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彼女を振っても刺されない方法って、ある?  作者: 柊弐男
第五章 ジョジョ好きに悪い奴はいない
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EP.20 黄金の精神

 テレビの中で堂々と語っていた篠原を思い出す。

 凛々しく、威風堂々と、胸を張っていた。

 毅然としていながら、優しさもにじませる。

 綺麗で、格好よくて、顔を横切る刀傷があっても、その魅力は少しも損なわれていなかった。


 ──いや。


 あの傷があるからこそ、あいつはもっと魅力的だったんだ。


 篠原が国民的アイドルになった理由が、ようやくわかった気がした。

 あの過去が、あの傷があったからこそ、ほかの誰とも違うモデルになれた。人を惹きつけてやまない魅力が、磨かれたのだ。


 犯人に顔を傷つけられたあと、きっと、言葉にできないほどつらい日々を過ごしたんだろう。

 笑われたのかもしれない。

 いじめられたのかもしれない。

 密かに想いを寄せていた相手に、嫌がられたのかもしれない。


 詳しいことは知らない。

 ただ、あいつが「いじめ防止の親善大使」になったのには、理由があるはずだ。その後の経験と、関係があるんじゃないか?

 いじめられるつらさを知っているからこそ、それに反対するために立ち上がった。


 顔を傷つけられたのは、ほんの始まりにすぎない。


 ──篠(・)原(・)翼(・)の(・)本(・)当(・)の(・)苦(・)し(・)み(・)は(・)、そ(・)の(・)あ(・)と(・)の(・)日(・)々(・)に(・)あ(・)っ(・)た(・)。


 それでも、あいつは乗り越えた。

 悲しみや怒りを力に変え、不幸を原動力にして……

 少年漫画の登場人物みたいな刀傷を顔に残したまま、トップモデルになって、みんなを驚かせたのだ。


 傷を消す手術を受けて、あの過去を消し去ることだってできたはずだ。

 だけど、あいつはそうしなかった。

 傷のある自分を受け入れ、それを誇りに胸を張って歩き、最後には傷さえ魅力に変えた。


 融通が利かず、人付き合いも苦手だったあいつは、きっと、その道のりの中で少しずつ人当たりが柔らかくなったのだろう。

 強さを知り、優しさを知って……あのカメラの前の篠原になった。


 ルビーの言う通りだ。

 あれは、あいつ自身の苦しみなんだ。誰にも奪う権利なんてない。


 そう思うと、足が止まった。

 頭の熱が引き、体も少しずつ冷めていく。

 つい数分前まで慌てふためいていた俺は、自分を嘲るように鼻で笑った。


 ……はぁ。俺が思い上がってただけなのかもしれない。

 未来の記憶が少しあるだけで、ヒーローにでもなったつもりで、人の人生を「救おう」としていた。

 くそ。自分をラノベの主人公だとでも思ってんのかよ?


 冷静になってみると、恥ずかしくて仕方がなかった。

 たぶん、どこかで未来の委員長と、妹の姿を重ねていたんだと思う。

 妹と同じつらさを味わってほしくなくて、守ろうとした……だけど、全部、余計なお世話だったんだ。


 篠原は美杏とは違う。

 虐げられても、自分の力で、いくつもの困難を乗り越えられる。


 ──俺なんか、必要ない。


 そうだ。篠原の人生に、俺は必要ない。

 だから、余計なことに首を突っ込むな、高橋広志!

 人の心配をしてる暇があったら、霞からどうやって生き延びるか考えろよ!


