↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/58

第54話 かき氷

夏の日差しが照りつける昼下がり。


駅前の商店街は、夏休みを楽しむ人たちで賑わっていた。


色とりどりの浴衣が店先を行き交い、風鈴の音が心地よく響く。


「こっちこっちー!」


一番先に手を振ったのは葵だった。


「日和ー!」


日和は息を切らせながら駆け寄る。


「ごめん、お待たせ!」


「大丈夫!」


葵は笑顔で日和の腕を取った。


「今日は思いっきり遊ぶよ!」


「うん!」


日和も自然と笑みを浮かべた。


⸻


商店街の奥にある老舗の甘味処。


店先には「天然氷」ののぼりが揺れている。


「ここ!」


葵が目を輝かせた。


「雑誌で見つけたんだ!」


席に着き、それぞれが好きな味を注文する。


いちご。


宇治金時。


マンゴー。


レモン。


そして日和は、迷った末に桃のかき氷を選んだ。


運ばれてきたかき氷は、どれも雪のようにふわふわだった。


「いただきます!」


一口食べた葵が目を丸くする。


「おいしいー!」


「本当。」


雅も優しく微笑む。


「口の中ですぐ溶けるね。」


「桃もすごく甘い。」


日和は嬉しそうに言う。


「これ、大正解。」


「一口ちょうだい!」


「いいよ。」


自然とスプーンを交換し合いながら、六人は笑い合う。


その光景は、自分たちの立場を忘れてしまいそうな、ごく普通の女子高生の夏休みそのものだった。


⸻


「そういえば。」


小百合が日和を見つめる。


「世界一周をするなら、最初はどこの国へ行きたいの?」


日和は少し驚いたあと、ふっと笑った。


「覚えててくれたんだ。」


「もちろん。」


マリアが頷く。


「約束したでしょう?」


日和は少しだけ照れながら答えた。


「一番最初はね……。」


「スイス。」


「え?」


葵が首を傾げる。


「意外!」


「どうして?」


日和は嬉しそうに話し始める。


「山も湖もすごくきれいで。」


「街並みも絵本みたいなんだ。」


「朝早く起きて湖を散歩して。」


「現地のパン屋さんで朝ごはんを買って。」


「それを食べながら景色を見るの。」


話しているうちに、日和の表情はどんどん明るくなっていく。


「それから記事を書くんだ。」


「その景色を知らない人にも伝わるように。」


マリアは静かに微笑んだ。


(日和は、やっぱりこの話をしている時が一番楽しそう。)


⸻


その時だった。


日和のスマートフォンが静かに震える。


画面に表示された名前を見た瞬間、日和の笑顔が少しだけ曇った。


ジョン


短いメッセージが届いている。


『お嬢。お時間をいただけますでしょうか。』


日和は画面を見つめ、小さく息をついた。


その様子に、瑠璃が気づく。


「何かあった?」


日和はすぐに笑顔を作った。


「ううん。」


「ちょっと家から連絡。」


そう答えたものの、その笑顔はどこか無理をしているようにも見えた。


マリアは何も聞かなかった。


ただ、そっと日和の様子を見守る。


夏空には白い入道雲が大きく広がっている。


楽しい夏休みは続いている。


けれど日和には、友人たちには見せないもう一つの世界が、今日も静かに待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。