第一章 9 『魔力は災いの元』
アモンの名前をマモンに変更。
マモンの権能の名前を変更。
ウェッレ→テロー
カイセンが目を覚ます。
「朝か」
部屋を出る。
すると、そこにはナインが立っていた。
「おはようございます。シエル様が鍛錬場に集まるようにと」
「そうか、わかった」
鍛錬場に移動する二人。
そこにはシエルの仲間全員が集まっていた。
「何があったんだ?」
「それは、シエル様が皆が集まってから話すそうです」
シエルが話し始める。
「皆さん、今日は朝早くから集まっていただきありがとうございます」
外向きの喋り方で話を進める。
「昨日、シュテーレン・メヒテが決まりを破りました。詳しくは語りませんが、それを受けてシュテーレンをこの陣営から追放しました」
皆が妥当な判断だと考える中、ナインは少し思うところがありそうな表情を浮かべる。
シエルは話を続ける。
「シュテーレン・メヒテが裏切りとも取れる行動を行ったため、皆には私の権能で敵意があるかどうか確認させていただきます」
(シエルの権能ってそんなに便利なのか)
シエルはナイン、テクスト、カイセン、ミナ、グリフの順で調べていく。
そして次に、近接戦闘を得意とするエマ・ウェーバーを調べる直前だった。
扉が強く開く。
「何者だ!」
テクストが声を張る。
「何者って酷いじゃないの」
そこに入ってきたのは、高価な衣服を纏った女。
その女が入ってきた瞬間、シエルはわずかに動揺を見せる。
「アイン家の人間かしら? 跪きなさい。第一王女であるミレナ・レーヴェ・ケーニヒの御前よ?」
ナインがミレナを見る。
(第一王女……)
「これはこれは、ミレナ様。いかなる理由でこちらに?」
50代前半の見た目で、隙のない仕立ての衣服を身につけていた。
シエル陣営の政治を担当している人間の一人、ヘリオス・ネヤルだった。
「あなたは……ああ、ヘリオス・ネヤルでしたっけ? 何をしに来たかって? そんなの決まってるじゃない! 私のシエルちゃんに会いに来たのよ」
ミレナはシエルを見る。
「シエルちゃーん! 元気だった?」
「ミレナ姉様。今日はどういったご用で?」
シエルの声は震えている。
カイセンはそんなシエルを見て、わずかに眉をひそめる。
(シエルが……怖がっている?)
「え? ご用がなきゃ来ちゃいけないの? 私はただシエルちゃんに会いたかっただけ」
ミレナは何かを思い出すように、配下を呼び出す。
「ベータ! あれ持ってきて」
「はい」
若い男が菓子折りのようなものを持って入ってくる。
それをミレナが受け取り、シエルに差し出す。
「はい! シエルちゃん、このお菓子好きだったでしょう?」
「ありがとうございます。私からも何かお返しがしたいのですが……」
「いや、いいのよ! 私はシエルちゃんを見たかったのと、もう一つ情報を伝えに来たのよ。強欲がこっちに向かって動き出したわ。目的はわからないけど、気をつけてね。元気そうだし、今日は帰るわね! バイバイ、シエルちゃん」
ミレナは手を振りながら鍛錬場から出ていく。
テクストは何も言わず、ミレナの後ろ姿を見送っていた。
カイセンはその様子を見ながら思う。
(今のが第一王女。騒がしいやつだったな)
* * *
屋敷を出て、馬車を待つミレナと配下のベータ。
「あと数分で馬車が到着します」
「そう。わかったわ。それにしても、やっぱり可愛いわね。シエルちゃん!」
「どうして第三王女をそんなに気に入っていられるのですか?」
「シエルちゃんよ。第三王女なんて肩書きで呼ばないで」
「すみません。シエル様をどうして気に入られていられるのですか?」
「だって可愛いじゃない! 第二王女のローゼとは違い謙虚で、第一王子のイロン兄様とは違い少し儚い」
ミレナは笑みを浮かべる。
「私の言うこともしっかり聞いてくれる。とっても純粋で、とっても可愛い。そして、とっても惨めな私のお人形」
ミレナは話を続ける。
「勝てるわけもない王位継承戦に巻き込まれて、勝てるわけもないのに仕方なく足を踏み込む。小さい頃から鍛錬を続けて、剣と魔法の才を身につける」
ミレナは小さなシエルを思い出す。
「それでもやっぱり惨めな妹。周りに集まるのは、何かしら欠けた落ちこぼればかり。私の命令には逆らえない、可愛いお人形」
ベータはそれに反論も共感もせず、ただただ聞いている。
「私が導いてあげないと。決めてるのよ!」
ミレナは笑顔を浮かべる。
「私が王になった暁には、シエルちゃんを私の元で飼ってあげるの。永遠にね」
* * *
「強欲の魔族がこちらに向かっている……」
テクストはその情報が正しいものと信じられない様子だ。
「強欲……。この前森にいた憂鬱みたいなもんか?」
(夢に出てきたガイツ・マモンもたしか強欲……)
カイセンが疑問を口にすると、ナインがそれに応える。
「少し違いますね。強欲は、憂鬱が言っていた怠惰に近いです。魔族には七大魔族というものが存在していて、傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲がおり、強さは第一柱など、数字が若い方が強いとされています」
(強欲は夢の中で第六柱って言っていたから、6番目に強いのか)
「そして、その七大魔族の上に立つのが魔王です。ですが、その姿を見たことがあるものはいないと言われています」
「魔王……」
カイセンはその言葉を聞いて、少し考える。
「じゃあ、その七大魔族ってのは、魔王の命令で動いてるのか?」
「詳しくはわかりませんが、おそらく」
「へえ……」
テクストは腕を組む。
「強欲は目的が全くわからないな」
「そうですね。目的が分からない以上、警戒しておく必要があります」
シエルも口を開く。
「もちろん、私たちのところに来るかもわかりません。ですが、何が起きても対処できるようにしておいてください」
「了解した」
テクストが頷く。
「僕も協力します」
ナインも頷いた。
こうして朝の集まりは終わった。
それからしばらくの間、カイセンたちはいつも通り鍛錬を続けた。
強欲の魔族が近づいている。
その事実は皆の頭に残っていたが、今すぐ何かが起きるわけではなかった。
やがて日が沈み、辺りが暗くなる。
カイセンは自分の部屋へ戻っていた。
「今日は疲れたな……」
ベッドに腰を下ろす。
今日の朝に聞いた話を思い出す。
(強欲……ガイツ・マモン)
あの夢に出てきた魔族。
夢の中で、確かにそう名乗っていた。
(あいつが本当にこっちに向かってるのか?)