 ぐっと伸びをしながら、心の中で自分を叱りつけた。

 さっきは腹が立つままにあんな形で別れ話を切り出して、とんでもなく気まずい場にしてしまった。未来の俺だって、あそこまではしなかったのに。

 別れるという目的は同じでも、生き延びたいのなら、もっと穏便なやり方を選ぶべきだった。


 俺は本当に進歩がねえな。いつも感情に振り回されてばかりだ……


「高橋? どうしてここに……?」


 ため息をつき、家へ帰ろうとした、そのとき──

 よりによって、委員長が行く手に現れた。


 目の前に立ち、ぱちぱちとまばたきをしている。その整った顔には、驚きと、少しばかりの喜びが浮かんでいた。


「…………」


 さらに間の悪いことに、委員長の後ろに、人影が見えた。

 闇に紛れ、鷹のような鋭い目を光らせている。

 両手をコートのポケットに突っ込み、足音もなく歩いてくる。全身から怪しい空気を漂わせた、見るからにろくでもないやつだった。


「…………」


 くそ。

 マジで、くそったれだ。



 /////////



 くそ。天が俺をおちょくってやがる。

 篠原のことには関わらないと決めたばかりなのに、帰り道で出くわしてしまった。

 しかも、犯人が襲おうと後ろをつけているところまで、目に入ってしまったのだ。


 ──どうしろっていうんだよ?


 現在、六時四十五分。

 篠原が予約をキャンセルしたのは六時。そのあと、どこかで夕飯を済ませていたんだろう。

 だから、今になって家へ帰ろうとして、帰り道にいた俺と出くわしたわけだ。


「高橋、一ノ瀬さんと誕生日を祝っていたんじゃないの? どうして一人でこんなところにいるの?」

「いやあ……話せば長くなるんだよ」

「話せば長くなる……?」


 委員長は眉をひそめ、首をかしげた。

 適当にはぐらかしながら、ルビーに助けを求める目を向ける。


 くそくそくそ! なんでちょうどここで会うんだよ!?

 これじゃ、もう未来が変わっちまってるんじゃねえか!?


 慌てる俺に、ルビーは責めるような目を向けてきた。「広志さんのせいだよ! 最初から追いかけてこなければよかったのに! どうするの、これ!」とでも言いたげだ。


 俺が知るかあああ!


 はぁ。仕方ない。

 もう変わってしまった以上、運命への影響を最小限に抑えるしかない。


 改めて状況を見直す──大丈夫だ。まだ、取り返しはつく。

 ここは、襲撃があった場所より手前だ。犯人も、まだ手は出さないだろう。

 なら、この出会いをなかったことにして、篠原と別れればいい。

 そうすれば、あいつの未来は元の軌道に戻る。


 このまま行かせて、犯人に襲われるのを見過ごすなんて、耐えがたかった。

 だけど、これは、あいつが経験しなければならない苦しみなんだ。


 歯を食いしばり、もう振り返るなと自分に言い聞かせた。予定通り、適当な理由をでっち上げて、あいつと別れようとする。


「誕生日のお祝いが、中止になった……?」

「ああ。いろいろあってさ。とにかく、簡単には説明できねえんだ。聞かないでくれ」


 話を打ち切り、強引に別れを告げた。


 篠原とすれ違う……

 続いて、犯人とすれ違う……


 そのとき、横目で相手の様子を窺った。

 未来の報道で、同じ学校のやつだとは知っていた。だけど、これから事件を起こそうってときに、制服を着てくるほどバカじゃないらしい。

 俺と同じくらいの歳なのに、その顔には、追い詰められたような表情が浮かんでいた。


 どうして篠原を襲うんだ?

 自分の意思なのか。

 それとも、誰かに頼まれたのか。


 今も、犯人の動機はわからない。

 だけど、それは大事なことじゃないのかもしれない。

 少なくとも、俺の知る未来では、篠原はこの不幸を乗り越え、自分の人生を歩んでいた。

 それで……十分なんじゃないか?


 大きく息を吸い、余計な義理人情を押し殺して、帰り道を歩き始めた──


「……?」


 違う。

 何かがおかしい。


 俺は振り返り、目を見開いた。

 薄暗い街灯の明かりに、男の手にある「武器」が見えた。


(ナイフ……じゃない?)


 そう。

 男が持っていたのは、ナイフじゃなかった。

 細長いというより、L(・)字(・)に(・)近(・)い(・)形(・)をしている。


 何度かまばたきをした。見間違いかと思った。

 俺と同い年くらいのやつが、どこでそ(・)ん(・)な(・)も(・)の(・)を手に入れたんだ?

