8、居酒屋での話合い
ソレンディルとガルムはエルドリンと夜に居酒屋ストロングホール・サロンで会うことを約束して
宿に戻り、それぞれの部屋に戻った。
ソレンディルは杖とマジックバックを収め、エルドリンから預かった日記をパラパラめくりながら
ベッドの上に転がった。
不老長寿で魔法の始祖だと語り継がれている伝説の種族エーテルリウム。
故郷のエルメリオン王国に研究者がいるが未だ都市の場所、遺跡さえ発見出来ず陽炎のような存在。
その鍵かも知れない物、手元にあるエルドリンの日記"ローラン・アイアンクラウンの記憶"
ソレンディルは秘密を手に入れたような気持ちと色々エルドリンに問い正しても手に入れたい情報が
ないまぜな気分になった。
それにしてもあの模擬戦・・・
無詠唱の魔法を使いこなせる人間がいるなんて・・・
あのガルムが負けるなんて・・・
それにあの鍛冶工房での出来事。
この杖”インフィニティスタッフ”魔法属性に関わらずエーテルに共鳴する鉱石ヴェリタス・ストーン。
アイスミーティア(流星)で出来た氷塊のサイズ!
自分で放ったのにあんなに強大になるなんて!
故郷の王国でもあれ程の術を放つ術者を見たことがない・・・
まだ一日が終わっていないのに驚きの連続で頭の整理がついていなかった。
「ふわぁ~疲れた~、先にお風呂入っておくか。」
彼女は独り言をつぶやいてお風呂に入り気分を切り替える為にお風呂準備をした。
一方ガルムも装備をつけたまま椅子に座ったまま呆然としていた。
自分が負けた!?しかも人間相手に・・・
ファイヤードラゴンだって斬り伏せた、今まで何度も強い魔獣とも戦ってきた俺が?
力いっぱい打ち込んだのに、全力で負けたって気がしない。
ひらりひらりと落ちて来る羽毛を相手にしているようだった。
しかし、負けは負けだ!
この装備ならあいつと同じ土俵に立ってる!
今度は負けやしない!
ガルムはオーガとしての誇りにかけて誓った。
やがて日が落ち2人は宿1階のロビーで落ち合った。
「気分は落ち着いた?」
「おまえこそ落ち着きを取り戻したのか?」
「もう大丈夫。」
「ならいいんだ。」
そうしているとエルドリンが迎えにやってきた。
「こんばんわ、それでは行きましょうか。」
3人は連れ立って居酒屋ストロングホール・サロンへと向かった。
居酒屋ストロングホール・サロンは今日も盛況だ。
入口に店員のアランが入店客を捌いている。
「こんばんわエルドリン様。席はご用意出来ております。」
「ありがとうアラン。今晩もよろしく頼むよ。」
「本日も歌姫セレスティア・ヴァイスによる”星空の調べ・セレスティアの夜想曲”が開催して
おります。」
「そうかい。後程聴かせていただこうかな。」
そう言いながらアランに案内されて3階の個室へ。
個室は長テーブルで同時に10人は座れそうだが既に用意された食事と席は4人分である。
エルドリンに促されるままにソレンディルとガルムが座った。
「それではゲストをもう一人。」
彼がハンドベルを鳴らすとドアが開き1人入って来る。
シスター、ソフィア・グレースフィールドである。
「ソフィア、2人は知り合いだったの?」
「幼馴染かしら。」
ソレンディルの質問にソフィアがはぐらかすように答える。
「まずはともあれ乾杯を。健康と安全を祝して乾杯。」
エルドリンが乾杯の盃を上げた。
つられて3人も盃を上げた。
「今日はお疲れ様でした。色々とお話がしたくて個室をご用意致しました。
まずは私のパーティーの参加を歓迎していただけますか?」
「問題ないわよ。あれだけの使い手ならね。」
「ありがとうございます。次はソレンディル様がお聞きしたい内容について私なりに理解している事を
お話致しましょう。」
「エルドリン、敬称は不要よ。」
「分かりました。」
エルドリンは自分が理解しているエーテルリウムの事について話し初めた。
・エーテルリウム種族の国”エーテルヴァラー共和国”
・エーテルリウムは不老長寿で寿命は約2000年。
・平和主義であり亜人とも仲良くしていた。
・宗教は精霊信仰だった。
・人口はおよそ50万人、中心都市ヴァルティアを元に衛星都市郡を形成していた。
・国の首相はイシュタル・ブラッドレイジ
・自分"ローラン・アイアンクラウン"は中心都市ヴァルディアで摂政を担当していた。
・国の名前”エーテルヴァラー”が示す通りエーテルという魔法的なエネルギーを表している。
・現在使われている魔法はエーテリウムが造った。
彼等は精霊信仰を持っていた。マナの集積が精霊であり。精霊が現象を起こすのである。
