第一章 8 『それぞれの強欲』
ガイツ・アモンの名前は結局ガイツ・マモンに変更しました。
誤字脱字を修正しました。
気絶したカイセンはナインによって屋敷の自室に運ばれていた。
そしてカイセンは再び夢を見る。
「俺は七大魔族の第六柱、強欲のガイツ・マモン。お前、俺の配下にならないか?」
以前も聞いた男の声。
「あのクソ女ども……絶対に殺してやる……絶ッ対に殺してやる……!!」
知らない女の悲鳴のような叫び。
「カイセン。あなたなんて親友じゃない」
知っている男の声。
「私は君を買いかぶりすぎていたようだ」
知っている男の声。
「僕の憂鬱の気持ちを味わってどうだい」
知っている男の声。
「残念でしたー!まんまと信じきっちゃって裏切られてざまぁ」
嘲笑うような知らない女の声。
そして、前回とは違い、今度は一瞬だけ光景が映る。
目の前にシエル、ナイン、テクストが倒れて死んでいる光景。
三人は動かない。
何度呼びかけても、誰一人として返事をしてくれない。
カイセンは悲鳴をあげながら起き上がる。
(なんだったんだよ今の……確かこんな夢以前も見てその内容は……ほとんど実現している。つまり予知夢? まさか権能!? 俺の権能が予知夢だってのか!?)
カイセンは額にーーいや、体全体にとてつもない量の汗をかいている。
(もし、俺の権能が予知夢でそれが必中だとしたら……)
カイセンは嘔吐する。
(いや、これが予知夢なら、これから未来に起こることのはずだ。未来は変えられるはずだ……)
この世界での死が元の世界より身近なものであることぐらい知っていた。
実際、カイセンとナインが森の奥に行かなければシュテーレンは死んでいただろう。
しかしまだ生きている。
ナインの友人が死んでいたことも知った。
でもそれはどこか他人事でそこまで心に来るものではなかった。
だが、これは違う。
未来で仲間が死んでいた。
これは他人事では済まされない。
カイセンには恐怖が刻まれた。
(あの夢は、何が原因で起きた未来なんだ? もし、これを知った俺が回避しようとした未来なら……これが避けられない未来だったら俺は……)
再び嘔吐する。
(いや、まだこれが予知夢だと決まったわけではない。そうだ、俺の思い違いだ。そうに決まっている……)
震えが止まらないカイセンの目からは涙がとめどなく溢れていた。
扉がゆっくりと開く。
「カイセン。起きましたか?」
ナインが入ってくるのに気づき、カイセンは急いで涙を拭き震えを殺した。
「お、おう。起きたぜ。どうしたんだ?」
ナインは夢の光景とは違い笑顔を浮かべている。
その笑顔を見た瞬間、カイセンは胸を撫で下ろした。
その表情はカイセンに安心を与えたと同時にこれを失うことに対する恐怖を与えた。
(嫌だ。嫌だ。嫌だ。なんで俺がこんなもの背負わなければいけないんだ。俺はただの高校生だ。いや、高校生すらまともにやってこなかったんだ。そんな俺がなんで今更、こんな思いしなくちゃいけねえんだ。)
「カイセン大丈夫ですか? 本当に顔色悪いですよ? もう少し休んだ方が」
心配そうに話しかけてくるナインの声はカイセンには届いていない。
(何もしたくない。もし、あの光景が俺のせいだったら。俺が悪魔に関係したせいで起こった未来だったら……)
嫌な妄想が頭を巡る。
(俺が悪魔を諦めればあの未来を避けられるなら……俺は……)
「ーー! カイセン!」
「ん? どうした? そんな大きな声を出して」
声は震えている。
「どうしたじゃないですよ。さっきから話しかけていたんですよ? 声も震えているし大丈夫ですか?」
大丈夫か大丈夫ではないかと聞かれたら今のカイセンは間違いなく大丈夫ではない。
「大丈夫だ。ただ少し疲れてるからもう少し休むな」
カイセンは心配させまいと大丈夫と嘘をついた。
しかし。その震えた声から出た嘘はナインを余計心配させた。
