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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
102/103

102、黒竜との闘い


エルドリンは、街を覆う結界の縁をすり抜けるようにして、空へと躍り出た。


その先――空を我が物顔で旋回する、黒き巨竜。


その姿はまるで、世界そのものを見下ろす支配者。悠然と、そして傲慢に、空を占有していた。


巨大な翼が一度はためくたびに、空気が震え、圧力が地上へと叩きつけられる。


だがエルドリンは、微塵の躊躇もなく、その懐へ踏み込んだ。


「――まずは」


低く呟き、指先を滑らせる。


瞬間、空間に幾何学的な紋様が弾けた。


竜の巨体に沿うように――十カ所。


寸分の狂いもなく配置された魔法陣が、まるで獲物を囲い込む檻のように展開される。


「――食らえ。トゥラント」


次の瞬間、世界が白く焼けた。


轟音とともに、太陽の柱にも似た雷光が一斉に迸る。


『ズガァァァァンッ!!』


光は竜の胴体を貫き、空気を爆ぜさせ、雲を吹き飛ばし、衝撃波が波紋となって広がった。


「な、なんだあれは……!」


地上の騎士たちが息を呑む。


「……規模が、桁違いだ」


竜が苦悶の咆哮を上げた。


『グォォォォォォッ!!』


巨体が軋み、空を歪ませながら身をよじる。


だが――逃げ場はない。


エルドリンの視線がわずかに動くと同時に、次の魔法陣が展開される。


竜の進路を“読んだ”かのように。


「――燃えろ」


魔法陣から噴き出したのは、灼熱の炎球。


それは流星のように降り注ぎ、竜の体表へと叩きつけられる。


『ゴォォォォッ!!』


黒く輝いていた竜鱗が赤熱し、ひび割れ、剥がれ落ちる。


露出したのは、生の肉。


そこへ――


「――爆ぜろ」


乾いた声。


『ドォンッ!ドドドドォン!!』


爆裂が連鎖し、肉を裂き、衝撃が内部へと叩き込まれる。


竜は大きく仰け反り、その巨大な腕を振るってエルドリンを掴もうとした。


だが――


「遅いな。」


その声と同時に、エルドリンの姿が霞む。


紙一重で巨腕をすり抜け、彼は竜の背へと着地していた。


抜刀して竜燐と皮がはだけた所目掛けて、躊躇なく突き立てる。


『ズバァ!!』


脂肪を切り筋肉に届いた、確かな手応え。


そのまま、尾へ向かって駆ける。


血と火花が空に散る。


『グォォォォォ!!貴様ァァァ!!』


怒号が空を震わせた。


エルドリンは、剥き出しになった傷口へと凍結魔法を叩き込む。


「――凍れ」


傷は白銀に染まり、再生を阻害する。



地上では。


ソレンディルは、その戦いを冷静に見据えていた。


風に髪をなびかせながら、思考を極限まで研ぎ澄ませる。


「……見えた。」


「エルドリンが鱗を剥がしてる。あれは多分、古代語ハイエイシェントで魔法をかけていると思うよ。

 鱗が無い所には魔法が効きそうだね。」


「魔法は通るか。あとは切り込んで――再生を阻害すればいいか。」


ガルムが唸る。


「なるほどな……全部弾いてたのは、あの鱗か」


「あの黒竜には傷がない。まだ負けたことはない。

 だから奇麗なんだよ。」


ソレンディルは空を見上げた。


「でも今は違う。倒すよ。」


そして横目でガルムを見る。


「ガルム、早く魔道具に慣れて。」


「任せろ。」


装置にマナを流す。身体がふわりと浮く。重力から解放される感覚。


「……いいなこれ。これで空でもやれる。」


ガルムの目に闘志が宿る。



上空。


エルドリンは攻撃を続けながら、同時に二人の動きを捉えていた。


黒竜は厄災の石の影響により、怒りに完全に飲まれている。


『人間風情がァァ!!』


口腔に赤い光が集束する。


放たれる――灼熱の閃光。


だがエルドリンは軌道を読み、回避する。


さらに追撃の雷撃。並列思考で予想していた。すべて問題なく躱す。


すれ違いざま、頭部へ。


「爆裂。」


閃光が弾け、黒竜の視界を奪う。


その瞬間――


ガルムが飛び込んで来た。


「縮地!」


空中での急加速。竜の上空へ躍り出る。エルドリンが腕を掴み、背へ導く。


「行って下さい。」


「おう!」


同時に――


下方から、ソレンディル。


「――トゥラント!」


ゼロ距離の雷撃。


『グォォォォォ!!』


「竜燐の上からでも効いてる。」


間髪入れず、魔法陣を展開。


火炎、爆裂、雷撃。逃がさない。


竜が反撃として広範囲の火炎を放つ。


だがソレンディルは冷静だった。


「凍れ」


炎を氷で止める。回避と防御を織り交ぜ、攻撃を継続する。




背上。


ガルムはバスターソードにマナを注ぐ。


刃に炎の紋章が浮かび上がる。


――”炎の誇りを忘れるな”


同時に重力魔石が輝く。


「こいつをくらえ!」


凍結された傷口へ、全力の一撃。


『ズバァァァ!!』


刃が肉を裂き、内部へ到達する。


「焼き尽くせ!」


炎が内部から噴き出す。


『グァァァァァ!!』


竜が絶叫する。



エルドリンとソレンディルが追撃。


爆裂で腹部を抉る。


『ドォォォン!!』


露出した肉に炎。そこへ雷撃。痛みが連鎖する。


黒竜はもはや自意識を失いかけていた。


エルドリンは厄災の石の位置を探る。


――核。


その位置を。


竜の口に光が集まる。


その瞬間。


「――そこだ」


”縮地”顎下へ潜り込み、刀を突き立てる。


そのまま、胸部へと斬り裂きながら進む。


新たな刀は、竜鱗すら断ち割る。


そして――


「……あった」


硬質な感触。刀が止まる。


エルドリンは今一度上段に構え直す。


呼吸を整え、右足で蹴る。左足を力強く踏み込む。


その勢いを肩から腕に、そして両腕を振りぬく。


手は切り込む一瞬、刀身を絞るように握る。


全身の力を刀に伝える。刀は美しい軌道を描きながら厄災の石とぶつかった。


『バキィィンッ!!』


刀を振りぬくと、大きな音がして厄災の石が、真っ二つに分かれた。


砕けた魔石は地上へ落下した。


「ソレンディル、ガルム。退避を。」


二人は即座に離脱する。


エルドリンは空間魔法を展開し、黒竜を閉じ込めて捕獲した。


「……これで終わりだ。」


光が収束する。


そして――


エルドリンは転移魔法で地上へと戻った。


こうして、黒竜との戦いは終結した。


だが――


空に残る焦げた匂いと、崩れた街並みは、まだ戦いが終わっていないことを告げていた。


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