サラマンダーが火を、ピクシーが風をといった具合である。
そうであればマナが起こす現象が魔法ではないのか?という疑問に至り、
体内のエーテルを媒介としてマナを集積し結果をイメージして効果を得る。
その様に1つ1つ生活魔法が生み出されて行った。
エルドリンははっきりソレンディルに告げる。
「魔法は無詠唱により造られて、無詠唱が扱えないもしくは他種族の為に詠唱、スクロール(詠唱紋)
が造られた。無詠唱が詠唱より効果が少ないという事はありません。」
そして彼は続ける。
攻撃に適した属性魔法や時限魔法が研究されるとエーテルヴァラー共和国は周辺国との軍事バランスを
崩すと周辺国に恐れられるようになる。当然国内でも不安視されるようになる。
すべてのエーテルリウムが攻撃魔法を習得している訳ではないので、和平を推進する派閥と侵攻してこ
ようとする周辺国を攻撃するべきという派閥に国内世論が2分した。
首相であり軍事顧問でもあったイシュタル・ブラッドレイジは攻撃肯定派。
摂政で戦時には軍隊を率いる提督の職にあった和平推進派ローラン・アイアンクラウン。
国を2分する状態の中、周辺国が侵攻、イシュタル・ブラッドレイジにより勝利が続いたが、
その結果非戦闘員の国民の大多数は死に、引き返しようのない大きな犠牲を払った。
栄華を極めたエーテルヴァラー共和国は滅亡を迎え、灰燼と帰した。
和平推進派ローラン・アイアンクラウンは戦争を止められず、開戦後国防に力を注いだが国が消える
事を止められなかったのである。
彼の妻子も戦火により失われしまい、生き残った国民は散り散りとなり、彼の派閥は少数が生き
残ったという悲惨な最後を迎えたのであった。
その為、栄華を誇ったエーテルリウムについて口伝で残っている物の、資料や跡が見つからないのである。
エルドリンがここまで話すとソレンディルに明らかな動揺が現れた。
しかしこの話はかなり昔話の為、もうどうしようもない事である。
「魔法は無詠唱により造られた・・・」
「分かります。私も魔法学校卒業しましたから。常識が壊れますよね。」
ソレンディルの動揺をエルドリンが抑える。
「私も驚きましたが、何年も掛けて実際に無詠唱を会得しました。
これは本当の事なのです。
ソレンディルのような大魔法使いなら理解出来るだろうとお話しました。」
ソレンディルはエールを飲んで深呼吸をした。
ガルムは大人しく肉料理を食べながら話を聞いていた。
シスターソフィアが言葉を繋いだ。
「私はね、エルドリンから話を聞いた時驚いたけれど、今回の修練は無詠唱で挑もうと思うの。
既に生活魔法をエルドリンと一緒に無詠唱で学ばせてもらったから感覚は身についたのよ。」
「今の話をお聞き頂いた上で日記をお読み下さい。理解が早いと思います。
その上で何でもご質問して下さい。」
「こんな大事な情報、教えて貰っても良かったの?」
「仲間になるんですから有益な情報は共有しますよ。」
エルドリンは笑顔で答える。
「さっそく疑問なんだけれどエーテルヴァラー共和国の大体の位置と年代は分かるかしら?」
「エーテルヴァラー共和国はこの大陸中央部にある大きな湖の周辺だと思われます。
年代は良くわからないのです。夢は見続けているのでどこかのタイミングで分かるかも知れません。」
「そうね。その頃の周辺国の名前から調べる手もあるかもね。」
「冒険しながら探って行きましょう。」
ソレンディルが落ち着いた表情になったのをシスターソフィアとガルムもホッとして場の雰囲気が和んだ。
ガルムから提案が出た。
「しばらくは連携と装備の確認で近くの魔獣退治といかないか?」
「良いですね。僕は軽戦士なのでアタッカー、ガルムさんが盾となりソレンディルが後衛でなんて考える
と楽しいですね。」
「お前は元騎士団なんだから壁役もいけるんだろ?」
「そうですね。実はガルムさんと同じ装備持ってるんですよ。
マジックボックスに入れてあるのでいつでも出し入れ出来ますよ!」
「そりゃいいな~前衛を交代する事も出来るな:」
「マジックボックス!?また謎ワードを簡単に出してくるな~」
ソレンディルは酔ったふりなのかエルドリンに絡んでくる。
「やっとエルドリンに旅の仲間が出来て嬉しいんだけれど、私はついて行けないから嫉妬しちゃうな。」
「修練って言ったって毎日じゃないんだろ?なら一緒に行ける日を作って一緒に行こう。」
「ありがとうエルドリン。」
和んだ雰囲気が流れる。
4人はワイワイ楽しい話で夜はふけて行きました。