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始まりの朝

 部屋の扉を閉める。

 どうやってここまで帰って来たのか記憶がない。

 あれを見た後から、いつもより速い心臓の音が鳴り止まない。荒い自分の息遣いも。


 本当だった。

 怪物がいた。いてしまった。

 その事実は私の中に興奮と恐怖を同時に呼び起こした。


 そうだ。あの本を見よう。

 何か、書いてあるはずだ。

 未だに震える手で本の頁を開く。


 朝。

 

 外に出る。

 本に書かれていた場所へ向かう。


 歩きながら、昨日見た頁を思い出す。


 ――剣を……。

 ――私しか……いない。


 短い文だった。説明はない。

 けれど、なぜか分かる。探さなければならない。


 道を外れ、細い路地に入る。

 今までここに来たことはない。

 それなのに足に迷いはなかった。

 

 少し進むと、不気味な雰囲気な建物が見えてきた。

 

 ここだ。


 初めてきた。けれど、間違っていない。


 門を押すと、小さく軋む音が鳴った。

 庭は荒れていて、人の気配はない。


 中へ進む。

 扉は開いている。迷わず中に入る。


 空気は冷たい。

 静かで、少しだけ重い。


 周囲を見渡す。


 壁際。

 そこに、それはあった。


 一振の剣。

 黒い鞘。


 ただ、そこにある。


 ――やっぱり。


 ゆっくりと近づき、手を伸ばす。

 柄を握る。

 

 違和感はない。

 

 最初から、こうなることが決まっていたみたいに。


 ゆっくりと引き抜くと、刃が、わずかに光を返す。


 音は小さい。

 けれど、その瞬間、空気が整った。


 軽く振る。

 軽い。手に馴染む。


 本の言葉が、頭に残る。


――大切なもの。失ってはいけないもの。


 小さく息を吐く。

 

 これでいい。

 理由は分からない。

 でも、分かる。これは、必要なものだ。

 

 剣を鞘に戻す。静かな音。

 

 歩き出し、外へ出る。

 

 朝の空気が、少しだけ違って感じられる。手の中の感触が、確かになる。

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