↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/58

第10話 白薔薇園

翌日。


「マリアさん。」


教室へ入るなり、小百合が優しく声を掛けた。


「今日は、お昼を白薔薇園で食べませんか?」


「白薔薇園……ですか?」


「私たちのお気に入りの場所で、この季節はお花がいちばん綺麗なんです。」


マリアは柔らかく微笑んだ。


「ぜひ、ご一緒させてください。」


「やったー!」


葵が勢いよく立ち上がる。


「じゃあ決まり!」


「今日は六人でピクニックだ!」


「葵。」


瑠璃が苦笑する。


「学院の中だから、ただのお昼ご飯よ。」


「細かいことは気にしない!」


「気にしなさい。」


そのやり取りに、教室は自然と笑いに包まれた。


⸻


学院の中庭にある白薔薇園。


純白の薔薇が一面に咲き誇り、甘く優しい香りが風に乗って漂う。


石畳の小道の先には、白いガゼボと木製のベンチ。


六人が自然と集まる特別な場所だった。


⸻


「……綺麗。」


マリアは思わず足を止める。


「まるで、白い月のようですね。」


その言葉に、小百合が嬉しそうに笑った。


「ありがとう。」


「ここも私が毎日お世話しているんです。」


マリアは一輪の白薔薇へ視線を向ける。


「とても大切に育てられていることが伝わってきます。」


小百合は少し照れながら頷いた。


「ここ、みんな大好きな場所で、嫌なことがあっても、ここへ来ると元気になれます。」


「ねぇ!」


突然、日和がマリアの横へ腰掛ける。


「マリアって本当に何でもできるの?」


「そうでもありませんよ。」


「嘘だ〜。」


「試験満点なんでしょ?」


「字も綺麗だし。」


「姿勢も綺麗だし。」


「何か苦手なことあるの?」


マリアは少し考えた。


「料理は、少し苦手です。」


「えっ!?」


五人の声が揃う。


「本当に!?」


「はい……。」


少し恥ずかしそうに笑う。


「昔、一度だけ厨房を大変なことにしてしまって……。」


「想像できない!」


葵が大笑いする。


マリアは照れ笑いを浮かべた。


「それ以来、翡翠から止められています。」


全員の視線が翡翠へ向く。


翡翠は少しだけ遠い目をした。


「……思い出したくありません。」


真剣な口調だった。


「そんなに!?」


日和が吹き出す。


「何作ろうとしたの?」


「卵焼きです。」


「卵焼き!?」


今度は雅まで吹き出した。


「卵焼きでどうやったら厨房が半分壊れるの?」


「私にも分からないの……。」


マリアは恥ずかしそうに俯く。


その様子があまりにも可愛らしく、六人は思わず笑ってしまった。


⸻


笑い声が落ち着いた頃。


雅がマリアを見る。


「マリア。」


「どうしたの?雅。」


「昨日はありがとう。」


突然の言葉だった。


「改めて、お礼を言わせて。」


マリアは首を横に振る。


「私は自分が正しいと思ったことをしただけよ。」


「それでも。」


雅は柔らかく笑った。


「私は嬉しかった。」


マリアも穏やかに微笑む。


「私も。皆さんと出会えて、本当に良かった。」


その一言に、小百合が嬉しそうに笑う。


「私も。」


「私もー!」


葵が元気よく手を挙げる。


「もちろん。」


瑠璃も静かに頷く。


日和は少し照れながらそっぽを向く。


「……私は最初から仲間だと思ってたし。」


「日和は初対面で身長のこといじってたもんねー。」


葵がすかさず突っ込む。


「あっ。」


一瞬の沈黙。


そして。


「あははは!」


六人の笑い声が、白薔薇園いっぱいに響き渡った。


「さっき気づいたんだけど、マリアは雅に敬語やめたんだね。」


葵が目を輝かせながらマリアを見た。


「えっ!ずるい!私たちにもそうしてよ〜。」


すかさず日和も参戦してくる。


「それなら、私もマリアって呼ぼうかなぁ。」


照れながら小百合も小声で呟く。


「雅にだけ抜け駆けさせるのは癪ね。」


挑戦的な目をしながら瑠璃も言う。


「…では、お言葉に甘えて。」


マリアは一人ひとりの顔を見つめる。


「改めてよろしくね、葵、日和、小百合、瑠璃、そして、雅。」


すると五人が顔を見合わせて笑う。


「「「「「よろしく、マリア」」」」」


春風が花々を優しく揺らす。


その光景を少し離れた場所から見守る翡翠は、小さく微笑む。


(ようやく、本当の笑顔になられましたね。)


月が丘での日々は、まだ始まったばかり。


けれどマリアには、もう笑い合える仲間がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。