「わかりました。自分の部屋にいるので何かあったら呼んでくださいね」
そう言って部屋の扉を開ける。
「おう。じゃあまたな」
「はい。でも本当に何かあったら相談してくださいね。親友なんですから」
扉が閉まると殺していた涙が溢れてくる。
(死なせねえ。シエルもナインもテクストも他の仲間も俺は死なせねえ。悪魔を殺すのも諦めねえ、だが、悪魔を殺すだけじゃ満足しねえ。何があってもあいつらを守れる力を。強さを手に入れてやる)
拳を強く握る。
「あんな未来。絶対に起こさせねえ」
カイセンは立ち上がる。
「修行をして修行をして修行をして強くなってやる。誰も死なせねえ」
そう言うと部屋を出てナインの部屋をノックする。
「ナイン! いるか?」
扉が開く。
「カイセン! どうかしましたか!?」
「今までよりも厳しく修行をつけてくれ。誰にも負けないぐらい強くなりたい」
その顔は決意で満ちており、カイセンのやる気はすぐにナインに伝わった。
「わかりました。では今すぐにでも始めますか?」
「おう、よろしく頼む」
* * *
「まずは防御魔法です。僕が攻撃魔法を撃ち続けますので全て防いでくださいね。ザルべ・レフレクシオン」
ナインの後方から発射される魔法は壁に当たると反射し四方八方から飛んでくる。
「クリペウス・テネブラルム!」
カイセンも防御魔法で対応するが全方向からの攻撃を守り切れるわけもなく命中する。
「そのままでは死にますよ。オリジナルを作ってはどうですか? 僕は教えません。自分で覚えてください」
ナインはザルべ・レフレクシオンを止めることなく撃ち続ける。
「クリペウス・テネブラルム!」
(四方八方から攻撃が来るなら四方八方全部防げる数の盾を貼ればいい)
「確かにそれで防ぐことは可能でしょう。ですが、量を優先したせいで性能が下がっていますよ。火力が低いこの技でもすぐに壊せる」
盾が全て破壊される。
(まずい。全方向からの攻撃を守れる盾……。ん? まてよ。盾じゃなくてもいいじゃねえか)
カイセンは想像する。
全方位を囲むバリアのような防御魔法を。
「アイギス!」
想像通り薄いバリアのようなものが全方位を囲む。
「いいですね! ですがまだ弱いです!」
いとも簡単にアイギスは破られ、それと同時にナインは攻撃をやめる。
「今後はそのアイギスを極めましょう。そのままじゃ防御性能が低くて話になりませんから」
「おう!」
その後も修行を続けて午前は終了し午後からはテクストの元で剣術を学ぶ。
「剣の扱いもかなり良くなってきている。その調子だ」
二人は剣を交えながら対話する。
「まだまだだ。もっと強くならなきゃ、いけねえんだよ!」
「そうか、ならばもっと集中することだ」
カイセンの剣が吹き飛ばされる。
「五分休憩の後、また始めようか」
カイセンは座り込む。
「なあ、俺一つやってみたいことがあるんだけどよ。剣に魔力を纏わせてそれを飛ばすこととかできねえのか? 斬撃を飛ばす技とかやってみたいんだよ」
「……私はそんな戦い方はしたことがない。聞くならナインの方が詳しいだろうな」
「へえ、そうなのか。わかった」
「その代わりにいいものを見せてあげよう」
テクストは鞘に刺さった剣に手をかける。
「王牙流・連牙!」
鋭い高速の突きを連続で繰り出す。
カイセンはその速さに圧倒されると同時に憧れる。
「俺にもできるのか?」
「私が王牙流をマスターするのにかかった時間は四年半だ。それでもやるかい?」
カイセンは四年という期間を聞いて少しやる気が失せる。
「……考えとくわ」
「了解した。では休憩は終わりだ。立ち上がりたまえ」
カイセンは立ち上がりその後も剣術の練習を続けた後に解散し夜には夜食を食べながら本を読む。
(今日は歴史の本を読むか。あ、これ美味いな。この世界の食べ物は日本と酷似していて本当に助かる。他にこの世界にきた人でもいるのか?)
