第24話 それぞれの好き
翌日の昼休み。
「ごきげんよう。」
少女は昨日より少しだけ自然な表情で姿を見せた。
「ごきげんよう。」
マリアも優しく微笑む。
少女は昨日より少しだけ近い場所へ腰を下ろした。
その小さな変化に、マリアは何も触れない。
ただ、嬉しそうに微笑むだけだった。
「昨日のお話。」
少女が口を開く。
「帰ってから考えてみました。」
「はい。」
「私が好きなこと。」
少し困ったように笑う。
「やっぱり分かりませんでした。」
「そうですか。」
マリアは穏やかに頷く。
「でも、それでいいのです。」
少女は不思議そうに顔を上げる。
「え?」
「好きなものは、急いで見つけるものではありませんから。」
その時だった。
「マリアー!」
元気な声が響く。
葵たち五人がガゼボへやって来た。
「こんにちは!」
葵は少女にも明るく手を振る。
「ご、ごきげんよう……。」
少女は少し緊張しながら挨拶を返した。
「昨日のお話の子?」
小百合が優しく微笑む。
「ええ。」
マリアが頷く。
「少しだけ、ご一緒してもよろしいですか。」
少女は小さく頷いた。
六人が自然に輪へ加わる。
葵が芝生へ腰を下ろしながら笑う。
「今日は体育でいっぱい走ったんだ!」
「やっぱり走るの好きなの?」
日和が笑う。
「うん!」
「体を動かしてると楽しいもん!」
「私は絶対無理。」
瑠璃が即答する。
「私は図書室の方が落ち着く。」
「また魔法陣?」
葵が笑う。
「うん。」
「昨日も新しい問題を見つけたの。」
「解けた?」
「もちろん。」
瑠璃は少しだけ得意そうに微笑んだ。
その様子を見て、小百合も口を開く。
「私は今日、新しい薔薇の苗を植えたの。」
「えっ、どこどこ?」
葵が興味津々に身を乗り出す。
「向こうの花壇よ。」
「今度、一緒に見ましょう。」
「行く!」
雅はそんな皆を見ながら穏やかに笑った。
「私は放課後、地域交流会のお手伝いへ行く予定なの。」
「また?」
日和が少し驚く。
「うん。」
「困っている人のお役に立てると嬉しいから。」
それぞれが楽しそうに話している。
誰一人、同じ話はしていない。
少女は静かにその光景を見つめていた。
(みんな……。)
好きなことが違う。
得意なことも違う。
それでも。
誰も「同じになろう」とはしていなかった。
マリアが少女へ視線を向ける。
「お気付きになりましたか。」
少女はゆっくり頷く。
「皆さん……。」
「好きなことが、全然違うんですね。」
「ええ。」
マリアは優しく微笑む。
「だからこそ、それぞれ素敵なのです。」
少女はもう一度、五人を見つめる。
元気いっぱいに笑う葵。
花の話になると目を輝かせる小百合。
静かに数学の話をする瑠璃。
落ち着いた笑顔で皆を見守る雅。
興味深そうな表情で話を聞く日和。
誰も誰かになろうとはしていない。
それぞれが、自分らしく笑っていた。
少女はそっと胸に手を当てる。
(私も……。)
(いつか。)
(私らしく笑える日が来るのかな。)
春風が白薔薇を揺らす。
少女の心にも、小さな変化が静かに芽生え始めていた。




