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7/9

心地の良い時間

 私はあの出来事から、特に大きな変化もなく、平和な日々を過ごしている。


 最初はぎこちなかった学校にも、少しずつ慣れてきた。

 授業の流れや、周りの会話の速さにも、もう戸惑うことはない。


 家でも同じだ。

 いつもの配置、いつもの空気。

 どこに何があるのかも、どう過ごせばいいのかも、ちゃんと分かっている。


 気づけば、普通に一日を終えられるようになっていた。


ーーただ、あの日の不安と恐怖だけが忘れられないまま。


 陽の光が、やわらかく中庭に落ちており、石畳の上に影が伸びる。

 風は穏やかで、木々の葉が静かに揺れている。


「ここ、やっぱり落ち着くよね」


 マリナがそう言って、先に腰を下ろした。


「人、少ないな」


 レンもその隣に立ち、軽く周囲を見渡す。

 私は少し遅れて、その場に加わった。



 確かに静かだ。遠くで誰かの話し声がするくらいで、ここまではほとんど届かない。


「こういうとこ、好きでしょ」


 マリナに話しかけられる。


「……まあ、嫌いじゃない」


「でしょー?」


 私の素直じゃない返答にマリナは満足そうに笑った。


 三人で並び、何をするでもなく、ただ時間が流れる。


 冷たい風が、少しだけ強く吹いて近くの木の枝が揺れた。


――その瞬間。


 影が、わずかに動く。


 体がほんの少しだけ固まり、視線が無意識にそちらに向く。


「ん?」


 レンもつられるように、同じ方向を見る。


「どうした」


「……いや、別に」


 すぐに視線を戻す。


 何もいない。ただの風だ。

 昼だし、こんな場所で何か起きるはずがない。


 分かっている。

 分かっているのに、少しだけ気になってしまった。


「もしかして、びっくりしたか?」


 レンが楽しそうに言う。


「してない」


「してたよね、今」


 マリナも加わって笑う。


「…してない」


 少しだけ強く言うと、レンが横で小さく笑った。


「分かりやすいな」


「そういうとこ、隠せてないよー?」


 マリナも続けてくる。


「隠してないし」


「いやいや、隠してるでしょ」


 軽いやり取り。

 からかわれているのは分かる。でも、不思議と嫌じゃない。


「じゃあさ、」


 身を乗り出したマリナと、目が合う。


「今度、びっくりさせていい?」


「やめて」


 即答すると、二人が笑い出した。


「やっぱり怖がりじゃん」


「違うって」


「違わないって」


 レンが軽く肩をすくめて言う。


「まあでも、今なら平気だろ。1人じゃないし」


 その一言に、少しだけ安心する。


「……まあね」


 自然に頷く。


 昼は、何も起きない。

 そういうものだ。


 風がまた、枝を揺らす。

 今度はちゃんと分かる。ただの風だ。


 レンが何か話し始めて、マリナがそれに返す。

 

 どうでもいい話が、途切れずに続いていく。

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