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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第39話 自分に出来ること

学院から病院へ戻る渡り廊下。


美咲は制服姿のまま、ゆっくりと歩いていた。


カバンには、友人たちからもらった小さなフェルトのお守り。


歩くたびに、小さく揺れている。


思わず口元が緩んだ。


(今日は、本当に楽しかった。)


疲れはある。


けれど、それ以上に心が満たされていた。


⸻


病院へ戻ると、看護師がすぐに気付いた。


「あら、美咲ちゃん。」


「おかえり。」


「ただいま戻りました。」


「どうだった?」


美咲は照れくさそうに笑う。


「……とても、楽しかったです。」


その一言だけで十分だった。


看護師も嬉しそうに微笑む。


「それはよかった。」


⸻


病室へ戻る途中。


院内学級の前を通りかかると、小さな足音が聞こえた。


「美咲ちゃん!」


陽菜だった。


「おかえり!」


嬉しそうに駆け寄ってくる。


「ただいま。」


「どうだった?」


「学院!」


美咲は少し考えてから答えた。


「……うん。」


「やっぱり楽しかった。」


「先生も。」


「みんなも。」


「変わらなかった。」


陽菜は自分のことのように笑う。


「よかったぁ。」


その笑顔を見て、美咲も自然と笑った。


⸻


「なにこれ!可愛い!」


陽菜は美咲の鞄につけられている小さなフェルトのお守りを指さした。


「みんなが作ってくれたの。」


「病院でも持っていられるようにって。」


陽菜は目を輝かせる。


「いいなぁ。」


その言葉に、美咲は少しだけ考えた。


そして、にっこり笑う。


「陽菜。」


「今度、一緒に作ってみる?」


「え?」


「フェルトのお守り。」


「院内学級のみんなで。」


「みんなで?」


「うん。」


「誰かを応援したい時に渡せるような、お守り。」


陽菜の表情がぱっと明るくなる。


「やりたい!」


「先生にも聞いてみよう!」


「うん。」


二人は顔を見合わせて笑った。


⸻


その日の夕方。


院内学級の先生へ相談すると、先生も目を細めた。


「素敵なアイデアね。」


「夏休み前に、みんなで作ってみましょうか。」


「本当ですか?」


「ええ。」


「きっと、喜ぶ子がたくさんいるわ。」


美咲は嬉しそうに頷いた。


数週間前。


誰かに言葉を掛けてもらう側だった自分。


今は、誰かを笑顔にしたいと思っている。


少しずつ。


本当に少しずつだけれど。


前へ進めている気がした。


窓の外では、夕暮れの光が病院と学院をやさしく照らしていた。


その二つの建物は渡り廊下でつながっている。


まるで、美咲の二つの居場所を結ぶ橋のように。


美咲はその景色を見つめながら、静かに微笑んだ。

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