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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第35話 私の普通

1ヶ月後。


病院の中庭には、爽やかな夏風が吹いていた。


美咲は診察を終え、ベンチへ腰を下ろす。


白い花壇には、小さな花々が静かに咲いている。


「美咲ちゃん。」


後ろから優しい声が聞こえた。


振り返ると、陽菜が小走りで近付いてくる。


「こんにちは。」


「こんにちは。」


二人は並んでベンチへ座った。


「院内学級、少しは慣れた?」


美咲が尋ねる。


陽菜は嬉しそうに頷いた。


「うん。」


「まだ緊張するけど、お友達もできたよ。」


「先生も優しいし。」


「昨日はね、一緒に折り紙したの。」


そう話す陽菜の表情は、初めて会った日よりずっと明るい。


「それは良かった。」


美咲も自然と笑顔になる。


しばらく風に揺れる花を眺めていると、陽菜がふと口を開いた。


「美咲ちゃん。」


「前に言ってた『普通』って。」


「もう分かった?」


美咲は少し驚き、それから静かに笑った。


「まだ全部は分からないかな。」


「でも。」


空を見上げる。


「一つだけ分かったことがあるの。」


陽菜は真剣な表情で耳を傾ける。


「私は、みんなと同じ毎日になりたかったんじゃなくて。」


「毎日を笑って過ごせる自分になりたかったんだと思う。」


陽菜は小さく頷く。


美咲は続けた。


「病院の日も。」


「学校の日も。」


「お友達と話せる日も。」


「一人で休む日も。」


「全部、私の毎日。」


「その中で笑える日が少しずつ増えたら。」


「それだけで十分なのかもしれない。」


陽菜はその言葉を胸の中でゆっくりと受け止める。


「私も……。」


「そんな毎日なら好きかも。」


二人は顔を見合わせて笑った。


その時。


病院の廊下から看護師が声を掛ける。


「美咲ちゃん。」


「そろそろ部屋に戻ろうか。」


「はーい。」


立ち上がった美咲は、陽菜へ微笑んだ。


「また明日。」


「うん。」


「また明日。」


その何気ない約束が、美咲には嬉しかった。


以前なら、「また明日」と言える日が来ることさえ、不安だった。


今は違う。


体調が良い日もあれば、悪い日もある。


それでも、自分には帰る場所があり、待っていてくれる人がいる。


それが、美咲の毎日だった。


病院の花壇では、色とりどりの花が風に揺れている。


同じ花は、一つとしてない。


それでも、どの花も夏の光を受け、逞しく咲いていた。


美咲はその景色を見つめながら、そっと微笑む。


「私も。」


「私らしく咲いていこう。」


夏風は木々を揺らし、その言葉を静かに空へ運んでいった。


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