンツを合わせている。

 全体として、若々しく洗練された印象だ。

 俺自身が「こいつ、マジで高橋広志かよ?」と言いたくなるほどだった。


 残念ながら、買えないんだけど。


 試着室を出て、霞の前で何度か回ってみせる。

 彼女が満足そうに頷くのを見て、制服を手に取り、着替え直そうとした。


「広志くん? どうしたの?」

「ん?」

「着替えなくていいよ。そんなにかっこいいんだから、そのままでいようよ」

「いや……霞、金の問題なんだ」

「お金?」

「そう。俺には買えないんだよ……」


 そう言うと、霞はますます不思議そうな顔をした。


「でも、広志くんが持って入った服なら、さっき全部お会計済ませたよ?」

「…………」


 マジかよ……


 俺が我に返るより先に、霞は俺の腕に自分の腕を絡めた。


「もうすぐ予約の時間だから、行こう、広志くん」

「予約? 何の?」

「レストランだよ! ちゃんとした服装じゃないと入れないお店だから、先にここで服を買うことにしたんだよ」

「…………」


 ──ちゃんとした服装じゃないと入れないレストラン。


 やべぇ。俺、行かなくていい?



 /////////



 霞は服だけじゃなく、レストランを選ぶセンスも一流だった。

 最上階の眺めのいい席。大きな窓の向こうに広がる海。生演奏のピアノ。

 料理まで、一介の庶民である俺にも文句のつけようがないほどうまかった。


 夕食を終える頃には、外はすっかり夜の闇に包まれていた。

 俺と霞は再び海沿いの公園へ戻り、波の音を聞き、ひんやりとした潮風を感じながら歩いた。


 両手が買い物袋で塞がっていたせいで、霞は俺と腕を組めなかった。そこで今度は背後から抱きつき、妙な連結状態のまま一緒に歩き始めた。

 まるでRPGの仲間が後ろをついてくるシステムだ。おかげで、すれ違うカップルたちからちらちらと見られた。

 いや、ほかのカップルだけじゃない。

 俺のそばに浮かんでいる幻覚さんまで、「はぁ。こいつら、もうダメだ」という顔をしている。


「はぁ。こいつら、もうダメだ」


 ははは。おい、心の声が漏れてるぞ? このクソピンクツインテール!


 俺は羞恥心を押し殺し、どうにか昼間と同じ東屋までたどり着いた。

 買い物袋を下ろしてベンチにへたり込み、ようやく一息つく。


 霞は申し訳なさそうな目を向けながら、手伝わせてくれない俺に文句を言った。

 金を出させておいて、その上荷物まで持たせられるかよ。

 俺は気取ってひらひらと手を振った。


 だけど、本当はわかっている。

 両腕が使い物にならなくなるまで荷物を持ったって、あの夕食代には釣り合わない。

 しかも、夕食だけじゃない。

 霞はほかにも高価なものをいくつも買ってくれた。七桁の値札がついた金の腕時計とか。


 ──重い。重すぎる。


 こんなにもてなされても、俺には受け止めきれない。

 俺は霞の視線を受けながら腕時計を外し、彼女に返した。


「広志くん……?」


 霞の顔に、戸惑いが浮かんだ。


「悪い。こんな高いもの、受け取れねえ」

「大丈夫だよ? 私は気にしてないし」

「俺が気にするんだよ! なんつーか、レベル一の初心者がレベル百の最強装備をつけるようなもんでさ。ステータスが足りない俺は、装備の重さで潰れちまうんだよ。わかるか?」

「初心者? 装備? ……ごめんね、ちょっとよくわからない」

「要するに、こんな高いものをもらっても困るってこと。俺には分不相応なんだよ」


 腕時計だけじゃない。

 今日の買い物も、あの高級レストランも、朝の四時半からうちの近くで待っていたことも……

 霞が俺にしてくれることは、もう、とっくに受け止めきれる範囲を超えていた。

 金だけじゃない。あいつが費やしてくれる時間も、労力もだ。


 霞にとっては、この程度の「献身」は当たり前なのかもしれない。

 だけど、付き合って初日からここまでするなんて、どう考えても普通じゃないだろ?


