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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第23話 本音

少女は俯いたまま、自分の膝を見つめている。


マリアは何も急かさなかった。


答えを求めることも。


慰めることもない。


ただ、隣に座っていた。


しばらくして、少女がぽつりと呟く。


「私……。」


「はい。」


「本当は。」


小さく息を吸う。


「お姉ちゃんみたいになりたいわけじゃ、ないんです。」


その言葉を口にした瞬間、少女は慌てたように首を振った。


「ち、違うんです!」


「お姉ちゃんが嫌いって意味じゃなくて……。」


「大丈夫ですよ。」


マリアは穏やかに微笑む。


「ちゃんと分かっています。」


少女は少しだけ安心したように息をついた。


「お姉ちゃんは優しいんです。」


「私に上手くいかないことがあったら一緒に悩んでくれるし。」


「勉強も教えてくれるし。」


「だから嫌いじゃないんです。」


少し間を置いて続ける。


「でも……。」


「私は、お姉ちゃんにはなれません。」


その一言には、諦めが滲んでいた。


「私は勉強も普通だし。」


「運動も普通だし。」


「音楽だって、お姉ちゃんほど上手じゃない。」


「だから。」


少女はぎゅっと制服の裾を握る。


「私には何もないんです。」


その言葉を聞いても、マリアはすぐには返さなかった。


少女自身の言葉を、心の中で大切に受け止めるように、静かに目を閉じる。


やがて、優しく尋ねた。


「お姉様ではなく、あなただけが好きなことはありますか。」


少女は目を丸くした。


「え……?」


思いもしなかった質問だった。


「好きなこと……。」


考える。


けれど、何も浮かばない。


「分かりません……。」


少女は寂しそうに笑った。


「いつも、お姉ちゃんに追いつくことばかり考えていたから。」


「自分が何を好きなのか、考えたこともありませんでした。」


その言葉を聞いたマリアは、小さく頷いた。


「そうでしたか。」


否定しない。


「それなら。」


マリアは白薔薇を見つめながら微笑んだ。


「一緒に探してみませんか。」


少女はゆっくりと顔を上げる。


「探す……?」


「はい。」


「無理に、お姉様と同じである必要はありません。」


「あなたが心から好きだと思えるもの。」


「あなたが夢中になれるもの。」


「それが、きっとどこかにあります。」


少女はその言葉を胸の中で何度も繰り返した。


――私が好きなもの。


今まで一度も考えたことがなかった。


気が付けば。


いつも見ていたのは、お姉の背中だった。


追いつくことばかり考えて。


自分がどこを向いて歩きたいのか、一度も考えたことがなかった。


少女は白薔薇を見つめる。


風に揺れる花は、どれも同じ白色なのに。


一輪として、同じ咲き方をしている花はなかった。

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