9、合宿初日
翌朝
よく晴れた晴天の元、ソレンディル、ガルム、エルドリンの三人は、西方の大森林ウォーデンフォレストでの合宿に向け、市場で食材の買い出しに向かった。
屋台が並び美味しそうな香りがしてくる。
肉や食材だけでなく、牛肉の串焼きや具材たっぷりのスープ、美味しいデザートも売っている。
通りにはベンチが用意されていて屋台で買ったものを食べ歩きする事も出来る。
エルドリンは魔法でマジックボックスを出した。
大容量で中に入れた物を時間停止する優れものだ。エルドリンは大きな寸胴をいくつか購入した。
寸胴に温かい料理をたっぷり入れて購入した。野菜や果物等も箱で購入した。
市場のお店もエルドリンが遠征する際に、毎回同じ購入の仕方をしてくれるので、食材の量を増やしてくれたり、別の食材を金はいらないと差し出してくれたり、割引してくれたり、彼に良くしてくれた。
エルドリンは道具屋で樽を10個購入して、飲料水を生活魔法で作成してマジックボックスに入れた。
酒屋に行って、ウィスキーを20樽、ワインを20樽、エールを40樽購入した。
「どこかで祭りでもやるんですかい。」等と揶揄された。
それら全てをマジックボックスに収納した。
ガルムとソレンディルは串焼きを食べながら、エルドリンが仕入れをテキパキとしている様子を見ていた。
これから彼等が向かう森、ウォーデンフォレストはアルカディア王国の国土の四分の一を占める広大な森である。
魔獣が棲む領域までは入口から数日を要し、城塞都市アイアンゲートからは徒歩三日を要す距離にある。
アイアンゲートでは、王都を結ぶ街道が一部ウォーデンフォレストにかかる為、魔獣のパトロール及び定期的に討伐して街道の安全を確保している。
合宿地としては最適だった。
城門を抜けた一行は、街道を森に向かって進み、暗くなる前に三人でテントを張り、ガルムが焚火に火を入れた。
夕食は屋台で仕入れた美味しいホワイトシチューと焼肉、それに繊維質の多いサラダを食べた。
「二人には訓練して欲しい事があります。」
「なんだ?」
「ガルムには盾の訓練をお願いします。パーティーの防御力を上げて行きましょう。」
「それは良いな!」
「ソレンディルには無詠唱を訓練して身につけて、詠唱時間の短縮になりますよ。」
「む、無詠唱~、まかせてマスターするよ。」
エルドリンの提案に二人は快く承諾してくれた。
食後の片付けはソレンディルが手伝ってくれた。
ガルムは新しい鎧を付けて、バスターソードを振って具合を確かめていた。
エルドリンはソレンディルに無詠唱を教えていた。
「杖を使ってやってみましょう。」
エルドリンはソレンディルの杖を握って、眼をつぶってマナを集めると、氷の槍が出現した。
「氷槍」
氷の槍は飛んで行った。
「この杖はマナを集めて、イメージすると魔法が起動を補助してくれます。
今見せたのが、その事象です。やってみますか?」
「そうだね、体感する方が覚えが速いですね。」
ソレンディルは杖をエルドリンから渡され、杖を握りマナを集める。
目を瞑り、氷をイメージする。
「ソレンディル眼を開けて下さい。」
エルドリンの言葉に眼を開けた。
氷の槍が浮かんでいた。
「氷槍」
ソレンディルは魔法を発動させると氷の槍は飛んで行った。
「どうですか?」
「す、凄いね。自分にも出来たね。」
「この杖に模様がありますよね。火、水、雷、氷、風、五属性の魔法を補助してくれます。
ハイエルフのソレンディルなら、私よりエーテルの保有量が多いので、無詠唱の成功率が高いと思っていました。
初めてから成功するなんて、素晴らしいですね。」
「じゃあドンドン続けるね。」
ソレンディルは無詠唱は生まれつきの個性だと思い、習得出来るとは思ってなかった。
それが出来る事に興奮して嬉しくなった。
「杖は火、水、雷、氷、風、五属性の魔法を補助します。その大きな魔石にマナを集めると魔法効果が増幅されます。
この二つは聞きましたよね。杖を使い続けると、イメージするだけで起動するようになります。
あなたのエーテルに共鳴して、ソレンディルの個性に合わせて杖はフィットします。」
「それは凄いね。」
「私の刀も同じです。私の保有エーテルはソレンディル程大きくないので、魔石の仕込みがありません。」
「私、褒められているみたいだね。」
「ソレンディルと同じ位、私も興奮しています。」
ソレンディルは風の精霊により空高く上がったり、雷を発生させたりして杖の魔法制御を試してみた。
彼女は手応えを感じ、胸が熱くなるのを感じた。
ソレンディルは成功の喜びに浸っていた。
エルドリンがガルムの様子を見ていた。
「鎧の具合はどうですか?」
「こいつは芸術品だな。フィット感も良いし、重さを感じない。
鋼鉄製の鎧には戻れないな。バスターソードの動きを阻害する事もない。
バスターソードを背中に装着するようにホルダーも付いている。
盾にも小手をホールド出来るようになっている。
しかも展開して大きく出来るし、アンカーを地面に打つ事も出来る。
背中にバスターソードと盾を一緒にホールドして走る事も出来る。
素晴らしいな。」
「王国騎士団と同じ鎧です。バルドの開発能力と工房の腕前が良い。
バルドも歴戦の強者に装着してもらえて、大変喜んでいました。」
「盾を貸して下さい。」
エルドリンがガルムから盾を受け取る。
「斬りつけ下さい。振り下ろし、突きを入れて下さい。」
「分かった。」
ガルムがバスターソードを構える。
エルドリンは盾を装備して声を出した。
「打ち込んで下さい!」
ガルムはバスターソードを振り下ろす。
エルドリンは盾を斜めにして、下から体で支えるようにバスターソードを受けた。
盾を振り、ガルムの顎目掛けて盾を振った。
ガルムはそれを避ける、横薙ぎにバスターソードで払うと、盾を地面に突き立てて体重をかけて剣を受けた。
そのまま押し返して来る。突きで距離を取ろうとすると、盾を横に向けて刃を受け流した。
刃に沿ってガルムに向かって走りよって、前蹴りを入れようとする。ガルムは飛び退いた。
「どうですか?盾は強いでしょう?」
「そ、そうだな。……お前が扱うと何でも良い武器になっちまうな。」
「ガルムより小さい私が扱ってこれです。
背丈があって、歩幅が大きい、膂力が強いガルムが扱ったら最強でしょう。」
「それは言い過ぎだ。だが、盾に対する認識を改めないとな。」
「この盾は鎧以上に魔法防御力が強い。物理的な強さは今見た通りです。」
「その装備で俺はさらに強くなれる。」
「そうです。」
ガルムの目つきが鋭くなる。
エルドリンはガルムの向上心に火を着けた。
エルドリンはマジックボックスから大きな風呂釜を出して、土魔法で目隠しを作った。
水魔法で湯を張り、火魔法で温める。
湯に疲労回復と癒しに効く薬草を入れた。
「お風呂に入ってゆっくり寝て下さい。結界魔法を張ります。
夜警は心配しないで下さい。」
湯煙の上がる風呂に順番に浸かり、疲れを癒やす。
羊の毛で出来た上等な寝床で横になり、二人は眠った。
エルドリンは最後に風呂に入り、風呂釜をしまい、壁を片付けた。
静かな夜空の星を見て二人と上手く行きそうだと手応えを感じていた。
こうして、合宿初日の夜は更けていった。




