第41話 朝比奈家へ
夏休みが始まって数日。
白薔薇園で交わした約束の日がやってきた。
学院正門前には、一台の黒い車が静かに停まっている。
運転席から降りてきたジョンが、いつものように穏やかに一礼する。
「皆様、ごきげんよう。」
「ごきげんよう、ジョン。」
マリアたちも笑顔で挨拶を返した。
「本日はお世話になります。」
小百合が微笑む。
「こちらこそ本日はよろしくお願いいたします。」
その言葉と同時に後部座席の窓が開く。
「みんなー!」
日和が大きく手を振った。
「早く乗って!」
「お待たせ。」
マリアが笑う。
「全然!」
「今日をずっと楽しみにしてた!」
ジョンが静かにドアを開く。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
五人は自然な足取りで車へ乗り込んだ。
車は静かに学院を離れ、夏の日差しの中を走っていく。
車内では、取り留めのない話で笑い声が絶えなかった。
「そういえば。」
葵が日和を見る。
「お家って遠いの?」
「そんなに遠くないよ。」
「もう少しかな。」
「近いんだ。」
「うん。」
日和は窓の外を眺めながら頷く。
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やがて街並みは少しずつ落ち着きを見せ始める。
緑が増え、人通りも少なくなっていく。
しばらくすると、車は一本の長い並木道へ入った。
道路の先には、高く堅牢な門が見えている。
ジョンが速度を落とした。
門の前へ近づくと、何も言わずとも重厚な門扉がゆっくりと左右へ開いていく。
車はそのまま静かに門をくぐった。
広い敷地の中を進んでいく車内には、いつしか自然と静けさが訪れていた。
葵も、雅も、小百合も、瑠璃も、窓の外を眺めている。
日和だけが、いつもと変わらない笑顔だった。
「もうすぐ着くよ。」
その一言とともに、車はゆっくりと速度を落としていく。
しばらくすると、正面に大きな洋館が姿を現した。
葵が小さく声を漏らす。
「敷地、すごく広いね。」
「うん。」
日和は照れくさそうに笑った。
車が玄関前へ近づいていく。
その時だった。
葵が思わず目を見開く。
「……え?」
玄関前には、黒いスーツにサングラス姿の男たちが、左右に整列していた。
一人や二人ではない。
何十人もの男たちが、一糸乱れぬ姿勢で車を待っている。
車が止まると同時に、
全員が一斉に頭を下げた。
「「「お嬢、お帰りなさいませ。」」」
低く揃った声が屋敷中へ響く。
一瞬、静寂が流れる。
葵は口を半開きにしたまま固まっていた。
雅も驚きを隠せず、思わず日和を見る。
小百合は静かに目を瞬かせる。
瑠璃も珍しく言葉を失っていた。
そんな四人の様子を見て、日和は困ったように頭をかいた。
「あー……。」
「だから説明しづらいって言ったんだよ。」
車内には、誰もすぐには言葉を返せなかった。