 それに、女子高生一人を相手に、そこまでする必要があるのか?


 もう一度、ルビーを見た。どういうことか、教えてほしかった。

 だけど、あいつも慌てた様子で首を振るばかりだった。何もわからないらしい。


 くそ。どうなってんだ?

 本来なら、篠原はナイフで襲われ、顔を切られるはずだった。

 なのに、なんで……なんで、あいつは銃(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)る(・)ん(・)だ(・)?


 そう考えている間に、男が動いた!


 スライドを引いて弾を込め、拳銃を持ち上げる。ぎこちなく震える構えで、篠原の背中に狙いを定めた。


 おい、誰か教えてくれよ!

 ここからどう転べば、篠原の顔に刀傷が残る展開になるんだ?

 ナイフなんかない。あるのは銃だ。

 それで刀傷が残るっていうのか???


(くそっ、もう未来は変わってたのか……!)


 こいつの目的は、最初から顔を傷つけることじゃない──!


「広志さん!?」


 慌てるルビーの横を駆け抜け、引き金を引こうとする犯人に飛びかかった──


 パンッ!


 銃声が耳を震わせ、鼻を刺す臭いが辺りに広がった。


「い、嫌……!」


 恐怖で固まった委員長は、腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。いつものあいつらしくない、情けない顔をしている。


 俺は平静を装って立ち上がった。

 顔には笑みを浮かべていたけど、頭の中ではひたすら悪態をついていた。


 うおおお、くそくそくそくそ! 撃たれたあああ~~~!


 傷ついた右肩を見て、目玉が飛び出すかと思った。


 仕方ねえだろ!? 高橋広志はアクション映画の主人公じゃないんだ。

 格好よく撃たれるなんて、できるわけねえだろうが!


「ひ、広志さん! 当たった! 撃たれちゃったよおおお~~!」

「うるせえ、わかってるよルビビビィ~~~!」


 どうやら俺も、完全にパニックになっていたらしい。人前だってのに、ピンクツインテールに返事をしちまった。


 背後にかばった委員長は、地面に座り込んだまま、細い体を震わせていた。

 一方、撃った男も大して変わらない。人に弾を当てたという事実に顔を引きつらせ、銃を握った右手をがたがた震わせている。

 俺だって、膝の震えを抑えるだけで精いっぱいだった。人を笑う資格なんてない。


 おかしな話だ。

 ルビーを含めて四人。立場はそれぞれ違うのに、全員、同じように緊張して震えている。


 やがて、最初にその膠着を破ったのは、銃を持った男だった。


「ど、どけ!」

「!!」

「誰だか知らないけど、お前には用はない! おとなしくどけば、何も……何もしないって、約束する……!」


 俺は唾を飲み込み、恐怖を押し込めて、引きつった笑みを浮かべた。


「あ、あんちゃん……ずいぶん珍しいおもちゃ持ってんじゃねえか。通販で買ったのか? それとも、誰かにもらったのか?」

「……! ……!」

「そんなにビビってるってことは、自分からあいつを襲おうと思ったわけじゃないんだろ? 誰にやれって言われた? 何のために?」


 男が銃を上げた。

 底の見えない銃口が、俺の眉間をまっすぐ向く。


「き、聞こえなかったのか!? 早くどけ! でないと……でないと……!」

「あ、あんちゃん、落ち着こうぜ! 悪気はないんだって~!」


 痛みをこらえ、両手を上げて降参の姿勢を取った。


 十七年の人生で、暴力にさらされたことは何度もある。だけど、ここまで怖いのは初めてだった。

 いじめが大嫌いで、自分から揉め事を起こしては、危険な目に遭ってきた。

 当然、多勢に無勢でやられることも多かった。このまま殴り殺されるんじゃないかと、思ったことさえある。


 それでも、引き下がったことはなかった。

 狂犬みたいに、一人でも多く噛みついてやろうとした。

 あの命知らずな勢いは、意地と、頭に上った怒りから来ていたのだ。


 ──だけど。


 今は、あのときよりずっと危険だった。

 怒るどころか、頭の中は恐怖で埋め尽くされている。


 目の前にあるのは、暴力じゃない。死だ。


 生きるか死ぬかを、他人に握られるって、こういう感覚なのか?

