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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第55話 門限

「ごめんね。」


日和はスマートフォンをしまい、少し申し訳なさそうに笑った。


「少しだけ電話してきてもいい?」


「もちろん。」


マリアが優しく頷く。


「ゆっくりで大丈夫よ。」


「ありがとう。」


日和は席を立ち、店の外へ出た。


⸻


商店街の人混みを少し離れた場所。


日陰になった路地で、日和はジョンへ電話をかける。


「もしもし。」


『お嬢。お楽しみのところ申し訳ございません。』


ジョンの落ち着いた声が聞こえる。


「どうしたの?」


『本日はお急ぎいただく必要はございません。』


『ですが、夕方までにはご帰宅できるようお迎えにあがります。』


日和は少し安心したように息をつく。


「分かった。」


『それまでの間、ご友人とのお時間をお楽しみください。』


「ありがとう、ジョン。」


電話を切る。


スマートフォンを見つめながら、小さく呟いた。


「こういうところは、本当に優しいんだから。」


少しだけ笑ってから、店へ戻っていく。


⸻


「おかえり。」


葵が大きく手を振る。


「ただいま。」


日和も笑顔で席へ着いた。


「大丈夫だった?」


雅が尋ねる。


「うん。」


「夕方までには迎えに来るって。」


「門限?」


葵が聞く。


日和は少し考えてから笑った。


「そんな感じかな。」


「じゃあ、それまで思いっきり遊ばなきゃ!」


「そうだね。」


六人は再び笑い合った。


⸻


かき氷を食べ終えた一行は、そのまま商店街を歩き始める。


雑貨屋。


和菓子屋。


古本屋。


気になる店があれば足を止め、また歩き出す。


「これ見て!」


葵がガラス細工を手に取る。


「かわいい!」


「本当ね。」


小百合も微笑む。


「夏らしくて素敵。」


雅は風鈴の音に耳を傾ける。


「涼しげな音だね。」


瑠璃は店先に並ぶ万年筆を興味深そうに眺めていた。


マリアはそんな五人を見渡し、自然と笑みがこぼれる。


⸻


夕方が近づき、空が少しずつ橙色へ染まり始める。


「そろそろかな。」


日和が時計を見る。


「うん。」


マリアも頷いた。


「今日はありがとう。」


「こちらこそ!」


葵は笑顔いっぱいに答える。


「次は花火大会!」


「約束だからね!」


「うん。」


日和は嬉しそうに頷いた。


「絶対行く。」


⸻


駅前で別れる時。


マリアはふと日和を呼び止める。


「日和。」


「ん?」


「無理だけはしないで。」


その一言に、日和は少し驚いたような顔をする。


やがて、ふわりと笑った。


「うん。」


「ありがとう。」


短いやり取りだった。


けれど、その言葉だけで十分だった。


日和は手を振りながら駅へ向かっていく。


その背中を見送りながら、マリアは静かに思う。


(笑っていても、一人で抱え込んでしまう。)


(だからこそ、私たちが支えたい。)


夕焼け空の下、それぞれが家路につく。


夏休みの思い出は、一つ、また一つと増えていく。


そして日和は、笑顔のまま朝比奈家へ帰っていった。


そこにはまた、「お嬢」としての日常が待っていることを知りながら。

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