第45話 世界
庭園を後にした一行は、日和の案内で屋敷の中を歩いていた。
「次はね。」
日和が振り返って笑う。
「私のお気に入りの場所 パート2!」
「まだあるの?」
葵が目を丸くする。
「いっぱいあるよ。」
「今日は全部回れないくらい。」
廊下を曲がり、階段を上がる。
しばらく歩くと、日和は一枚の扉の前で立ち止まった。
「ここ。」
そう言って、そっと扉を開ける。
「失礼しま〜す。」
部屋へ入った瞬間、小百合が小さく息をのんだ。
「まぁ……。」
壁一面に並ぶ本棚。
そこには世界各国の歴史書や写真集、旅行記がぎっしりと並んでいた。
大きな机の上には、開かれた世界地図。
壁には様々な国の風景写真が飾られている。
「すごい……。」
雅が思わず見入る。
「図書館みたい。」
「ここ、誰かの書斎じゃないの?」
瑠璃が尋ねる。
日和は首を横に振った。
「ううん。」
「私の部屋。」
「えっ!?」
葵が驚いて声を上げた。
「日和の部屋なの!?」
「うん。」
「本は昔から好きなんだ。」
日和は少し照れくさそうに笑った。
マリアは本棚へ近づく。
『世界の絶景』
『ヨーロッパ街歩き』
『世界遺産紀行』
『砂漠を越えて』
『極北の暮らし』
どれも世界各地を紹介する本ばかりだった。
「世界の本が多いんだね。」
マリアが静かに言う。
「うん。」
日和は本棚を見上げた。
「知らない景色を見るのが好きなんだ。」
「写真を見てるだけでね。」
「ここへ行ってみたいなぁって思う。」
そう言って、一冊の写真集を手に取る。
ページを開くと、青く澄んだ湖や、石畳の街並み、美しいオーロラが広がっていた。
「きれい……。」
葵が思わず呟く。
「でしょ!」
日和の目がきらきらと輝く。
「世界には、まだ私が知らない景色がいっぱいあるんだよ。」
「知らない文化も。」
「知らない人も。」
「考え方も。」
夢中になって話す日和は、普段より少しだけ饒舌だった。
マリアはその横顔を見つめる。
学院で見せる無邪気な笑顔とも違う。
心から好きなものを語る人の表情だった。
「日和。」
マリアが優しく尋ねる。
「本当に世界が好きなんだね。」
日和は少し照れたように笑う。
「うん。」
「大好き。」
その一言は、何よりも素直だった。
窓から吹き込んだ夏風が、机の上の世界地図をふわりと揺らす。
その地図を見つめる日和の瞳は、まるでまだ見ぬ世界へ向けられているようだった。
マリアは、その横顔を静かに見つめていた。
(そんな顔もするんだね、日和。)




