表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が丘の淑女たち  作者: 如月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/30

第26話 姉の視点

翌日の昼休み。


白薔薇園には、いつものように穏やかな風が流れていた。


ガゼボにはマリアが一人、静かに白薔薇を眺めている。


やがて、小さな足音が近づいてきた。


「ごきげんよう。」


相談に来ていた少女だった。


その隣には、同じ雰囲気をまとった一人の少女が立っていた。


肩まで伸びた艶のある黒髪。


落ち着いた立ち居振る舞いから、相談者より年上だと分かる。


「ごきげんよう。」


姉は丁寧に一礼した。


「妹がお世話になっております。」


「お越しいただき、ありがとうございます。」


マリアも静かに礼を返す。


「どうぞ、お掛けください。」


二人は並んで腰を下ろした。


妹は少し緊張した様子で姉の隣に座る。


しばらく、白薔薇を揺らす風の音だけが流れた。


やがてマリアが穏やかに口を開く。


「突然お呼び立てしてしまい、申し訳ありません。」


「いえ。」


姉は優しく首を振った。


「妹のことでしたら、何でもお話しください。」


その言葉に、マリアは静かに頷く。


「妹さんは、お姉様のことをとても大切に思っていらっしゃいました。」


姉は少し照れたように笑った。


「私も、この子が大好きです。」


そう言って、そっと妹の頭を撫でる。


妹は少しくすぐったそうに笑った。


その様子を見届けてから、マリアは尋ねる。


「お姉様から見て、妹さんはどのような方ですか。」


姉は迷うことなく答えた。


「頑張り屋さんです。」


「何事も諦めない子です。」


「それから……。」


少し考えて、嬉しそうに微笑む。


「絵が、とても上手なんです。」


妹は驚いて姉を見た。


「え……?」


「小さい頃から、お絵描きが大好きだったでしょう?」


「家でも、いつもスケッチブックを持っていたじゃない。」


妹は目を丸くする。


「でも、それは……。」


「お姉ちゃんの方が上手だよ。」


姉は首を横に振った。


「違うわ。」


「私は絵を描くのは好きだけど、あなたみたいな発想はできないもの。」


「あなたの描く絵は、見ていると物語が浮かんでくるの。」


「お父様も、お母様も。」


「この前、あなたが描いた庭の絵を、とても素敵だって話していたのよ。」


妹は息を呑む。


「……知らなかった。」


「言ってなかったもの。」


姉は苦笑した。


「額に入れて飾ろうかって、お母様と話していたくらいよ。」


妹は何も言えなかった。


ずっと。


自分には何もないと思っていた。


勉強では敵わない。


運動でも敵わない。


音楽でも敵わない。


だから、自分には何もないのだと。


そんなふうに思い込んでいた。


「私……。」


妹の目に涙が浮かぶ。


「絵なんて、ただ好きなだけで……。」


「それでいいのよ。」


姉は優しく微笑んだ。


「好きだから描ける絵ってあるでしょう?」


「私は、あなたの絵が大好き。」


その言葉に、妹の涙が静かに頬を伝った。


マリアは何も口を挟まない。


姉妹の時間を、大切に見守っていた。


白薔薇園には、春風が静かに吹き抜ける。


少女は初めて気づいた。


自分には何もないのではなかった。


気づいていなかっただけだった。


そして、そのことを誰よりも知っていたのは――


ずっと隣で見守ってくれていた、お姉ちゃんだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