第27話 善意
放課後。
相談者の少女は、久しぶりに家族四人でリビングへ集まっていた。
両親は少し緊張した面持ちで向かい合って座っている。
姉も妹の隣に腰掛けた。
静かな空気の中、最初に口を開いたのは母親だった。
「今日はね。」
「あなたのお姉ちゃんから、お話を聞いたの。」
妹は少しだけ肩を震わせる。
「……うん。」
父は静かに続けた。
「今まで、辛い思いをさせてしまっていたんだね。」
その言葉に、妹は驚いて顔を上げた。
父は深く頭を下げる。
「気付いてあげられなくて、本当にごめん。」
母も目を伏せる。
「私たちはね。」
「あなたがお姉ちゃんのお話をすると、とても嬉しそうだったから。」
「だから、お姉ちゃんの話をすると喜んでくれると思っていたの。」
妹は目を丸くする。
「……私が?」
母は優しく頷いた。
「小さい頃。」
「『お姉ちゃん、すごいでしょう!』って、いつも自慢してくれていたじゃない。」
父も笑う。
「私たちも嬉しくて。」
「つい、お姉ちゃんの話ばかりしてしまった。」
姉がそっと妹の手を握る。
「でも、それが辛くなっていたんだね。」
妹の瞳から涙が溢れる。
「最初は……。」
声を震わせながら話し始める。
「最初は、本当に嬉しかったの。」
「お姉ちゃんは私の憧れだったから。」
「でも……。」
「だんだん、私もお姉ちゃんみたいにならなきゃって思うようになって。」
「できない自分が、嫌になって……。」
母は静かに涙を流した。
「ごめんなさい。」
「私たちは、あなたを比べていたつもりはなかったの。」
父も頷く。
「だけど、あなたにはそう聞こえてしまっていたんだね。」
妹はゆっくり頷いた。
姉は優しく微笑む。
「これからは、私の話より。」
「あなたの話を聞かせて。」
「今日はどんな絵を描いたのか。」
「どんなことを思ったのか。」
「私は、それが知りたい。」
母親も笑顔になる。
「私も。」
父親も穏やかに頷いた。
「今度、お父さんにも絵を描いてくれないか。」
妹は少し照れながら笑う。
「……うん。」
「描く。」
その返事に、家族みんなが笑顔になった。
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翌日の昼休み。
少女は白薔薇園を訪れた。
マリアはいつものように白薔薇を眺めている。
「ごきげんよう。」
「ごきげんよう。」
少女は晴れやかな笑顔で微笑んだ。
「昨日、お父様とお母様と、お姉ちゃんと、お話ししました。」
「そうでしたか。」
「私とお姉ちゃんを比べていた訳じゃなかったんです。」
「私も、自分の気持ちを話せました。」
少女は嬉しそうに続ける。
「それからね。」
「今度、お父様に絵を描いてあげる約束をしたんです。」
マリアは優しく微笑む。
「素敵ですね。」
少女は少し照れながら頷く。
「私……。」
「これからは、お姉ちゃんを追いかけるだけじゃなくて。」
「私だけの絵を描いてみたいです。」
その言葉を聞いたマリアは、白薔薇へ視線を向けた。
春風が花びらを優しく揺らす。
「人は皆、それぞれ違う花を咲かせます。」
「誰かと同じ花である必要はありません。」
「あなたの花は、あなただけのものです。」
少女は胸に手を当てる。
その表情に、もう迷いはなかった。
「……はい。」
白薔薇園に、一人の少女の笑顔が咲く。
それは誰かの真似ではない。
ようやく見つけた、自分だけの花だった。
二通目の「月のポスト」は、少女が自分だけの輝きを見つけたことで、静かに幕を閉じた。




