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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第54話 かき氷

夏の日差しが照りつける昼下がり。


駅前の商店街は、夏休みを楽しむ人たちで賑わっていた。


色とりどりの浴衣が店先を行き交い、風鈴の音が心地よく響く。


「こっちこっちー!」


一番先に手を振ったのは葵だった。


「日和ー!」


日和は息を切らせながら駆け寄る。


「ごめん、お待たせ!」


「大丈夫!」


葵は笑顔で日和の腕を取った。


「今日は思いっきり遊ぶよ!」


「うん!」


日和も自然と笑みを浮かべた。



商店街の奥にある老舗の甘味処。


店先には「天然氷」ののぼりが揺れている。


「ここ!」


葵が目を輝かせた。


「雑誌で見つけたんだ!」


席に着き、それぞれが好きな味を注文する。


いちご。


宇治金時。


マンゴー。


レモン。


そして日和は、迷った末に桃のかき氷を選んだ。


運ばれてきたかき氷は、どれも雪のようにふわふわだった。


「いただきます!」


一口食べた葵が目を丸くする。


「おいしいー!」


「本当。」


雅も優しく微笑む。


「口の中ですぐ溶けるね。」


「桃もすごく甘い。」


日和は嬉しそうに言う。


「これ、大正解。」


「一口ちょうだい!」


「いいよ。」


自然とスプーンを交換し合いながら、六人は笑い合う。


その光景は、自分たちの立場を忘れてしまいそうな、ごく普通の女子高生の夏休みそのものだった。



「そういえば。」


小百合が日和を見つめる。


「世界一周をするなら、最初はどこの国へ行きたいの?」


日和は少し驚いたあと、ふっと笑った。


「覚えててくれたんだ。」


「もちろん。」


マリアが頷く。


「約束したでしょう?」


日和は少しだけ照れながら答えた。


「一番最初はね……。」


「スイス。」


「え?」


葵が首を傾げる。


「意外!」


「どうして?」


日和は嬉しそうに話し始める。


「山も湖もすごくきれいで。」


「街並みも絵本みたいなんだ。」


「朝早く起きて湖を散歩して。」


「現地のパン屋さんで朝ごはんを買って。」


「それを食べながら景色を見るの。」


話しているうちに、日和の表情はどんどん明るくなっていく。


「それから記事を書くんだ。」


「その景色を知らない人にも伝わるように。」


マリアは静かに微笑んだ。


(日和は、やっぱりこの話をしている時が一番楽しそう。)



その時だった。


日和のスマートフォンが静かに震える。


画面に表示された名前を見た瞬間、日和の笑顔が少しだけ曇った。


ジョン


短いメッセージが届いている。


『お嬢。お時間をいただけますでしょうか。』


日和は画面を見つめ、小さく息をついた。


その様子に、瑠璃が気づく。


「何かあった?」


日和はすぐに笑顔を作った。


「ううん。」


「ちょっと家から連絡。」


そう答えたものの、その笑顔はどこか無理をしているようにも見えた。


マリアは何も聞かなかった。


ただ、そっと日和の様子を見守る。


夏空には白い入道雲が大きく広がっている。


楽しい夏休みは続いている。


けれど日和には、友人たちには見せないもう一つの世界が、今日も静かに待っていた。

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