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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第32話 私だけの普通

病室には、静かな時間が流れていた。


窓の外からは、部活動を終えた生徒たちの笑い声が、かすかに聞こえてくる。


美咲はゆっくりと口を開いた。


「私は……。」


「ずっと、みんなと同じ毎日を送ることが『普通』なんだと思っていました。」


「だから、それができない私は、普通じゃないんだって。」


少しだけ俯く。


「でも……。」


「今、お姉さまに聞かれて。」


「その『普通』って、本当に私が考えたものなのかなって……。」


マリアは静かに頷いた。


「美咲さんは、今までどのような毎日を過ごされてきましたか。」


「私の毎日……ですか。」


美咲は少し考える。


「朝、先生や看護師さんに『おはようございます』って挨拶をして。」


「体調が良ければ病院の教室で授業を受けて。」


「疲れたら休んで。」


「窓から校庭を眺めたり、本を読んだり。」


「時々、お友達がお見舞いに来てくれて。」


「そんな毎日です。」


そう話すと、美咲は少し苦笑した。


「やっぱり、普通じゃないですよね。」


その言葉に、マリアは穏やかに首を横へ振った。


「どうして、そう思われるのですか。」


「だって……。」


「みんなとは違いますから。」


「違うことと、普通ではないことは、同じでしょうか。」


「……。」


美咲は言葉を失う。


マリアは続ける。


「人は皆、それぞれ違う毎日を過ごしています。」


「部活動に励む方もいれば、ご家族のお手伝いを頑張っている方もいます。」


「習い事に打ち込む方もいれば、毎日読書を楽しみにしている方もいます。」


「同じ毎日を送っている方は、一人もいません。」


美咲は静かに耳を傾けていた。


「美咲さんの毎日も、その一つです。」


「それは、美咲さんだけの毎日。」


「誰かと同じではありません。」


「でも、それだけで『普通ではない』と決まるのでしょうか。」


美咲は窓の外を見つめた。


校庭では、友達同士で手を振り合いながら帰る生徒たちの姿が見える。


その光景は、やはり少し羨ましい。


その気持ちは変わらなかった。


けれど。


自分の毎日を「普通じゃない」と決めつけていたのは、自分自身だったのかもしれない。


そんな考えが、心に静かに芽生え始めていた。


「私……。」


美咲はぽつりと呟く。


「普通になりたいんじゃなくて。」


「皆さんと同じ時間を、一緒に過ごしたかったのかもしれません。」


その言葉を聞いたマリアは、柔らかく微笑んだ。


「そうだったのですね。」


否定も、肯定もせず。


ただ、美咲が見つけた言葉を、大切に受け止める。


美咲も少しだけ笑った。


その笑顔は、病室で初めて見せる、肩の力が抜けた穏やかな笑顔だった。


夕暮れの光が、病室を優しく照らしている。


「今日は、お話しできて本当に良かったです。」


「私もです。」


マリアは静かに立ち上がる。


「また、お話しに伺ってもよろしいでしょうか。」


美咲は嬉しそうに頷いた。


「はい。」


「ぜひ、来てください。」


マリアが病室を後にすると、窓の外には夕焼けに染まる学院が広がっていた。


美咲は、その景色を静かに見つめる。


「私だけの毎日……。」


その言葉を、小さく繰り返した。


答えはまだ見つかっていない。


それでも、「普通」という言葉を追いかけるのではなく、自分自身の毎日を見つめようとする、小さな一歩が生まれていた。

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