第10話 白薔薇園
翌日。
「マリアさん。」
教室へ入るなり、小百合が優しく声を掛けた。
「今日は、お昼を白薔薇園で食べませんか?」
「白薔薇園……ですか?」
「私たちのお気に入りの場所で、この季節はお花がいちばん綺麗なんです。」
マリアは柔らかく微笑んだ。
「ぜひ、ご一緒させてください。」
「やったー!」
葵が勢いよく立ち上がる。
「じゃあ決まり!」
「今日は六人でピクニックだ!」
「葵。」
瑠璃が苦笑する。
「学院の中だから、ただのお昼ご飯よ。」
「細かいことは気にしない!」
「気にしなさい。」
そのやり取りに、教室は自然と笑いに包まれた。
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学院の中庭にある白薔薇園。
純白の薔薇が一面に咲き誇り、甘く優しい香りが風に乗って漂う。
石畳の小道の先には、白いガゼボと木製のベンチ。
六人が自然と集まる特別な場所だった。
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「……綺麗。」
マリアは思わず足を止める。
「まるで、白い月のようですね。」
その言葉に、小百合が嬉しそうに笑った。
「ありがとう。」
「ここも私が毎日お世話しているんです。」
マリアは一輪の白薔薇へ視線を向ける。
「とても大切に育てられていることが伝わってきます。」
小百合は少し照れながら頷いた。
「ここ、みんな大好きな場所で、嫌なことがあっても、ここへ来ると元気になれます。」
「ねぇ!」
突然、日和がマリアの横へ腰掛ける。
「マリアって本当に何でもできるの?」
「そうでもありませんよ。」
「嘘だ〜。」
「試験満点なんでしょ?」
「字も綺麗だし。」
「姿勢も綺麗だし。」
「何か苦手なことあるの?」
マリアは少し考えた。
「料理は、少し苦手です。」
「えっ!?」
五人の声が揃う。
「本当に!?」
「はい……。」
少し恥ずかしそうに笑う。
「昔、一度だけ厨房を大変なことにしてしまって……。」
「想像できない!」
葵が大笑いする。
マリアは照れ笑いを浮かべた。
「それ以来、翡翠から止められています。」
全員の視線が翡翠へ向く。
翡翠は少しだけ遠い目をした。
「……思い出したくありません。」
真剣な口調だった。
「そんなに!?」
日和が吹き出す。
「何作ろうとしたの?」
「卵焼きです。」
「卵焼き!?」
今度は雅まで吹き出した。
「卵焼きでどうやったら厨房が半分壊れるの?」
「私にも分からないの……。」
マリアは恥ずかしそうに俯く。
その様子があまりにも可愛らしく、六人は思わず笑ってしまった。
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笑い声が落ち着いた頃。
雅がマリアを見る。
「マリア。」
「どうしたの?雅。」
「昨日はありがとう。」
突然の言葉だった。
「改めて、お礼を言わせて。」
マリアは首を横に振る。
「私は自分が正しいと思ったことをしただけよ。」
「それでも。」
雅は柔らかく笑った。
「私は嬉しかった。」
マリアも穏やかに微笑む。
「私も。皆さんと出会えて、本当に良かった。」
その一言に、小百合が嬉しそうに笑う。
「私も。」
「私もー!」
葵が元気よく手を挙げる。
「もちろん。」
瑠璃も静かに頷く。
日和は少し照れながらそっぽを向く。
「……私は最初から仲間だと思ってたし。」
「日和は初対面で身長のこといじってたもんねー。」
葵がすかさず突っ込む。
「あっ。」
一瞬の沈黙。
そして。
「あははは!」
六人の笑い声が、白薔薇園いっぱいに響き渡った。
「さっき気づいたんだけど、マリアは雅に敬語やめたんだね。」
葵が目を輝かせながらマリアを見た。
「えっ!ずるい!私たちにもそうしてよ〜。」
すかさず日和も参戦してくる。
「それなら、私もマリアって呼ぼうかなぁ。」
照れながら小百合も小声で呟く。
「雅にだけ抜け駆けさせるのは癪ね。」
挑戦的な目をしながら瑠璃も言う。
「…では、お言葉に甘えて。」
マリアは一人ひとりの顔を見つめる。
「改めてよろしくね、葵、日和、小百合、瑠璃、そして、雅。」
すると五人が顔を見合わせて笑う。
「「「「「よろしく、マリア」」」」」
春風が花々を優しく揺らす。
その光景を少し離れた場所から見守る翡翠は、小さく微笑む。
(ようやく、本当の笑顔になられましたね。)
月が丘での日々は、まだ始まったばかり。
けれどマリアには、もう笑い合える仲間がいた。