 あいつがその気になって、ほんの少し指を動かすだけで、俺の頭は吹っ飛ぶ。


 くそ。

 ラノベの主人公って、みんな化け物なのかよ?

 なんで生きるか死ぬかって場面で、平然と悪役に説教なんかできるんだ?

 こっちは怖くて漏らしそうなんだぞ!


「そ、そんなに言うなら、恨むなよ……!」


 男は銃口をこちらへ向けたまま、追い詰められた顔で言った。


「誰だって、俺と同じ立場になったら、こうするんだ……!」

「あ、あんちゃん、話せばわかるって! 自分で自分を追い込むなよ! 人を殺したら刑務所行きだぞ? そこまでする価値があるのか!?」

「どうせ、もう行き場なんかねえんだよ! 親父は闇金に借金して、そのまま逃げやがった! ヤクザが家まで取り立てに来て、仕事を手伝えば借金を帳消しにしてやるって言ったんだ。俺には、面倒を見なきゃならない家族がいるんだよ。そいつらを守るためには、やるしかねえだろ!!」

「ヤクザ……?」


 驚いた。

 こいつにやらせているのは、ヤクザだったのか。


 その瞬間、頭の中でいくつかの考えがひらめいた。真相の糸口をつかんだ気がした。


 変わった未来。

 霞。

 喧嘩。

 ヤクザ──


 情報が繋がり、事件の全体像が浮かび上がる。

 だいたい、何が起きているのかわかった。


 俺と同じくらいの歳の男は、自分を奮い立たせるように叫び続けながら、ゆっくりと引き金に力を込めていた。


 ルビーが飛んでいき、止めようとする。

 だけど、霊体のあいつにはどうにもできない。振り回す拳は、すべて男の体をすり抜けた。


 銃口から火が噴き出す、その寸前──


 俺は思いつくままにくるりと回り、敵に背中を向けた。


「な、何してるんだ!? 本当に撃つぞおおお!」


 相手が面食らった。


「ふふ……ふふはははは……本当に撃つのか、あんちゃん?」

「何……?」

「この構えを見ても、まだわからないのか? 俺の正体が。ははは!」


 戸惑う敵の前で、俺は背筋でも見せつけるかのように、堂々と背中をさらす。

 左手を右の腰に回し、右手を目の前へ掲げ、『ジョジョの奇妙な冒険』のDIOの有名なポーズを決めて、威圧感を放った。


挿絵(By みてみん)

(※生成AIを使用して制作した挿絵です。)


 何?

 俺は一体何をしてるんだって???


 俺が知るわけねえだろうが!

 とにかく、何とかハッタリで奴をビビらせるんだよ!


「お、お前、まさか……!」


 男は銃を下ろし、震える指で俺を指した。


「お前も、ジョジョファンなのか?」

「何? お前も……?」

「ああ。第三部からハマったんだ。新しく出てきたスタンドってシステムが面白くてさ。波紋を使う大ざっぱな戦い方から変わって、すごく新鮮だった。うまい路線変更だったよな」

「まあ、波紋の戦いは、ちょっと単調だったかもしれねえけど、第二部のバトルもすげえ面白かったと思うぜ。ジョセフの、ふざけてるくせに正義感が強いところが好きでさ。実は、密かに憧れてんだよな」


