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この世界で、もう一度  作者: 霜月
第一章 『スタート・アゲイン 409』
7/34

第一章 7 『なりそこないの在り方』

変更内容


一部キングゴブリンになっていた部分をゴブリンキングに統一

魔法の名前を変えました。

シュラップ→アトニアー

ミューデ→カマトス

マット→アステネイア

デプリーー →メランーー

7話から12話の魔法の名前をところどころ変えていきます。変更が多くて申し訳ありません。

変更点はその話の前書きにまとめます


「魔族だと!? それも怠惰の第一の配下、憂鬱のシュヴェアムートだと!?」


 シュテーレンは驚きの表情を浮かべる。

 それだけではない。その顔には、わずかな恐怖すら浮かんでいた。


(なんだっけな、どっかで聞いたような……)


「あれ? 僕って結構有名なのかな?」


「知っていますよ。賢人を殺している魔族」


 ナインの声も震えていた。


「すごいなぁ。やっぱり有名なんだね、僕」


 シュヴェアムートは、どこか楽しそうに笑う。


「でも、それは伝説の一人歩きってやつさ。賢人はベルフェゴール様と一緒に殺したんだ」


 そう言って、ため息を吐く。


「なのになぜか、僕だけの功績になってさぁ」


 その会話を聞いていたカイセンが口を開く。


「なあ、賢人ってなんだ? 大賢者や賢者は知っているが、そんなの知らねえぞ」


「僕が説明してあげるよ」


 シュヴェアムートは楽しそうに話し始めた。


「まずは大賢者。これまでに誕生したのは三人。大賢者は生まれながらに魔器を持たない」


「でも、それは魔力を持っていないって意味じゃない。むしろ逆だ」


 シュヴェアムートは指を立てる。


「限界がないんだ」


「普通の生物は、魔器に入る量しか魔力を持てない。魔器は全盛期を終える頃には成長を終えて、そこで魔力量の限界が決まる」


「だけど大賢者には、それがない。限界がないんだ」


 シュヴェアムートは笑う。


「無限に魔力を貯めていられる。ずるいよね」


「次は賢者。これは単純に魔器のサイズが大きいんだよね。あと、寿命も長い。今は四人ぐらいだったかなぁ?」


「そして、賢人」


 シュヴェアムートがナインを見る。


「生まれた時は、ただの人間。だけど、その後に才能が開花して、一定の条件をクリアしたら賢人として認められるらしいよ」


「歴代で十五人しかいなくて、今は二人だけだったかな」


「へえ。そりゃ珍しいんだな」


 カイセンは納得したように頷く。


「ところでよ。お前は憂鬱の魔族なんだろ?」


「ああ、そうだよ」


「でも俺には、お前が憂鬱そうには見えねえな。楽しげに語ってるしよ」


「まあ、常に憂鬱なわけじゃないさ」


 シュヴェアムートは肩をすくめる。


「今は少し高揚しているのかもしれないね」


「賢人を殺している……」


 シュテーレンが呟く。


 先ほどまでの恐怖を振り払うように、顔を上げる。


「なら、お前も殺されるんじゃないか? なあ、ナイン」


「……」


 ナインは黙り込む。


「お前ら、知らないのか?」


 シュテーレンは二人を見る。


「まあ、知らないか」


 そして、ナインへ視線を向ける。


「こいつは子供の頃、異名がついていた」


「――神童、ナイン・レイン」


 その言葉を聞いた瞬間、ナインの表情がわずかに強張った。


「そして今の異名は――」


 シュテーレンが言葉を続ける。


「賢人のなりそこないだ」


「なりそこない?」


 カイセンが聞き返す。


「ああ、そうだ。こいつがなぜ、なりそこないなのか知っているか? 知らねえだろ?」


 シュテーレンは笑う。


「教えてやるよ。まず、なんでこいつが神童と呼ばれたかだ。こいつは全属性の適性値が百を超えていた。賢人の卵ともてはやされていたな。だが、今じゃどうだ?」


「なりそこないで――」


「できそこないだ」


 シュテーレンの声が少し低くなる。


「それには理由がある。ナインがガキの頃だ。その頃にはもう、神童として有名だった。そんなナインが、ある日二人の友人と森に入った」


「だが――」


 シュテーレンは一度、言葉を止める。


「それは、最悪の判断だった」


「魔族と出くわした。まるで今みたいな状況だな。いくら神童と呼ばれていたところで、所詮はガキだ。魔族と戦った経験なんてない」


 シュテーレンは淡々と話す。


「何もできずに怯えていた中、友人の一人がある決意をした。自分を犠牲にして、ナインともう一人を逃がそうとな」


 ナインの手がわずかに震える。


「ナインは、それを拒んだ」


「『ダメだ』ってな。『僕も戦う』って。『それが嫌ならみんなで逃げよう』って」