考えても答えは出ない。
「……まあ、考えても仕方ねえか」
カイセンはベッドに横になる。
天井を見つめる。
「明日も鍛錬だな」
そう呟き、目を閉じる。
今日はもう眠ろう。
そう思いながら、カイセンは眠りにつこうとしていた。
その時。
窓が破壊される音が響く。
その音を聞き、カイセンは起き上がる。
「誰だ!」
「やっと着いたぜ」
窓を壊して入ってきたのは、一人の男。
「お前がシュヴェアムートが言っていたカイセンっていうやつだな。なるほど、ものすごい魔力量だ」
「何の用だ」
現れた謎の男は、もしかしたら強欲の魔族ガイツ・マモンなのではないのか。
この男が夢と同じ言葉を言ったならば、予知夢という能力は確定するも同然だ。
「用は一つだ。お前に話がある」
男はカイセンを見つめる。
「俺は七大魔族の第六柱、強欲のガイツ・マモン。お前、俺の配下にならないか?」
「配下になれだと? 人の部屋をぶっ壊しておいて、何言ってんだ」
カイセンは呆れたように言った。
(夢の内容通りだ)
目の前にいる男は、夢に出てきた男と同じ言葉を口にした。
「それは悪いことをしたな。だが、俺の配下に入れば、もっと広い部屋を与えるぞ。だから俺のものになれ、カイセン」
「まず、俺のことをどこで知った」
「シュヴェアムートのやつから聞いたんだよ」
「憂鬱の魔族か」
「ああ。あいつが言うには、魔力量の多いやつが二人、人間族にいるらしくてな。期待して飛んできたんだが……これはすごい。期待以上だ」
マモンはカイセンを見ながら、楽しそうに笑う。
「魔力量だけなら、賢者を彷彿とさせる」
「もう一人っていうのは、ナインのことだろ。ナインにはもう会ったのか?」
「もう一人の、ナインっていうやつは魔力を抑えているようでな。お前は魔力を垂れ流しているから、すぐに見つけられた。凄まじい魔力量だ」
マモンは右手を広げる。
「魔力がこの世の全てを凌駕する。俺のものになれ」
「俺は誰のものにもならない」
カイセンはキッパリ断る。
「そう言うなよ」
マモンは笑みを浮かべる。
「俺はこの世の全てが欲しい。物も、知識も、生命も、力も、大地も、空も……この世界を!」
その声には、隠しきれない欲望が滲んでいた。
「全部、手に入れる」
マモンは笑みを崩さない。
「さあ、もう一度言うぞ。俺のものになれ。悪いようにはしないぞ?」
「嫌だ」
「そうか」
マモンは少しだけ目を細めた。
「だが、己の肉体は己の欲のために使う。それも一種の強欲だ。否定はしない」
一度言葉を切る。
「だが、俺の強欲は、お前の強欲なんかじゃ満たされない」
「テロー」
マモンが権能を発動する。
「グロブス・フランメ!」
その瞬間、ナインが部屋へと入り、攻撃を仕掛けた。
「お前がナインか!」
ナインは魔法を繰り出すために抑えていた魔力を解放し、その魔力量を見たマモンは興奮する。
「凄まじい魔力量だ!」
しかし、目の前でグロブス・フランメが消える。
その技は囮でナインはマモンに当たる前に、自ら消したのだ。
「あ?」
「消えろ。王牙流・連牙!」
テクストが不意打ちを仕掛け、鋭い攻撃を連続して繰り出す。
「もっとも私としては不意打ちなどやりたくなかったのだが、相手が相手だ。仲間を失うくらいなら、名誉などいらない」
しかし――。
それを受けても、マモンは立ち上がる。
「避けろ! テクスト!」
マモンが、先ほどまで持っていなかった斧を手に取り、テクストへ振りかざす。
それをテクストは間一髪で避ける。
「チッ。避けたか。こんな楽しい空間に、ゴミが入ってきてんじゃねえよ。お前ーー魔力ねえだろ」
「は?」
思わず声を漏らす。カイセンは、その言葉に動揺を隠せなかった。
(テクストに……魔力がない?)
「魔力がこの世の全てを凌駕する。これが俺のフィロソフィーってやつだ」
そして、テクストを見つめる。
「つまり、魔力がねえお前は、この世界じゃゴミなんだよ」




