EP.17 特別な愛。三百三回目の別れ話
「この使者様の提案を受け入れないなら、あとは自分で考えてね?」
そう言い残すと、ルビーはもう知恵を貸さないと宣言し、見物に徹することにしたらしい。
だけど、あいつを責めるつもりはない。
実際、解決策は出してくれた。
ただ、俺が頑固で、それを受け入れようとしなかっただけだ。
「広志くん、やっと出てきた!」
トイレを出ると、霞が嬉しそうに迎えてくれた。
十数分離れていただけなのに、久しぶりに帰ってきた飼い主を見つけた子犬みたいに、待ちきれない様子ですり寄ってくる。
ぞっとしたけど、刺激しないよう、おとなしく腕にくっつかせておいた。
朝の日差しが、廊下全体に降り注いでいる。
あと数分で朝自習が始まるからか、廊下に生徒の姿はほとんどなかった。
霞は幸せそうに俺の肩に頬をすり寄せた。髪から漂う香りが鼻先をくすぐり、俺の心まで揺さぶる。
今でも、子犬みたいに甘えてくるこの女と、俺を殺したあいつが、どうしても重ならなかった。
「そうだ、広志くん。聞いてもいい?」
霞は腕を離すと、天使みたいに軽やかな足取りで俺の前へ回り込んだ。
「今日が何の日か、知ってる?」
「……何?」
「今日は何の日でしょう~?」
にこにこ笑いながら、両手を後ろに回して少し身をかがめ、俺の顔を下から覗き込んでくる。
俺は唾を飲み込み、目をぱちぱちさせた。
……やべ。今日って何の日だ?
誰か、この問題の正解を教えてくれないか?
俺がぽかんとしていると、霞は唇を尖らせ、頬を膨らませた。
「む~。広志くんのバカ。こんなに大事な日なのに、自分で忘れちゃうなんて」
「……」
「でも、いいよ。今日は一日、ゆっくり考える時間があるからね~♥」
すぐに機嫌を直すと、駆け寄ってきて、思いきり抱きついてきた。
本当に、力いっぱい。
周りの目なんてお構いなしに、ぎゅうぎゅうと……
数メートル先で見ていた篠原まで、呆気に取られた顔をしている。
「おい、霞……」
「『かすみん』って呼んで」
「……かすみん。とりあえず離してくれ。みんな見てる」
複雑な気持ちで目をそらした。
霞は甘く微笑むと、顔を上げ、愛情のこもった目で俺を見つめてきた。
「じゃあ、私も『ヒロ』って呼んでいい?」
「……な、何?」
「私もあだ名で呼びたいんだもん。ね、いいでしょ?」
「…………」
危うく、その場で腰が抜けるところだった。
ヒ、ヒヒヒヒ、ヒロ~~~~~~!?
やめろおおおおお────!
その呪われたあだ名で呼ばないでくれえええええ~~~~~~!!!!
「やややや、やっぱやめとこうぜ……ははは、恥ずかしいし……今まで通りでいいって……」
「え~。でも、こう呼びたいんだもん。駄目?」
「………………」
「じゃあ、決まりだね、ヒロ!」
──システム通知:称号「ヒロ」を獲得しました。
眉がぴくぴく引きつって、まったく笑えなかった。
対照的に、霞は今まででいちばん晴れやかな笑顔を浮かべ、もう一度俺を抱きしめた。
「ねえねえ、ヒロ。一つ、聞いてもいい?」
「な、何だ?」
「昨日、私が風邪で家で休んでたとき、ヒロは誰かと遊んでたの?」
「…………」
表情が凍りついた。
体温が急降下する。
「遊んでいた」とまでは言えないけど、昨日の放課後、確かに俺は、ある女子と一緒に歩いていた。
冷や汗をかく俺の前で、霞は笑みを絶やさない。だけど、その体からは、妙な威圧感が広がっていた。
俺を抱く腕に、さらに力がこもる。逃がさないとでもいうように。
「べ、別に、誰かと遊んでたわけじゃ……」
「本当?」
「本当だ」
「絶対? 嘘ついてない?」
「……わかった。正直に話す。昨日、お前が風邪で休んだから、先生が今日も来られないんじゃないかって心配してたんだ。それで、委員長と俺で、お前んちに校外模試の申込書を取りに行った。ついでに具合も見てこいって。それだけだよ」
圧に耐えきれず、結局、昨日のことを全部話してしまった。
「申込書なんて……催促しなくてもいいのに。ヒロが申し込むなら私も申し込むし、ヒロが受けないなら、私も受けないよ」
「……」
「それで? どうして二人で行ったの?」
霞は首をかしげ、潤んだ大きな目を向けてきた。本気でわからないらしい。
「それって、委員長さん一人の仕事だよね? なのに、どうしてヒロも一緒だったの?」
言葉を重ねるほど、声が冷たくなっていく。その冷たさに、俺は身震いした。
うおおお、くそくそくそ!