「…………」


 霞は返された金の腕時計を握りしめ、うつむいたまま黙り込んだ。その肩は、ずっと震えている。


「どうして……わかんないよ、広志くん……」

「……」

「私のこと好きなら、どうして受け取ってくれないの?」

「そういう問題じゃなくて、本当に高すぎるんだって……」

「お金なんて大したことじゃないよ! むしろ、お金で買えるものじゃ、私の気持ちが伝わらないんじゃないかって心配なくらいなのに!」

「……」


 うわ──「お金なんて大したことじゃない」って、そんな台詞が出てくるのかよ。

 この金持ち、豪快すぎるだろ。


「私は気にしないって言ってるし、広志くんだって損するわけじゃないでしょ? どうしてそんなに気にするの?」

「……」

「もしかして……もう、私のこと好きじゃなくなっちゃった?」


 霞は今にも泣きそうな顔で、俺を見上げた。

 そんなふうに見つめられたら、抱きしめたくなるに決まってるだろ……

 だけど、これからの俺たちのためにも、ここは突き放すしかなかった。


「……確かに、お前の言う通り、俺は損してない。むしろ、得しかしてない」

「だったら……!」

「ただ、こういうのに慣れちまったら、俺が俺じゃなくなる気がするんだよ……」


 ちょっと荷物を持っただけで、何百万円もする金の腕時計がもらえる?

 甘い言葉をいくつか囁くだけで、高級料理が食える?

 そんな扱いを受けていたら、この高橋広志、自分がヒモになったみたいで、だんだん自分を嫌いになってしまう。


 男のプライドってやつか? そうかもしれない。

 だけど、本当に重荷なのは、この「釣り合わない」愛情だった。

 あいつに金があるのは確かだ。

 だけど、仮に全財産が百円しかなかったとしても、きっと迷わず俺のために使い切るだろう。

 俺には、それができない。



 ──俺(・)は(・)、あ(・)い(・)つ(・)が(・)俺(・)を(・)愛(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)ほ(・)ど(・)、あ(・)い(・)つ(・)を(・)愛(・)せ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。



 それは認める。

 こんなことが続けば、いつかきっと、罪悪感に押し潰されてしまう。


 …………


 あれ。

 この罪悪感、どこかで味わったことがあるような?


 俺は幻覚さんをちらりと見た。

 腕を組んだ彼女の顔には、まるで「ほら、言ったでしょ?」と書いてあるようだった。


「…………」


 俺の話を聞き終えた霞は、長いこと黙っていた。

 繰り返す波の音が、耳を満たす。

 夜の東屋には、不気味で重苦しい空気が漂っていた。


 俺が唾を飲み込み、さすがに冷たいことを言いすぎたかと考え始めたとき、ようやく霞が動いた。

 うつむいた彼女は、手の中に何(・)か(・)光(・)る(・)も(・)の(・)を握りしめ、ぞっとするような気配を漂わせて──


「広志さん! ナ(・)イ(・)フ(・)です、気をつけて!」

「なにいいいいいいい~~~~~!?」


 俺はベンチから跳び上がった。驚きすぎて、声が一オクターブ高くなった。

 だけど、霞は近づいてこなかった。


「──る」

「……?」

「もう帰る!」


 彼女は光(・)る(・)も(・)の(・)を放り出すと、怒った足取りで東屋を出ていった。

 よく見れば、それはナイフじゃない。俺が返した金(・)の(・)腕(・)時(・)計(・)だった。


「…………」


 あのバカ幻覚を睨みつけた。すると、なんとあいつは顔をそらして口笛を吹きやがった!

