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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第15話 お花の仲間

翌日。


「ごきげんよう、マリアお姉さま。」


「ごきげんよう、栞。」


栞はもう迷うことなくベンチへ腰を下ろした。


昨日よりも少しだけ近い場所へ。


「今日は、お花のお話をしようと思ってきました。」


少し照れたように笑う。


「昨日、考えたんです。」


「私、本当はお花のお話をするのが好きなんだなって。」


マリアは嬉しそうに頷いた。


「教えていただけますか。」


「はい。」


栞の表情が少しずつ明るくなる。


「家では、小さなお庭で季節のお花を育てています。」


「春はパンジーとチューリップ。」


「夏になるとラベンダーも咲くんです。」


話し始めると、言葉は自然と続いた。


好きなことになると、栞の瞳は生き生きと輝く。


マリアは一度も口を挟まず、最後まで耳を傾けた。


話し終えると、栞は少し恥ずかしそうに笑う。


「……いっぱい話しちゃいました。すみません。」


「どうして謝るのですか?」


「え?」


「私は、とても楽しかったですよ。」


栞は少し照れながら笑った。


その時だった。


少し離れた花壇から、小百合が歩いてきた。


「マリア。その子が栞さん?」


栞は慌てて立ち上がった。


「ご、ごきげんよう!」


声が少し裏返る。


小百合は優しく微笑んだ。


「ふふっ。ごきげんよう。」


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。」


マリアが栞を見る。


「昨日、お話ししましたよね。」


「小百合も、お花が大好きなんです。」


「そうなんですか?」


「ええ。」


小百合は嬉しそうに頷く。


「この白薔薇園も、毎日お世話しているの。」


栞の目が大きく開く。


「すごい……。」


「私、こんなに綺麗な薔薇、ここで初めて見ました。」


その一言だけで、小百合の表情がぱっと明るくなった。


「本当?」


「ありがとう。」


「そう言ってもらえるのが、一番嬉しいの。」


栞は少し驚く。


自分の言葉で、誰かが笑った。


そのことが嬉しかった。


「もし良かったら。」


小百合が優しく言う。


「今度、一緒にお世話してみない?」


栞は目を丸くした。


「わ、私がですか?」


「うん。」


「お花が好きなんでしょう?」


栞は思わずマリアを見る。


マリアは何も言わない。


ただ、そっと微笑んでいるだけだった。


(どうしよう。)


(断った方がいいかな。)


(でも……。)


胸の中で二つの気持ちが揺れる。


長い沈黙のあと。


栞は制服の裾をぎゅっと握り締め、小さく息を吸った。


「……はい。」


「よろしくお願いします。」


その声は震えていた。


それでも、自分の意思で踏み出した一歩だった。


「よかった。」


小百合は心から嬉しそうに笑った。


「じゃあ、今日からお花の仲間ね。」


「はい。」


栞も小さく笑う。


その笑顔は、初めて白薔薇園へ来た日の少女とはまるで違っていた。


ルナが背中を押したのは、ほんの少しだけ。


けれど、その小さな一歩は、栞にとって大きな一歩になろうとしていた。

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