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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
101/103

101、戦線復帰


エルドリンは、二人の様子を静かに見つめたあと、穏やかな声で口を開いた。


「……二人とも、かなり消耗していますね。アゼザルから、戦いの一部は聞いています。――相当、苛烈だったようだ」


その言葉には責める響きはなく、ただ事実を受け止める重みと、労わりが込められていた。


「……ああ、タフな戦いだった」


ガルムは短く答えたが、その声には疲労が滲んでいる。握りしめた拳には、まだ戦いの余韻が残っていた。


「ソレンディル……魔法を使いすぎて、精神まで削れているのではありませんか?」


「……そうだね。少し、きついかも」


ソレンディルは小さく笑ったが、その笑みは力が抜けていた。


「確かにな……油断すりゃ、そのまま倒れそうだ」


ガルムは肩で息をしながら、苦笑を浮かべる。


張り詰めていた糸が、今にも切れそうな状態だった。


エルドリンはそんな二人を見て、和ませるように微笑んだ。


「本当に、お疲れ様でした」


一拍置き、視線を空へと向ける。


そこには、なおも旋回を続ける巨大な竜の影。


夜のとばりが降りる空を裂くように、その異形は悠然と舞っていた。


「……ですが、あれを倒さない限り、この戦いは終わりません」


静かでありながら、逃げ場のない現実を突きつける言葉だった。


「――もう少しだけ、付き合ってください」


その声には、不思議と抗えない強さがあった。


エルドリンは両手を掲げ、詠唱を紡ぐ。


足元から、淡く青白い光が湧き上がり、二人の身体を包み込んだ。


冷たい水に浸るような感覚と同時に、心の奥にこびりついていた疲労や恐怖が、ゆっくりとほどけていく。


先ほどまで胸を締めつけていた絶望――仲間を失うかもしれないという恐怖が、霧のように薄れていった。


「……これは」


ソレンディルが目を見開く。


「精神強化の魔法です。心が和らぐでしょう。お二人が過負荷で崩れる前に、支えを入れました」


エルドリンはそう言いながら、小瓶を二人に差し出した。


「これを飲んで下さい。上級薬草から精製した回復薬です。」


ガルムはそれを一気にあおる。


喉を通った瞬間、熱を帯びた液体が体の奥へと流れ込み、血流とともに全身へ染みわたっていく。


重かった四肢が軽くなり、いつのまにか鈍っていた感覚が戻ってくる。


「……効くな、こいつは。」


ガルムが目を見開いた。


ソレンディルも深呼吸をして静かに息を吐き、頷いた。


「……回復してきた感じがする。」


エルドリンはそんな様子を見ながら満足げに小さく頷いた。


「少し座って、話を聞いてください。」


そう言ってから、視線を後方へ向ける。


「リシェル。アシュリーを、こちらへ」


「はい!」


リシェルは即座に応じ、肩を貸しながらアシュリーを連れてくる。


アシュリーはまだ完全には回復していない。


その姿を確認したエルドリンは、全員を見渡して告げる。


「アイアンゲートから、冒険者の援軍を連れてきました。」


その一言に、周囲の空気がわずかに変わる。


「アシュリーとリシェルは、彼等の指揮を執ってください。負傷者の救出と治療をお願いします。」


「……了解しました。」「援軍が来てくれるなんて。」


アシュリーはまだ声に力はないが、はっきりと応じた。


リシェルは感激して強く頷いた。


エルドリンは再びガルムとソレンディルへ向き直る。


「お二人は、少し休んだ後――あの竜を、三人で討ちましょう。」


その言葉に、ガルムの口元がわずかに歪んだ。


「……仕返しか。いいな。」


ソレンディルも静かに微笑む。


エルドリンはさらに詠唱を重ね、今度は白い光が二人を包み込んだ。


敵のダメージを和らげ、肉体を強化する魔法だった。


筋肉の奥に力が満ち、感覚が鋭く研ぎ澄まされる。


戦うための身体へと、再び作り替えられていく。


「作戦は?」


ガルムが短く問う。


エルドリンは一歩前に出て、空の竜を見上げた。


「まず、私が単独で仕掛けます。魔法と剣、両方で圧をかけます。」


その声は落ち着いていたが、内に鋭い意志を秘めている。


「お二人はその間、観察してください。あれほどの巨体です。必ず死角があります。」


ソレンディルは軽く息を整えながら頷いた。


「……属性の相性も見極めるってことだね。」


「ええ。効く魔法を見つけたら、容赦なく叩き込んでください。」


「了解」


短く、しかし確かな返答。


ガルムが腕を組んだ。


「で、俺は?」


エルドリンは一つの魔道具を取り出し、ガルムへ差し出した。


淡い光を帯びたそれは、見ただけでただの品ではないと分かる。


「これを」


ガルムは受け取り、目を見開いた。


「……おい、これって」


「浮遊補助装置です。試作ですが、実用には耐えます。」


エルドリンは淡々と言う。


「人間にはエーテル量が足りず扱えませんが、ガルムなら問題ない。」


ガルムは拳を握り、にやりと笑った。


「空で戦えってか……上等だ。やってやる。」


「マナを送り込んで、イメージで浮かぶ、移動するとなります。


 空中での小回りは“縮地”を応用してください。


 水平移動、上下移動はそれで対応して下さい。


 近接、遠隔でも構いません。攻撃を叩き込む。」


「ぶっつけ本番だな。」


「ええ」


エルドリンは微かに笑った。


「ですが――ガルムなら出来る」


ガルムの目に、再び闘志が燃え上がる。


「……任せとけ。」


先ほどまで、絶望の淵にいた二人は、もうそこにはいなかった。


戦う者の顔へと、完全に戻っていた。


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