第21話 月のポスト2通目
朝のホームルームが終わると、雅が一枚の封筒を持ってマリアの席へ歩いてくる。
「マリア。月のポストに、新しいお手紙が届いたよ。」
マリアは静かに受け取った。
前回と同じ、白い封筒。
しかし、少しだけ違う緊張感が胸に宿る。
栞との出会いを思い出したからだろうか。
「ありがとう。」
雅は優しく微笑んだ。
「今回も、一緒に考えよう。」
「えぇ。」
⸻
昼休み。
六人はいつものように白薔薇園へ集まった。
白薔薇の香りに包まれながら、マリアは封筒をゆっくり開く。
便箋には、少し乱れた文字が綴られていた。
『頑張っても頑張っても、
お姉ちゃんには勝てません。
先生も、お父様も、お母様も、
「お姉ちゃんみたいになりなさい」
と言います。
私は私じゃ、だめなのでしょうか。』
読み終えた瞬間。
誰も言葉を発しなかった。
前回とは違う種類の痛みが、その文章には込められていた。
「……苦しいね。」
小百合が小さく呟く。
「ずっと比べられてきたのかもしれない。」
雅も静かに頷いた。
「本人は努力しているのにね。」
日和は眉をひそめる。
「比べられるのって、一番嫌。」
葵は便箋を見つめたまま言った。
「私なら、『私は私!』って言っちゃうけど……。」
「それが言えないから、お手紙を書いたんでしょうね。」
瑠璃が静かに返す。
マリアは何度もその手紙を読み返していた。
そして、そっと目を閉じる。
「……この方は。」
五人がマリアを見る。
「誰かに勝ちたいのではないと思います。」
「え?」
葵が首を傾げる。
「ただ。」
マリアは優しく便箋を見つめた。
「『あなたはあなたでいい』と、一度だけ言ってほしかったのではないでしょうか。」
白薔薇園に静かな風が吹く。
その言葉は、誰の胸にも静かに染み込んでいった。
雅は穏やかに微笑む。
「今回も、会いに行こう。」
「そうね。」
マリアも静かに頷く。
「この方のお名前も、お顔もまだ分かりません。」
「でも。」
便箋を胸元へ抱く。
「きっと今も、一人で苦しんでいます。」
その時だった。
ガゼボから少し離れた白薔薇の植え込みが、小さく揺れた。
誰かがいたような気がした。
マリアはそちらへ視線を向ける。
しかし、人影はもうない。
風だけが、白い花びらを静かに揺らしていた。
(……今のは。)
マリアは何も言わなかった。
けれど、その瞳には確かな優しさが宿っていた。
新たな月のポスト。
ルナとして二つ目の物語が、静かに幕を開ける。