普通に質問されてるだけなのに、なんでこんなに怖えんだよおおお!
そういえば、刺し殺されたときも、こんなふうに体をくっつけてたんじゃなかったか???
おい、こいつ、もうドライバーを用意してるんじゃねえだろうな!?
「ヒロ、どうしたの? どうして黙ってるの?」
「……!」
「どうして最初は隠したの? どうして私が聞くまで、本当のことを言ってくれなかったの?」
「……! ……!」
「ヒロ……もしかして、私に黙って──」
「私が、一緒に来てほしいと頼んだの」
前から響いた厳しい声が、俺を救ってくれた。
篠原が腕を組み、背筋を伸ばして立っていた。誰にも負けない気迫で、堂々と。
「……」
霞は返事をせず、俺の胸に顔を埋めた。
わざと無視されたとわかり、委員長の顔に一瞬、怒りが浮かんだ。
だけど、すぐにそれを抑え、冷静さを取り戻す。
「高橋は、あなたに後ろめたいことなんて何もしていないわ、一ノ瀬さん」
「……」
「私が、あなたと二人きりでどう話せばいいかわからなかったから、ついてきてもらったの」
「……」
「それと、連絡先に嘘の住所を書くのはやめて。迷惑でしかないわ!」
/////////
危ない、危ない。
篠原が助けに入ってくれなかったら、本当に廊下でビビって漏らしていたかもしれない。
それにしても、今日は何の日なんだろうな?
付き合い始めた記念日? いや、まだ三日目だぞ。
霞の誕生日? それも違う。あいつは五月三日生まれだ。
俺は席に座り、頭を抱えて考え込んだ。
すごく大事で、絶対に忘れちゃいけないことだった気がする……
くそ。いったい何なんだよ?
ルビーは、悩む俺を無言で見ていた。
答えを知っていそうな気がするけど、バカを見るような顔をしたまま、何も言わない。
結局、考え込んでいるうちに一日が過ぎた。
放課後になっても、答えはわからないままだった。
「ねえ、高橋」
チャイムが鳴ると、委員長がすぐに俺の席へやってきた。
どうしたことか、視線を泳がせ、もじもじしている。何か言いたげな様子だった。
何だ? 一緒にトイレでも行きたいのか?