 そうして、俺たちはその場でジョジョ談義を始めた。

 相手は銃を握り、俺は肩から血を流している。

 加害者と被害者なのに、道路の真ん中で、我を忘れて語り合った。


 へへ。やっぱりな。

 ジョジョ好きに悪い奴はいないんだよ。


 篠原は無言で俺たちを見ていた。ルビーは隣で怒鳴っている。


「漫画の話なんかしてる場合か! このバカ人間──!」


 やがて、サイレンの音が聞こえ、俺たちの会話は途切れた。パトカーが近づいてきているらしい。


「お、お前、ジョジョファンのふりして、俺を騙したな……!」


 男が激怒した。


「騙してねえよ! 本当にファンなんだって!」


 実は、通報したのは俺じゃない。篠原だ。

 さっき、篠原がスマホを取り出すのが見えたから、時間を稼ごうと思った。それで、妙なポーズを取って、注意を引いたのだ。

 まさか、ネタが通じるとは思わなかったけど。ちょっと感動した。


 引っかかったと気づいた男は、一歩ずつ後ずさり始めた。


 もちろん、逃がすつもりはない。俺は飛びかかり、押さえ込もうとした。

 だけど、片腕しか使えないせいで、なかなかうまくいかない。


 男は必死にもがき、何度も銃口を俺に向けた。引き金を引かれたら、そのまま倒れて動かなくなっていたかもしれない。


 だけど、あいつは撃たなかった。まだ、良心が残っているのだ。

 それがわかったからこそ、俺も危険を承知で組みついた。


 サイレンが大きくなるにつれ、俺たちの取っ組み合いも勢いを失っていった。最後は力尽き、二人とも道路に仰向けに倒れ込んだ。

 男も、ようやく銃を手放した。


「お前には、『黄金の精神』があるんだな……」


 息を切らしながら、男が言った。


「黄金の……精神?」

「第四部で、ジョセフが言ってたやつだよ……仲間や、何の罪もない人を守るためなら、自分を犠牲にすることもいとわない決意と覚悟。お前、いつも人のために立ち上がってるんだろ?」

「…………」


 まだジョジョの話をするのかよ。こいつ、筋金入りだな。


「それに比べて、俺は金と力に屈した雑魚でしかない。はは……ヒーローになれないことくらい、わかってるよ」


 男は目を伏せ、自嘲するように笑った。

 俺は満天の星を見上げ、口を開いた。


「そう言うなよ、あんちゃん」

「……?」

「借金を返して、家族を守るために、人に使われて、こんな危ないことまでしようとしたんだろ……家族のヒーローになろうとしたんじゃねえか? やり方は間違ってるけど、自分を犠牲にしようとするその気持ちは、見方によっちゃ、黄金の精神にも負けてねえんじゃないか?」

「……!」


 俺の言葉を聞くと、あんちゃんは声を詰まらせた。

 へえ。俺、案外、人に語りかける才能があるのかもな。


「警察に全部話せよ、あんちゃん。きっと、誰かが助けてくれる。受けるべき罰を受けたら、もう一度やり直せばいい。輝かしい人生が待ってるって」

「お前の腕を撃ったんだぞ。恨まないのか……?」

「いちばん悪いのはあんたじゃない。あんたにやらせたやつだ。誰に言われてやったのか、教えてくれないか?」

「…………」


 もう隠す理由もないと思ったのだろうか。男は少しためらったあと、自分の知っていることを話した。

 俺が考えていたことと、ほとんど同じだったから、別に驚きはしなかった。


「刑務所を出たら、またジョジョの話、してもいいか?」


 星空を見上げたまま、男が言った。


「いいぜ」


 俺も星空を見上げたまま、答えた。


 不思議なことに、こいつのことが少しも嫌いじゃないと気づいた。


 犯人を、ずっと憎んでいた。

 一周目では、こいつが篠原を傷つけ、顔に消えない傷を残した。あいつが笑いものにされる原因を作ったのだ。

 だけど、事情を知った今、こいつにも苦しい事情があったのだとわかり、恨みは消えていた。


 不思議な感覚だった。

 読み終えた本をもう一度めくって、気づかなかった伏線を見つけたような。


 神様が「もう一度」の機会をくれたおかげで、俺はこんなにも多くの裏事情を知ることができた。

 あの五年間に、今回みたいに誰かが裏で糸を引いていた出来事は、いったいどれだけあったんだろう?


 わからない。

 ただ、この高橋広志の人生は、ずっと前から誰かの手に落ち、操られていたのだ。


「…………」


 警察が到着し、犯人は逮捕された。


 スマホが鳴った。


 霞からだった。




~第五章 ジョジョ好きに悪い奴はいない(完)~

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