表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/58

第48話 隠していた理由

部屋の空気が一変し、玄十郎は静かに周囲を見渡した。


やがて、日和へ視線を向ける。


「……日和。」


「はい……。」


「皆さんは、ご存じではなかったのか。」


日和は俯いたまま、小さく首を横へ振る。


「……まだ、話してなかった。」


玄十郎は短く息を吐いた。


「そうか。」


責めるような口調ではない。


事実を受け止めるような声音だった。


そして、マリアたちへ向き直る。


「失礼しました。」


「皆さんが既に承知の上で来られたものと思っておりました。」


静かに一礼する。


続いて日和へ視線を戻した。


「日和。」


「自分のことは、自分の口で説明しなさい。」


「それがお前の責任だ。」


日和はゆっくりと頷く。


「……はい。」


玄十郎は最後にマリアたちへ軽く頭を下げた。


「皆さん、どうか娘の話を聞いてやってください。」


そう言い残し、書斎を後にした。


扉が静かに閉まる。


日和は俯いたまま、ぎゅっと拳を握り締める。


「……ごめん。」


小さく震える声が、静かな部屋に落ちた。


その一言に、皆の視線が集まる。


「ずっと……隠してて、ごめん。」


日和は顔を上げられないまま続けた。


「私のお父様が、マフィアのボスだってこと。」


「私が、その跡を継ぐ立場だってこと。」


「みんなに知られたら……。」


言葉が詰まる。


「嫌われるって思ってた。」


「怖がられるって思ってた。」


「だから言えなかった。」


声が少しずつ震えていく。


「せっかく仲良くなれたのに。」


「『マフィアの娘』って知られたら、今までみたいに笑えなくなるんじゃないかって。」


「ずっと……怖かった。」


ぽたり、と涙が床へ落ちた。



静かな時間が流れる。


その沈黙を破ったのは、マリアだった。


「日和。」


優しい声だった。


日和がゆっくり顔を上げる。


「……うん。」


「悪意があった訳じゃないでしょう?」


日和は勢いよく首を横に振った。


「ない!」


思わず大きな声が出る。


「そんなこと、一度も思ったことない!」


「じゃあ。」


マリアは穏やかに微笑む。


「嫌われるのが怖かっただけ?」


日和は涙をこぼしながら頷いた。


「……うん。」


「みんなと普通の友達でいたかった。」


「朝比奈日和として見てほしかった。」


「それだけだったの。」



「なら。」


葵があっさりと言った。


「何も変わらないよ?」


「……え?」


日和は目を丸くする。


「だって。」


「日和は日和じゃん。」


「昨日まで優しかった日和が、今日いきなり悪い人になるわけじゃないし。」


「私は、今まで一緒に笑ってた日和しか知らないよ。」


その言葉に、雅も優しく頷く。


「私も同じ。」


「日和がどんな家に生まれたかより。」


「どんな人かを、この十年ずっと見てきた。」


「世界の本を楽しそうに紹介してくれる日和。」


「素直で。」


「少しわがままで。」


「でも、誰よりも友達思いの日和。」


「それが私の知っている日和だよ。」



「ええ。」


小百合も柔らかく微笑む。


「生まれる家は、自分では選べないわ。」


「でも、どんな人になるかは、その人自身よ。」


「私たちが大切にしているのは、朝比奈日和。」



瑠璃は腕を組み、小さくため息をついた。


「正直に言えば。」


「もっと早く話してほしかった。」


日和の肩がびくりと震える。


「でも。」


瑠璃は少しだけ口元を緩めた。


「言えなかった理由も分かる。」


「だから、今回は許してあげる。」


「次からは一人で抱え込まないこと!」


「……うん。」


日和は涙を拭きながら頷いた。



涙が止まらなかった。


怖かった。


本当に怖かった。


でも。


誰一人として、自分から離れていかなかった。


「みんな……。」


日和は泣き笑いのような表情で言う。


「ありがとう。」


その瞬間だった。


マリアが立ち上がる。


日和の前まで歩き、そっと両手を握った。


「日和。」


「あなたが私たちにとって大切な友達なのは。」


「今日も昨日も、その前の日も変わらない。」


「肩書きが変わっても。」


「それは変わらないわ。」


日和の瞳から、大粒の涙があふれた。


その涙は、恐怖ではなく、安堵の涙だった。


部屋の扉の前では、ジョンが静かに立っていた。


日和の涙と友人たちの笑顔を見ると、その表情はわずかに和らぐ。


「……よろしゅうございました。」


誰にも聞こえないほど小さく呟き、静かにその場を離れた。


窓の外では、夏風が木々を優しく揺らしている。


その風は、胸に抱え続けてきた秘密をようやく打ち明けることができた日和を、そっと祝福しているようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