聞くより先に、霞が駆け寄ってきて委員長を押しのけ、俺の腕に抱きついた。
そのまま、強引に教室の外へ引っ張り出される。
文句を言おうとした途端、霞は鼻先が触れそうな距離まで顔を寄せ、甘い息とともに囁いた。
「駄目だよ、ヒロ♥」
「……?」
「彼女がいるのに、ほかの女の子から誕生日をお祝いしてもらうなんて。そういうのは、駄目なんだよ♥」
/////////
ああ。ルビーがバカを見るような目を向けていた理由が、ようやくわかった。
今日、俺の誕生日だったのか。すっかり忘れてた……
そうだ。俺の誕生日は、霞と付き合い始めてから、ちょうど三日目だった。
付き合い始めた記念日と誕生日が二日しか違わないから、未来の俺たちは、いつもまとめて祝っていた。そのせいで、うっかり忘れてしまったのだ。
「普通、自分の誕生日って忘れるかな? もう、ヒロってば……でも、そんな忘れっぽいところも好き♥」
霞はテーブルの向こうに座り、キャンドルの明かり越しに、甘い眼差しを向けていた。
誕生日を祝うために、前もってレストランを予約してくれていたらしい。俺はそのまま連れてこられた。
前に行った眺めのいい店とは違い、ここには外の見える窓がない。薄暗い照明が、テーブルの上の炎を際立たせていた。
クラシカルな内装。ゆったりと流れる音楽。声をひそめて語り合う客たち。
どこを見ても、高級レストランらしいロマンチックな雰囲気が漂っている。
もっと普通の付き合いがしたいと、この前言ったばかりなのに、またこんな高い店へ連れてこられた。
俺の話なんて、まるで聞いていなかったらしい。
しかも、記憶によれば、あいつはこの先もずっとこんな調子だ。何も変わらない。
それでも、どうしても嫌いになれないんだよな……
眉を寄せ、黙ってナイフとフォークを動かした。
高そうなステーキを口に運んでいるのに、味がしない。
テーブルには、一冊の飛び出すアルバムが置かれていた。何週間もかけて作ってくれたものらしい。
ページを開くと、小さな花やハートが次々と飛び出した。白いうさぎまでいる。
おとぎ話の中に入り込んだみたいで、細かなところまで丁寧に作り込まれていた。
ページの中央には、付き合う前に撮った、俺と霞の写真が立ち上がっている。
場所は学校。撮ったのは霞だ。
不意にカメラを向けられ、あいつと一緒に写真に収まっていた。
俺は驚いて口をぽかんと開け、口元には飯粒までつけている。
実に間抜けな顔だった。
(※生成AIを使用して制作した挿絵です。)
不思議なことに、その日のことは、今でも覚えていた。
初めて霞の手作り弁当を食べた日だ。
うますぎて、こっそり写真を撮ろうとしていたあいつに気づかなかった。
食い終わったあとには、無神経にもこんなことを言った。
『へえ。金持ちのお嬢様のくせに、意外と料理うまいんだな。うちの料理人にならねえ?』
すると、あいつは顔を真っ赤にして、しどろもどろになってしまった。
あとで知ったけど、告白どころか、プロポーズだと思ったらしい……
いやいや。
俺はただ、素直に褒めるのが苦手で、つい余計なことを言っちまっただけだ。ほかに意味なんてねえよ。
アルバムをめくるたびに、いろんな場面が頭をよぎる。
胸の中が、少しずつ温かくなっていった。
──俺が霞を憎めないのは、あいつのすることが、すべて愛から来ているとわかっているからだ。
愛。
憎しみじゃない。愛だ。
俺を愛しているから、金を使う。
俺を愛しているから、自分を傷つける。
俺を愛しているから、こんな手の込んだアルバムを作る。
──俺を愛しているから、俺を殺した。
その想いを受け止めきれなくても、あいつの気持ちだけは否定できない。
あいつが俺の敵だったら……もっとひどい扱いをしてくれたら、どれだけよかっただろう。
そうすれば、心の底から憎めたのに。
俺を殺したことも、親父を悲しませたことも、妹を刑務所に入れることになったのも、全部憎めたのに……
なのに、あいつはこんなにも俺に尽くしてくれる。
すべてを投げ出して愛してくる相手を、どんな気持ちで憎めばいいんだ?
