第11話 ルナの初仕事
翌朝。
教室へ入ると、雅が一枚の封筒を手にしていた。
「おはよう、マリア。」
「おはよう、雅。」
雅は封筒を優しく差し出す。
「これはルナ宛てのお手紙。」
「お手紙……?」
「学院には昔から『月のポスト』っていう相談箱があるんだ。」
マリアは封筒を受け取る。
「生徒たちは悩み事を書く。」
「名前を書いてもいいし、匿名でもいい。」
「その相談を一緒に考えるのが、ルナの大切なお仕事。」
マリアは静かに頷いた。
「責任ある役目ね。」
「うん。」
雅は優しく笑う。
「でも、一人で抱え込まなくていい。」
「私たちもいるから。」
その言葉に、葵が勢いよく立ち上がる。
「もちろん!」
「困ったらみんなで解決しよう!」
「葵はまず勢いだけで動くのをやめなさい。」
瑠璃がすかさず突っ込む。
教室には笑いが広がった。
⸻
昼休み。
マリアは白薔薇園のガゼボで封筒を開いた。
中には、綺麗な字で書かれた一枚の便箋。
『友達とうまく話せません。
嫌われている気がして、
毎日お昼も一人です。
どうすればいいでしょうか。』
マリアは何度もその手紙を読み返す。
「……。」
「マリア。」
雅が静かに隣へ腰掛けた。
「どう思った?」
マリアは少し考え、答える。
「きっと、この方は答えが欲しいわけではないと思うの。」
「え?」
葵が首を傾げる。
「話を聞いてほしいのだと思うわ。」
その言葉に、小百合が優しく微笑んだ。
「私もそう思う。」
「誰にも話せなかったから、お手紙を書いたんでしょうね。」
瑠璃も頷く。
「まずは、その子を探す必要があるわね。」
「でも匿名なんでしょ?」
日和が困った顔をする。
マリアは便箋を見つめる。
「いいえ。」
「この方は、見つけてほしいと思ってる。」
五人が一斉にマリアを見る。
「どうして分かるの?」
マリアは便箋をそっと指差した。
「最後に小さく。」
『もし会っていただけるなら嬉しいです。』
その一文が添えられていた。
「本当だ……。」
葵が目を丸くする。
雅は静かに微笑んだ。
「さすがマリアだね。」
マリアは首を横に振る。
「まだ何もできていないわ。」
「これから、その方に会いに行きましょう。」
その瞳には、昨日までより少しだけ強い意志が宿っていた。
⸻
少し離れた場所。
白薔薇の影から、その様子を見つめる一人の少女がいた。
胸元で制服の裾をぎゅっと握り締める。
(……本当に、来てくれるの?)
少女の瞳には、不安と、ほんの少しの期待が浮かんでいた。
春風が白薔薇を揺らす。
ルナとしての最初の仕事が、静かに始まろうとしていた。




