第33話 同じ空の下
翌日。
窓から柔らかな朝日が病室へ差し込んでいた。
美咲は昨日のことを思い返しながら、ゆっくりと髪を整える。
「私だけの毎日……。」
まだ答えは見つかっていない。
それでも、その言葉は昨日より少しだけ温かく感じられた。
コン、コン。
「美咲ちゃん。」
看護師が穏やかに病室へ入ってくる。
「今日は体調も安定しているね。」
「はい。」
「今日は院内学級へ行ってみる?」
「……はい。」
体調が良い日は、病院内にある教室で勉強ができる。
もちろん、無理は禁物。
途中で休んでも構わない。
そんな場所だった。
⸻
扉を開けると、そこには数人の生徒が席についていた。
車椅子の子。
点滴をつけたまま勉強している子。
時折咳き込みながら教科書を開く子。
皆、それぞれ事情を抱えている。
「美咲ちゃん、おはよう。」
先生が優しく迎える。
「おはようございます。」
美咲も自然と笑顔で返した。
席へ座ると、隣の少女が小さく微笑む。
「美咲ちゃん、体調は大丈夫?」
「うん。」
「今日は調子がいいの。」
「よかった。」
それだけの短いやり取り。
けれど、その一言が美咲には嬉しかった。
授業が始まる。
教室は静かだった。
けれど、それは寂しい静けさではない。
皆が自分のペースで学び、それぞれの一日を過ごしている。
そんな穏やかな空気だった。
⸻
昼休み。
教室の窓から学院の校庭が見える。
運動部の掛け声。
笑いながら歩く生徒たち。
昨日までなら、その光景だけを見つめていた。
けれど今日は違った。
「見て。」
隣の少女が嬉しそうに窓の外を指差す。
「今日は風が気持ちいいね。」
「本当。」
美咲も自然と笑う。
「空、すごく青い。」
二人はしばらく空を眺めていた。
「私ね。」
隣の少女がぽつりと言う。
「早く元気になりたい。」
「でも。」
少し照れたように笑った。
「焦っても仕方ないって、この前やっと思えたんだ。」
その言葉に、美咲は昨日のマリアを思い出した。
──違うことと、普通ではないことは、同じでしょうか。
あの言葉が胸に響く。
「私も。」
美咲は小さく呟く。
「昨日、ルナがお話を聞いてくださって。」
少女は目を丸くした。
「えっ、本当に?」
「うん。」
「『普通って何?』って聞かれたの。」
少女は少し考えてから笑う。
「難しい質問だね。」
「うん。」
美咲も笑う。
「まだ答えは分からない。」
「でも。」
窓の外を見つめる。
校庭で過ごす生徒たち。
病院教室で学ぶ自分たち。
過ごす場所は違う。
それでも。
「みんな、それぞれ毎日を過ごしているんだなって。」
少女は優しく頷いた。
「そうだね。」
「私たちも。」
「私たちなりの毎日を過ごしてる。」
その言葉に、美咲は静かに微笑んだ。
昨日までは、「普通になれない自分」ばかり見ていた。
でも今日は、少しだけ違う。
この教室にも。
笑顔があって。
友達がいて。
「おはよう」と言い合える毎日がある。
それもまた、自分の毎日なのだ。
窓の向こうには学院。
窓のこちらには院内学級。
過ごす場所は違う。
それでも、流れる時間は同じだった。