本をめくる。
人魔戦争。
人間と魔族の思想の違いによって起きた戦争。
第一次人魔戦争は人間側が勝利を収め、第二次人魔戦争では魔族側が勝利を収めている。
そのせいか近年では魔族の行動が活発であり対処には困っている。
敗北しても奴隷にされるわけではない。そもそも勝利を収めたという根拠も曖昧なものだ。
もしかしたら、第二次人魔戦争などというのはこちらの思い違いで、現在も第一次人魔戦争が続いているのかもしれない。
(でもあの魔族は第三次人魔戦争の準備って言ってたよな)
さらにめくる。
昔の縛りというページを見つける。
制約と契約と誓約。
制約、行動の制限。自らを不自由なルールに縛ること。
契約、他者との合意。二人で約束を交わし、その縛りを共有すること。
誓約、己への誓い。自分の心に覚悟を刻み、破らぬと誓うこと。
それらの縛りを用いることで力の底上げなどの利点が生じる。
簡単に結んでいいものではなく使用には注意が必要。
破った者には大いなる罰が与えられ、死するケースも多い。
強すぎる縛りを結ぼうとした場合、それに伴い厳しい縛りが結ばれる。
(まあ、俺が使うことはなさそうだな)
本を閉じ、ベッドで就寝する。
* * *
暗い夜道。
シュテーレンはシエルの屋敷に向かって歩いていた。
「くそが! あいつらがいなくても俺は魔族だろうが殺せていた! 決して俺は助けられたんじゃねえ!」
その手には魔力を纏わせている。
「あんなやつら殺ーー」
その時背後から声がする。
「何をやっているのですか? シュテーレン」
「シエル様! 何もしていませんよ!」
シュテーレンは焦った様子で手に纏わせた魔力を消す。
「そうですか。ではその手に纏っていた魔力はなんだったんですか?」
「こ、これは俺に攻撃してきた魔族にムカついたのを思い出して……」
咄嗟に嘘をつく。
「そうですか。一応言っておきますけど仲間同士での殺し合いなど絶対に許しませんからね」
「何を言っているんですか! 当たり前ですよ!」
シュテーレンは冷や汗が止まらない。
「シュテーレン。あなたは負けたのですよ。いいえ、それだけじゃありません。」
シュテーレンの拳に再び魔力が集まる。
「言うな。それ以上」
「あなたは二人に助けられたのです」
「黙れぇぇ! クソ女ぁ! お前は俺のために大人しく王座に座ってればいいんだよ!」
「あなたが私に近づいた理由はそれですか」
「もういい。お前を殺して他の王候補への手土産にしてやる」
「貴方の思い違いを正しましょう。」
「一つ、貴方がこの国で得られる地位などない」
「一つ、貴方が雑魚だと見下した者達は、決して雑魚ではない」
シエルの周囲に魔力が集まっていく。
「一つ、私は椅子に座っているだけの王女ではない。そして、それすらも分からぬ貴方に、負けることはない」
「黙れぇ!」
シュテーレンはシエルに襲いかかる。
「アイスシュヴェルト」
氷の剣を出しシュテーレンを斬り倒す。
その動きはまるで舞のように美しかった。
「安心しなさい。殺しはしません。シュテーレン、貴方のような男は仲間どころか配下にすら要りません。次に私の前に顔を出したらただではすみませんよ」
シュテーレンは気絶する。
気絶したシュテーレンのことなど気にも留めず、シエルはその場を後にした。
* * *
皆が眠りにつく時間。夜空を飛ぶ男がいた。
「カイセンにナインか。欲しいな」
彼の名は、強欲の魔族――ガイツ・マモン。
「この世の全ては俺のものだ」