それが、俺の矛盾だった。
ルビーの提案を受け入れられない理由でもある。
あの方法なら、確かに別れられる。
だけど、それは逃げだ。
無責任な逃げでしかない。
高橋広志は、そんな逃げ方を選べない。
霞が本気で想ってくれている以上、俺も最低限の誠意は見せなきゃいけない。
そうでなければ、自分が納得できなかった。
「霞。聞いてほしいことがある」
重い表情で、組んだ両手をテーブルに置いた。真剣だと伝わるように。
霞は不満そうに唇を尖らせた。またあだ名で呼ぶのを忘れたことに、文句があるんだろう。だけど、俺の顔を見て、黙って耳を傾けてくれた。
「お前がしてくれたこと、全部、感謝してる。最初の日のデートも、今日のアルバムも。付き合う前に、一緒に過ごしてくれた時間も。全部だ。ありがとう」
改まって頭を下げた。
「な、何、急に……好きだから、してるだけだよ」
霞は照れたように手を振った。
俺は顔を上げ、座り直した。表情を引き締め、目の前の彼女をまっすぐ見つめる。
キャンドルの炎が揺れ、明かりと影が交互にその顔を照らしていた。いつもとは違う、艶やかな美しさだった。
高級レストランだからか、霞は肩の出たドレスに着替え、口紅までつけていた。白い首元を金のアクセサリーが飾り、鎖骨や肩の線を引き立てている。
大人びていて、綺麗で、とても高校生には見えない。
あいつは──こういう場にも慣れているんだろう。
だけど、俺は違う。
何年付き合っても、こんな場所での食事には慣れなかった。
スーツは息が詰まりそうなくらい窮屈で、ズボンもきつく、蒸れて仕方ない。
暑いし、息苦しいし、いっそズボンを脱ぎたくなる──
そう。高橋広志は、こんな品のない男だ。
霞は、一体こんなやつのどこがよかったんだろう?
あいつが嫌いなわけじゃない。
ただ、俺たちは本当に合わないと気づいただけだ。俺じゃ釣り合わないと言われてもいい。
あいつの愛は受け止めきれないし、あいつと同じところには立てない。
恋愛観も、金銭感覚も違う。
無理に一緒にいれば、俺が苦しくなるだけだ。
だから、俺は口を開いた。
あいつの瞳を見つめて、言った。
「しばらく、離れてみないか?」
「…………」
霞はしばらく固まったあと、まばたきをした。
「ヒロ……?」
「なんていうか……今さら話が違うって思うだろうけど、霞。俺たち、まだ付き合って三日目だろ? 考えたんだ──俺、誰かと付き合う覚悟もできてないのに、軽い気持ちでお前の告白を受け入れちまったんじゃないかって」
「…………」
「だから、いったん告白はなかったことにして、友達に戻って、少し頭を冷やせないか?」
これが、ルビーの提案を断ったあと、俺なりに出した答えだった。
「付き合ってから別れる」んじゃなく、「付き合っていなかったことにする」。
言葉遊びみたいだけど、まだ三日目なら、「ちゃんと考えていなかった」を理由に、友達へ戻れるかもしれない。
そうすれば、霞もそこまで何かを失ったようには感じないんじゃないか?
