第37話 久しぶりの制服
翌朝。
病室のカーテンを開けると、眩しい夏の日差しが部屋いっぱいに広がった。
今日は、美咲にとって特別な朝だった。
ベッドの横には、昨日のうちに用意しておいた学院の制服が掛けられている。
美咲は制服を見つめ、小さく息を吸った。
「……いよいよなんだ。」
少しだけ緊張している。
胸の鼓動が、いつもより速い。
それでも、その鼓動は嫌なものではなかった。
期待と、不安。
その両方が胸の中にあった。
ゆっくりと制服へ袖を通す。
鏡の前へ立つ。
見慣れたはずの制服なのに、今日はどこか新鮮に見えた。
「変じゃないかな……。」
思わず独り言が漏れる。
コン、コン。
「美咲ちゃん、入るね?」
「はい。」
看護師が病室へ入ると、制服姿の美咲を見て目を細めた。
「やっぱり制服姿、素敵だね。」
美咲は少し照れながら笑う。
「ありがとうございます。」
看護師は優しく頷いた。
「今日は午前中だけだからね。」
「少しでも疲れたら、すぐ連絡して。」
「無理はしない約束。」
「はい。」
その言葉に、美咲はしっかりと頷いた。
⸻
病院の玄関では、主治医も見送りに来てくれていた。
「いってらっしゃい。」
「はい。」
「楽しんできてね。」
「はい。」
深く一礼する。
そして病院を出た。
学院までは、渡り廊下を歩いて数分。
たったそれだけの距離。
けれど今日は、とても長く感じる。
一歩。
また一歩。
足を進めるたび、心臓が高鳴る。
(みんな、覚えてくれているかな。)
(ちゃんと話せるかな。)
(体調、大丈夫かな。)
次々と不安が浮かぶ。
その時だった。
――週に一日でも。
――一時間だけでも。
――それも、私の毎日なんだって思えるから。
昨日、自分が陽菜へ話した言葉を思い出す。
美咲は小さく笑った。
「そうだ。」
「今日は、今日の私でいいんだ。」
大きく深呼吸をする。
渡り廊下の先には、見慣れた学院の校舎が見えていた。
夏空の下で輝く白い校舎。
風に揺れる木々。
どこか懐かしい景色だった。
「……ただいま。」
誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。
その言葉には、ようやく帰ってこられた喜びが込められていた。
美咲は穏やかな笑顔で、学院への一歩を踏み出した。




