第7話 高等部3年生の訪問
放課後。
ティーサロンは五人がアフタヌーンティーを囲み、穏やかな時間を過ごしていた。
「マリア、そのケーキ美味しそう!」
葵が身を乗り出す。
「星宮家直伝のケーキです。」
「えぇ!? ケーキまでオリジナルなの!?」
「マリア様に喜んでいただきたいので。」
翡翠が静かに答える。
「すごーい!」
葵が目を輝かせる。
その様子を見て、小百合も優しく笑った。
「今度、みんなでパーティーできたら楽しそうよね。」
「賛成!」
葵が元気よく手を挙げる。
和やかな空気がティーサロンを包んでいた。
その時だった。
ティーサロンの扉が開く。
高等部三年生が3人、静かに教室へ入ってきた。
空気が一変する。
雅は生徒会の仕事で席を外している。
教室にいた五人は立ち上がった。
「ごきげんよう。お姉さま方、何か御用でしょうか。」
瑠璃が静かに尋ねる。
先頭に立つ三年生は、まっすぐマリアを見る。
「天堂寺マリアさん。」
「少し、お話をよろしいかしら。」
「はい。」
マリアは穏やかに頷いた。
教室の空気が静まり返る。
三年生はゆっくり口を開いた。
「あなたは転入初日でルナになられたそうね。」
「はい。」
「……どう思っているの?」
突然の問いだった。
「学院のことも知らない一年生が、学院の象徴になることを。」
マリアは少し考え、静かに答える。
「私自身も、最初は辞退いたしました。」
「ですが、学院長先生のお言葉を受け、お引き受けいたしました。」
その落ち着いた返答に、三年生は表情を変えない。
「でも結局、お受けになったのでしょう。」
「名家である天堂寺家のお嬢様だから。」
「学院長先生も期待されたのでしょうね。」
マリアは何も言い返さなかった。
「そのように思われても仕方ありません。」
ただ、それだけを答える。
教室に重い空気が流れる。
しかし三年生の一人が、小さく息をついた。
「……やっぱり。」
「最近の学院は一年生ばかり特別扱いね。」
「ルナも一年生。」
「生徒会長も一年生。」
「こんなこと、今までなかったわ。」
その言葉に、空気がさらに張り詰める。
マリアの瞳がわずかに揺れた。
「前生徒会長のお気に入りなら、生徒会長になれる。」
「名家ならルナになれる。」
「学院の伝統も変わってしまったのね。」
その瞬間だった。
「違う!」
教室中に日和の声が響いた。
全員の視線が日和へ集まる。
「雅もマリアもそんな人じゃない!」
日和は三年生を真っ直ぐ見つめる。
「何も知らないくせに勝手なこと言わないで!」
三年生の表情が険しくなる。
「朝比奈さん。」
「言葉を慎みなさい。」
「嫌!」
日和は一歩前へ出た。
「そんなに悔しいなら、自分たちが雅より立派になればよかったじゃない!」
「日和!」
瑠璃が止める。
しかしもう遅かった。
「そんなだから学院長にも選ばれなかったんでしょ!」
教室が静まり返る。
三年生の一人の表情が変わる。
「……今、何て言ったの?」
怒りに任せ、一歩踏み出す。
一歩、また一歩と日和へ近づく。
日和も負けじと睨み返した。
「何度でも言うわ。」
「雅の方が──」
その手が勢いよく振り上げられた。
「日和!」
葵の叫びが響く。
だが、その前に一人の少女が静かに割って入った。
「マリア!?」
パシッ――。
乾いた音が教室に響く。
マリアの白い頬が、横へ流れる。
教室中が凍りついた。
誰も動けない。
叩いた三年生も、自分の手を見つめたまま固まっている。
「……私は。」
マリアはゆっくり顔を上げた。
頬は赤く染まっていた。
それでも、その瞳は少しも揺れていない。
「私のことを、どう思われても構いません。」
静かな声だった。
「ルナとして未熟だと思われても。」
「家柄だけだと思われても。」
「それは、これからの私の行動でお示しいたします。」
ティーサロンには、息を呑む音だけが響く。
しかし。
マリアは三年生を真っ直ぐ見つめた。
「ですが――。」
その一言に、空気が変わる。
「夜桜雅さんを、そのように侮辱することだけは、おやめください。」
その声には怒鳴るような強さはない。
それでも教室中を貫くような強い意志が宿っていた。
「雅さんは、ご自身の立場を一度も誇ったことはありません。」
「誰よりも学院のため、生徒のために尽くしておられます。」
「その姿を見もせず、噂だけで否定することは……。」
一拍置き、静かに続ける。
「雅さんにも、推薦してくださった前生徒会長にも、大変失礼です。」
その言葉に、三年生たちは何も返せなかった。
教室には、重い沈黙だけが流れていた――。
その時――
「……何をしているの。」
静かで、それでいて凛とした声が響いた。
全員が一斉に振り返る。
入口には、生徒会長・夜桜雅が立っていた。
その隣には、一人の高等部三年生。
艶やかな黒髪を肩まで流し、落ち着いた雰囲気を纏う少女。
高等部三年――神崎香織だった。




