↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/58

第49話 秘密の部屋

「……本当はね。」


涙を拭った日和は、少し照れくさそうに笑った。


「みんなには見せないつもりだった場所があるの。」


「まだあるの?」


葵が首を傾げる。


「うん。」


日和は小さく頷いた。


「さっき通った重い扉、覚えてる?」


「ああ。」


瑠璃が静かに頷く。


「廊下の奥にあった扉ね。」


「そこ。」


日和は少しだけ視線を落とした。


「もう隠すこともなくなっちゃったし。」


「みんなには見ておいてほしい。」


マリアは優しく微笑む。


「行こう。」


その一言に、日和も小さく笑った。


「うん。」


⸻


一行は再び廊下を歩く。


やがて、あの重厚な鉄の扉の前へたどり着いた。


扉の両脇には、黒いスーツ姿の男たちが二人、静かに立っている。


日和の姿を見ると、二人は深く頭を下げた。


「お嬢。」


「ご苦労さま。」


日和が穏やかに応える。


ジョンが腰元から大きな鍵を取り出した。


ガチャリ。


重い錠前が外れる音が響く。


続いて、ゆっくりと扉が開いていく。


ギィ……。


重厚な音が廊下に響いた。


⸻


部屋へ足を踏み入れた瞬間。


葵が思わず息をのむ。


「……え。」


壁一面に並ぶ、数え切れないほどの武器。


拳銃。


ライフル。


散弾銃。


短刀や日本刀。


防弾チョッキや通信機器まで、整然と並べられている。


奥では数人の構成員が無言で武器の手入れをしていた。


日和たちに気付くと、全員が作業の手を止め、一斉に頭を下げる。


「お嬢。」


低く揃った声が響く。


「……。」


葵は言葉を失っていた。


雅も静かに辺りを見渡している。


小百合は驚きを隠せないまま、静かに武器へ目を向けた。


瑠璃は小さく息を吐く。


「これが……朝比奈組。」


日和はゆっくりと頷いた。


「うん。」


「ここは、武器庫。」


「組の武器は全部ここで管理してるの。」


その言葉に、部屋の静けさがより一層深く感じられた。


⸻


「怖い……?」


日和が恐る恐る尋ねる。


葵は武器を見つめたまま苦笑する。


「武器は怖い。」


少し間を置いて、


「でも。」


日和を見る。


「日和は怖くない。」


日和は目を丸くした。


「……ほんと?」


「うん。」


葵は笑った。


「だって、日和は世界の本を楽しそうに話してた日和だもん。」


「急に別人になったわけじゃないし。」


雅も穏やかに微笑む。


「私も同じ気持ちだよ。」


「ここを見ても、日和が優しい子だってことは変わらない。」


「ええ。」


小百合も頷く。


「ただ、あなたが背負っているものの大きさを知っただけ。」


瑠璃は腕を組みながら静かに言った。


「だから、一人で抱え込もうとしないこと。」


「私たちは友達なんだから。」


日和は唇をぎゅっと結ぶ。


「……みんな。」


目には再び涙が浮かんでいた。


「私、この部屋はあまり好きじゃないんだ。」


「小さい頃から何度も連れて来られて。」


「これはこういう武器だ、とか。」


「朝比奈組の歴史とか。」


「跡を継ぐ者として覚えなさいって。」


その声は、どこか寂しそうだった。


⸻


その時だった。


マリアが武器庫の奥へ視線を向ける。


その先の壁には、歴代組長たちの肖像画が整然と並んでいた。


威厳ある表情の男たち。


時代ごとに服装は違っても、その眼差しだけは変わらない。


最後には、朝比奈玄十郎の肖像画。


そして――


その隣には、一枚だけ何も飾られていない額縁が掛けられていた。


「……あれ?」


葵が首を傾げる。


「ここだけ空っぽ。」


日和はその額縁を見つめ、苦く笑った。


「そこは……。」


少しだけ間を置く。


「私。」


「次は、ここに私の写真が飾られる予定。」


誰も言葉を返せなかった。


武器庫で見た数々の武器よりも。


その空っぽの額縁の方が、ずっと重たく感じられた。


まるで、日和の未来がそこに用意されているかのようだった。


静かな沈黙が流れる。


その中で、マリアだけがゆっくりと額縁へ近づいた。


じっと見つめる。


そして、小さく呟く。


「……まだ、空いているんだね。」


日和が顔を上げる。


「え?」


マリアは額縁から目を離さず、穏やかに微笑んだ。


「まだ誰の写真も飾られていない。」


「だから私は……。」


「未来は、まだ決まっていないと思う。」


「誰かが決めるものじゃない。」


「日和自身が選ぶものよ。」


日和は空の額縁を見つめた。


その額縁は何も語らない。


けれど、マリアの言葉だけが、不思議と胸の奥へ静かに残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。