第42話 朝比奈家の歓迎
ジョンが静かに車のドアを開ける。
「到着いたしました。」
「ありがとう、ジョン。」
日和はいつもと変わらない笑顔で車を降りた。
その瞬間。
左右に整列していたサングラスをかけた黒いスーツ姿の男たちが、もう一度一斉に頭を下げる。
「「「お嬢、お帰りなさいませ。」」」
低く揃った声が、屋敷の前へ静かに響いた。
「ただいま。」
日和は慣れた様子で手を軽く上げる。
まるで毎日の挨拶を返すような自然さだった。
続いてマリアたちも車を降りる。
黒服たちは姿勢を崩さないまま、一同へ視線を向けた。
「「「お嬢のご友人方、ようこそ。」」」
葵は思わず日和の後ろへ半歩隠れる。
「ひ、日和……。」
小さな声で囁く。
「この人たち、すごく怖いんだけど……。」
「大丈夫、大丈夫。」
日和は苦笑しながら振り返った。
「見た目はこんなだけど、みんないい人だから。」
「いや、その『見た目』が問題なんだけど……。」
葵の一言に、雅たちは思わず吹き出した。
その空気に気付いたのか、一人の黒服が咳払いをする。
すると日和がくすりと笑った。
「ほら。」
「笑うともっと怖くなるから、そのままでいいよ。」
その言葉に、何人かの黒服が困ったように顔を見合わせる。
葵はその様子を見て、小さく息をついた。
「……なんだ。」
「ちゃんと人間なんだね。」
「失礼だなぁ。」
日和が笑う。
そのやり取りに、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
その時。
屋敷の大きな扉がゆっくりと開く。
中から、一人の壮年の男性が姿を現した。
漆黒のスーツを身にまとい、背筋を真っ直ぐ伸ばしている。
年齢は五十代ほどだろうか。
その佇まいには、静かな威厳があった。
男性は日和の前まで歩み寄ると、穏やかに一礼する。
「お帰りなさいませ、お嬢。」
「ただいま。」
日和も柔らかく微笑む。
「みんなを連れてきたよ。」
男性はマリアたちへ向き直った。
「ようこそ朝比奈家へ。」
「私は朝比奈家の屋敷を預かっております黒田と申します。」
「本日は皆様を心より歓迎いたします。」
「ごきげんよう。」
マリアが代表して一礼する。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。」
雅、小百合、瑠璃も続いて一礼した。
葵も少し慌てながら頭を下げる。
「よ、よろしくお願いします。」
黒田は穏やかに微笑んだ。
「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。」
日和はみんなの方を振り返る。
「さ、行こう!」
「まずはお茶にしようよ!」
「うん。」
マリアも微笑みながら頷く。
六人は屋敷の中へ足を踏み入れた。
重厚な扉が静かに閉まる。
その音は、まるで日和がこれまで隠してきた世界へ、一歩踏み込んだ合図のようだった。