 俺は慌てて荷物をまとめ、彼女の背中を追いかけた。


「待てって、霞。送っていこうか?」

「いい! 迎えの車が来るから!」

「あんなこと言ったのは、お前が嫌いだからじゃなくて、ちゃんと話し合ったほうがいいと思って……」

「わかってる! 私だって、広志くんが嫌いだから帰るんじゃないよ! 時間だから!」


 そう言い終えると、彼女は俺に追いつかせまいとするかのように足を速め、振り返ろうともしなかった。


「…………」


 俺はその場に立ち尽くし、人混みに消えていく彼女を、ただ呆然と見送るしかなかった。



 /////////



 それから、しばらくして。

 俺は大小さまざまな買い物袋を提げ、一人で帰り道を歩いていた。

 さっきの言い争いを思い返すと、少し後悔が込み上げてきた。

 ……もっといい言い方があったはずなのに。


 そのとき、ポケットの中で不意にスマホが鳴った。


 買い物袋を下ろしてスマホを取り出すと──霞からのメッセージだった。



『ごめんね、広志くん。あんなわがまま言っちゃいけなかったよね。

 がっかりしたかもしれないし、こんな私のこと嫌いになっちゃったかもしれないけど、それも全部、広志くんのことが好きすぎるからなの。


 広志くんの言ったこと、もう一度ちゃんと考えてみる。

 これからはプレゼントするときも気をつけるから、嫌いにならないでね。大好き♥』



「……なんだ。ちゃんとわかってくれる、いい子じゃないか」


 メッセージを読んで、真っ先にそう思った。

 彼女になった途端、話が通じなくなるタイプなのかと思っていたけど、案外わかってくれるんだな。

 初日からちょっと張り切りすぎたとはいえ、初めての付き合いで加減がわからなかっただけ、と考えれば納得できる。


 まあ、お互い恋愛初心者だし、ぎこちなくなるのも仕方ない。

 そのうち、俺たちなりの付き合い方が見つかるだろう──


「そんなにうまくいくといいね、広志さん」


 耳元から、俺の考えに水を差す声がした。

 幻覚さんが背後に浮かび、俺の肩越しにメッセージを覗き込んでいた。

 こんなに近くにいるのに、体温も匂いもまったく感じない。やっぱり実体はないらしい。


 つーか、さっき俺をビビらせた件、まだ片づいてないんだけど? よくもまあ、何食わぬ顔で近寄ってこられるな。


「あれ? 下にもまだ続きがあるよ、広志さん」

「ん……?」


 画面を下にスクロールすると、何行もの空白の先に、隠されたメッセージがあった。



『広志くん、高すぎるプレゼントは受け取りたくないって言ってたけど、実は今日買ったもの、全部広志くんへのプレゼントなんだ♥


 自分で持ってた荷物が、実は自分へのプレゼントだったなんて……どう? びっくりした?

 サプライズにするつもりだったの!


 とにかく、広志くんのために買ったものだから、私が持ってても使い道ないし、受け取ってくれるよね? 付き合って最初の日の記念に。

 それに、私のためだと思って……お願い♥ もう次はしないって約束するから♥



 P.S.家に着いたら連絡してね。ずっと待ってるから♥』



「………………」


 見事な不意打ちだ。俺は思わず白目をむいた。

 同時に、ぞっとした。


 付き合い始めて、まだ一日だぞ。普通、ここまでするか?

 なんだか別人みたいじゃないか……


 俺の知っている霞は、もっと素朴で、優しい女の子だったはずだ。

 筆記用具を忘れた俺に、笑って自分の消しゴムを半分に切って分けてくれたり……

 昼飯だけじゃ足りなかった俺に、笑って弁当のミートボールを分けてくれたり……

 そういう飾り気のない、ささやかな優しさに、俺は惹かれたのだ。


 だけど、今日の彼女はおかしい。

 ……なんつーか、熱烈すぎるんだよ!

 受け止めきれないほどの熱に、こっちまで焼き尽くされそうだ。


「──これで、あの子の『狂気』がわかったでしょ、広志さん」


 いつの間にか、幻覚さんが俺の目の前に来ていた。


「あの子がこの程度だと思ってるなら、大間違いですよ」

「……?」

「お金を使うくらいなら、まだいいんです。あの子が自分の身まで投げ出すところを見たら、もうどうしようもないってわかるはずです」


 幻覚さんは俺をじっと見つめ、言い聞かせるように告げた。


「あ(・)の(・)子(・)は(・)、狂(・)っ(・)て(・)る(・)ん(・)で(・)す(・)」

「…………」

「自分というものがないんです。あなたに尽くし続けることでしか、自分の存在を確かめられない。いつか、あなたも耐えきれなくなって、一緒におかしくなる」

「お前……」


 お前はいったい何者なんだ? どうして、そんなことまで言い切れる?

 反論しようとした。だけど、なぜか彼女の言葉には妙な説得力があって、何も言えなかった。

 すると、幻覚さんはさらに顔を近づけ、俺の目をまっすぐ見つめた。


「広志さん。忠告です。あの子とは、できるだけ早く別れたほうがいい」

「別れる……?」

「そうです。これ以上深く関わる前に、離れるんです。そうしなければ、一生あの悪夢から逃れられなくなる」

「……」

「死なない限りは」



 ──死なない限りは。


 そう告げた幻覚さんの顔は、ひどく真剣だった。冗談を言っている様子は、少しもない。

 だけど、俺はまだ半信半疑だった。


 だって、いくらなんでも無茶苦茶だろ?

 五年後に俺が死ぬだの……

「神様」の命令で俺を助けに来ただの……

 そんな馬鹿げた話を、ただの高校生にどう信じろっていうんだよ?

 だけど、そんなことに悩んでいる余裕は、すぐになくなった。


 その夜、家に帰ると──


 真っ暗な廊下で、倒れたまま動かない妹を見つけた。




~第一章 恋の吉兆、死の予兆(完)~

今後は、更新日の20時〜21時の間に公開する予定です。


ちょっと計算してみたら、全36話を2日に1話ずつ公開すると、最初から最後まで2か月以上かかるんですよね……。


私は一度何かを始めると、そのまま勢いに乗って最後までやりたくなるタイプなので、今日から少し更新ペースを上げてみようかなと思っています。

校正作業が間に合えば、2日連続で更新したり、1日に2話公開したりすることもあるかもしれません。


皆さんはご自分のペースで、読みたいときに読んでいただければ嬉しいです。無理に更新を追いかけなくても大丈夫ですし、作者に気を遣う必要もありません(笑)。


こうしてネットで出会えた皆さんと、お互いに気負わず、気軽に交流できたら嬉しいです!

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