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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第43話 朝比奈家のおもてなし

重厚な扉をくぐると、ひんやりとした空気が一同を包んだ。


高い天井。


赤い絨毯が真っ直ぐ奥まで続き、壁には歴史を感じさせる絵画や調度品が並んでいる。


「すごい……。」


葵は思わず辺りを見回した。


「映画の中みたい。」


「確かに、趣があるね。」


雅も静かに見渡す。


小百合は壁に掛けられた古い時計へ目を向けた。


「長い歴史を感じるわ。」


瑠璃は周囲を観察しながら小さく頷く。


「手入れも行き届いているわね。」


日和はそんな皆の反応を見て照れくさそうに笑った。


「そんなに珍しいかな?」


「日和は見慣れてるからそう思うんだよ。」


葵が苦笑する。


「私たちからしたら十分すごいって。」


「そっか。」


日和は少しだけ肩をすくめた。


⸻


一行は応接室へ案内された。


大きな窓からは手入れの行き届いた庭園が見える。


席へ着くと、ほどなくして紅茶と焼き菓子が運ばれてきた。


「お待たせいたしました。」


黒田が静かに頭を下げる。


「どうぞごゆっくり。」


「ありがとうございます。」


マリアが微笑んだ。


紅茶を一口飲んだ葵が、目を丸くする。


「おいしい!」


「さすが朝比奈家だね。」


「このトルタ・カプレーゼはうちのシェフの自信作なの。」


日和は嬉しそうに言った。


「いっぱいあるから遠慮しないでね。」


「じゃあ遠慮なく。」


葵はさっそく二つ目へ手を伸ばす。


「葵。」


瑠璃が呆れたように笑う。


「まだ一つ目を食べ終わってないでしょう。」


「別腹!」


「まだ食べてる途中だから別腹じゃないわ。」


そのやり取りに部屋は笑いに包まれた。


日和も声を上げて笑う。


「やっぱりみんなといると楽しいなぁ。」


⸻


ふと、マリアが窓の外へ視線を向けた。


庭の奥。


黒いスーツ姿の男たちが数人、何かを確認するように歩いている。


その動きには無駄がなく、皆が周囲へ鋭い視線を向けていた。


(警備……。)


マリアは心の中で静かに呟く。


かなり厳重だ。


ただの資産家ではない。


そう感じさせる何かが、この屋敷にはあった。


(それに、先程から私たちも監視されているわね。)


だが、マリアは何も尋ねなかった。


日和が話したくなった時に話せばいい。


それで十分だと思っていたからだ。


⸻


その時、日和がふいに立ち上がる。


「そうだ!」


「せっかく来たんだから、屋敷の中を案内するね!」


「見たい!」


葵が勢いよく手を挙げる。


「庭もすごく広そう!」


「うん!」


日和は満面の笑みを浮かべた。


「まだまだ見せたい場所がいっぱいあるんだ!」


六人は席を立ち、応接室を後にする。


日和は楽しそうに歩き出す。


その途中。


廊下の奥に続く重厚な扉の前で、黒服たちが静かに道を空けた。


葵は思わず足を止める。


「……あそこは?」


日和は一瞬だけ視線を向けると、いつもの笑顔で答えた。


「あとでね。」


その笑顔の奥に、ほんの少しだけ複雑な色が浮かんでいたことに、この時の誰も気付かなかった。


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