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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第52話 帰り道

武器庫を出ると、夕暮れの光が屋敷の廊下を茜色に染めていた。


気がつけば、長かった一日も終わりを迎えようとしている。


「もうこんな時間かぁ。」


葵が窓の外を見ながら呟く。


「楽しい時間って、本当にあっという間だね。」


「ええ。」


小百合も穏やかに頷いた。


「今日は、とても充実した一日だったわ。」


雅は日和へ微笑みかける。


「案内してくれてありがとう。」


「こちらこそ。」


日和は照れくさそうに笑う。


「来てくれて嬉しかった。」


瑠璃も静かに口を開く。


「今日は朝比奈家のことだけじゃなくて、日和自身のことも知ることができた。」


「来てよかったわ。」


その一言に、日和の頬が少しだけ赤く染まる。


「……ありがとう。」


⸻


玄関へ向かうと、黒田が待っていた。


「皆様、お帰りのお支度が整っております。」


黒田が一礼する。


ジョンも静かに頭を下げた。


「学院までお送りいたします。」


「よろしくお願いします。」


マリアたちも一礼を返す。


玄関の外へ出ると、朝と同じように黒いスーツ姿の組員たちが整列していた。


「「「お嬢。」」」


一斉に頭が下がる。


日和も軽く頷いた。


「今日はありがとう。」


その一言だけで、組員たちの表情が少しだけ和らぐ。


それを見た葵が、小さな声でマリアへ囁いた。


「ねぇ。」


「朝はすごく怖かったけど……。」


「今はちょっと印象が変わった。」


マリアも小さく微笑む。


「そうだね。」


「日和のことを大切に思っている人たちなんだって分かったから。」


日和はその言葉を聞き、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


⸻


車へ乗り込む前。


玄関の扉が静かに開く。


姿を現したのは、朝比奈玄十郎だった。


「お父様。」


日和が振り返る。


玄十郎はマリアたちへ静かに頭を下げる。


「本日は娘と過ごしていただき、ありがとうございました。」


「こちらこそ、お招きいただきありがとうございました。」


マリアが代表して礼を返す。


雅たちも続いて頭を下げた。


玄十郎は静かに頷く。


「また機会があれば、いつでも遊びにいらしてください。」


「はい。」


五人の返事が重なる。


玄十郎はそれ以上何も言わず、日和へ視線を向けた。


「日和。」


「はい。」


「よい友人を持ったな。」


その一言だけだった。


しかし日和には、それが父なりの精一杯の言葉だと分かった。


「……うん。」


自然と笑みがこぼれる。


⸻


車がゆっくりと門を出る。


大きな門扉が静かに閉まり、朝比奈家は少しずつ遠ざかっていく。


窓の外を見つめる日和へ、葵が笑いかけた。


「ねぇ日和。」


「今度はうちにも遊びに来てよ!」


「もちろん!」


「次はみんなのお家巡りだね。」


「それ、楽しそう。」


雅が微笑む。


「賛成。」


小百合も頷く。


「順番に回れば、夏休みが終わっちゃうね。」


瑠璃が珍しく冗談めかして言う。


車内に笑い声が広がる。


マリアはそんな五人の様子を見つめながら、静かに微笑んだ。


今日、日和は勇気を出して秘密を打ち明けた。


そして、夢も打ち明けた。


その二つを知ってもなお、誰一人として日和から離れることはなかった。


この一日はきっと、朝比奈日和にとって忘れられない夏の思い出になるのだった。

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