俺の話を聞くと、霞の目から光が消えた。
揺れるキャンドルの明かりに照らされた姿が、妙に不気味だった。
「私……よく、わからないんだけど」
「…………」
「それって……別れ、たい……ってこと?」
「…………」
ルビーをちらりと見た。あいつも、緊張した顔で俺を見ていた。
見物に徹すると決めたとはいえ、俺が失敗すれば、あいつまで巻き込まれる。今も、俺たちは一蓮托生なのだ。
次の答えが、肝心だ──
「それは……お前がどう受け取るかによると思う」
「……」
「俺が言ったことをひっくり返そうとしてるのは、わかってる。一度はいいって言ったのに、今さらだけど……まだ付き合って三日目だろ。関係が深くなる前に、自分の気持ちをちゃんと考えたいんだ。俺、お前への気持ちは、恋愛感情より友情のほうが強いのかもしれない……」
できるだけ傷つけないように、言葉を選んだ。
今さらだけど、俺って結構口がうまいんじゃね? 委員長をからかってるうちに鍛えられたんだろうか。
だけど、これは本心でもあった。
未来の五年間を思い返す。霞と付き合っていた時間より、友達だった頃のほうが、ずっと楽しかった。
だから、何度も思ったのだ──時間を巻き戻せたらいいのに、と。
俺の話を聞いたあと、霞は長い間、黙っていた。
前髪が目元を隠していて、表情はよく見えない。ただ、肩が小さく震えているのはわかった。
「どうして……」
「……」
「私……何か足りなかった? ヒロのこと、ちゃんと大事にできてなかった……?」
まただ。
また、その言葉だ。
別れを切り出すたびに、霞は、自分の尽くし方が足りなかったのかと考える。
本当は言いたかった──まったく逆なんだ、と。
「お前のせいじゃない、霞。俺の問題なんだ。あんまり、自分を責めないでくれ」
「……」
「それに、恋人じゃなくなっても、友達ではいられるだろ? 寂しがらなくたって──」
「どのくらい?」
霞が、俺の言葉を遮った。
「ヒロの言う『しばらく』って、どのくらい?」
「……」
「答えて、ヒロ……私、そんなに長くは……我慢できない……」
「……わかった、霞。一か月にしよう」
よく考えた末に、そう答えた。
「一か月……?」
「ああ。その間は、いったん告白がなかったことにしてくれ。考えがまとまったら、俺がどうしたいか、ちゃんと伝える。それでいいか?」
──一か月。
それだけあれば、別れるショックも和らぐんじゃないか?
本当は、「しばらく離れて、二人の関係を考える」なんて建前だった。あいつと恋人に戻るつもりはない。
ただ、一か月の猶予があれば、少しは受け入れやすくなるんじゃないかと思っただけだ。
「……」
霞は黙ったままだったけど、肩の震えは止まっていた。
いい兆しだと受け取り、ほっと息をつく──
そのとき、あいつが不意に目を上げた。
ブラックホールみたいに底の見えない瞳が、俺を見つめる。
「ヒロ……ほかの子を好きになったりしないよね?」
「……な、なんでそう思うんだ?」
「勘」
「勘?」
「うん。私、そんなにいい女の子じゃないから。ヒロに見向きもされなくなっちゃうんじゃないかって、いつも心配なの。それに──」
「……それに?」
「委員長さんと話してるとき、ヒロ、すごく楽しそうだから……見てると、嫌な気持ちになっちゃうんだ」
そっと目を伏せ、頬杖をついて息を吐いた。
揺れるキャンドルの明かりと、物憂げな表情。
いつもの無邪気さが消えた霞は、驚くほど艶やかで、目をそらせないほどの魅力があった。
「やっぱり、私って嫌な女だよね?」
「……」
「だから、いらなくなっちゃったんだ……」
その目に涙が浮かんだ。捨てられた子犬みたいに、弱々しくて、哀れだった。
おいおい。お前がいい女じゃないなら、どんな女がそうなんだよ?
慰めたかったけど、自分の立場を考えて、口を閉じた。
そうだ。今の高橋広志は悪者だ。
悪者なら、最後まで悪者を貫かなきゃいけない──
……あれ?
「???」
おかしい。
なんでこの気持ちの流れ、こんなに覚えがあるんだ?
別れを切り出す。
霞が泣く。
慰めたくなるけど、同情を押し殺さなきゃいけなくなる……
刺されたときの別れ話と、同じじゃないか?
「うっ……!」
頭が痛い。
激しい頭痛が襲ってきた。
既視感をきっかけに、大量の記憶が頭の中へ流れ込んでくる!
霞に腹を裂かれた瞬間から、映像が巻き戻り始めた。
大学卒業の頃の同窓会へ……
大学に入学した日へ……
高校を卒業した日へ……
そして、今の高校二年の三学期まで──
「!!」
目を見開き、はっと息を呑んだ。
──思い出した。
全部、思い出した。
委員長の篠原翼が襲われた日付も。
俺があいつの傷に罪悪感を抱いていた理由も。
「…………」
それが──
全部、今日起きたことだったからだ!
~第四章 封ざされた未来(完)~