「二人でそんな話をしていたっけな。それが悪かった」


 シュテーレンの表情から笑みが消える。


「魔族は、その隙を見逃さなかった。犠牲になろうとしていた友人が――殺された。何も守れずにだ」


 カイセンは息を呑む。


「……」


「それを見て、ナインともう一人は逃げ出した。二人ともな」


 シュテーレンは遠くを見るような目をする。


「あれは怖かったなぁ。俺は、今でも逃げ出した自分を許せねえ」


「……」


「そして、その時からナインには癖がついた」


 シュテーレンがナインを見る。


「自分より実力が下の相手でも、そいつが実力者だと判断した瞬間――」


「逃げる」


「それが、こいつの癖だ。なあ、ナイン」


「それは秘密にしろって言ったでしょうが! シュテーレン!」


 ナインが声を荒らげる。


「そんなに殺気を向けんなよ! 昔の友人に向かってよぉ! 今も逃げ出したいんだろ? 昔みたいに」


「シュテーレン!!」


「長いなぁ」


 ずっと黙って聞いていたシュヴェアムートが口を開く。


「別に面白くないし。話が長い。声もうるさい」


 シュヴェアムートは、心底面倒そうにため息を吐く。


「ああ、実にうざったらしい」


「アトニアー」


 その瞬間。


 カイセンたち三人の身体から、一気に力が抜けた。


「……っ」


 カイセンは膝をつき、そのまま地面へ倒れ込む。


「な、なんだ……これ……」


 身体が重い。

 まるで全身から力を奪われたようだった。


 シュヴェアムートは三人を見下ろす。


「僕の憂鬱の気持ちを味わって、どうだい?」


「とてもだるいだろう? 力が抜けるだろう?」


 シュヴェアムートは薄く笑う。


「それが僕の憂鬱だ」


「何が……憂鬱だ……」


 カイセンは地面に手をつく。


「お前は……何が、したいんだ……」


 それでも、カイセンは立ち上がろうとする。


「わぁ、すごい」


 シュヴェアムートは感心したように声を漏らす。


「僕の憂鬱を感じて、まだやる気があるなんて」


「カマトス」


 シュヴェアムートが呟く。


 ようやく膝を立てたカイセンの身体が、再び地面へ押し倒された。


「ぐっ……!」


「そんなに抵抗して、疲れただろ?」


「憂鬱を感じるというのは、実に憂鬱だ」


「何言ってんだよ……」


 カイセンは息を切らしながら顔を上げる。


「同じ言葉……並べただけじゃねえ……か」


「なんだよ……これ……」


 シュテーレンも地面に手をついている。


「だるい……疲れた……眠い……」


「おお、君にはよく効いているね」


 シュヴェアムートはシュテーレンを見る。


「僕の憂鬱が」


 そして、ナインへ視線を向けた。


「君はどうだい? 賢人の卵とやら」


「僕たちに……何をしたんですか?」


 ナインは苦しそうに問いかける。


「君、つまんないね」


「アステネイア」


 再びシュヴェアムートが魔法を唱える。


「肉体が衰える気分はどうだ? 気持ちのいいものではないだろう」


 カイセンの身体から、さらに力が抜けていく。

 それでもカイセンは、地面に手をついた。


「はぁ……」


 カイセンは震える腕に力を込める。


「はぁ?」


 シュヴェアムートが目を細める。


「君、少しおかしいんじゃないかぁ? 僕の魔法を三つもくらって、それでも立ち上がる気力があるなんてさ」


「憂鬱なんてよ……」


 カイセンは歯を食いしばる。


「気持ちの問題だろうが……!」


 カイセンがゆっくりと身体を起こす。


 膝を立てる。


 そして――。


 震える足で、完全に立ち上がった。


「グロブス・メディウス・テネブラルム!!」


 黒い球体がシュヴェアムートへ向かって飛んでいく。


「うざい」


 シュヴェアムートは面倒そうに手を上げる。


「こんな弱いものを撃って、何になる」


 シュヴェアムートは軽く打ち払った。


「どうして……」


 ナインはカイセンを見つめる。


「どうして立ち上がれるんだ……カイセン!」


 身体が動かない。

 恐怖で立ち上がることすらできない。

 あの時もそうだった。

 友人が死んだあの日。

 自分は何もできなかった。


 そして今も――。


(どれだけ強い心を持っていたら……)


 ナインは拳を握る。


(僕には、恐怖で立ち上がれそうにもないのに)


「俺は負けねえ」


 カイセンが叫ぶ。


「俺は仲間を見捨てて、諦めねえ!」


 その言葉が、ナインの心に突き刺さった。

 聞いたことがある。

 友人が殺される直前に、自分へ向けて言った言葉。


『俺は仲間を見捨てて諦めねえ! 魔族だろうが魔王だろうが、やってやる!』


 その直後。

 友人は殺された。


「カイセン……」


 ナインは、震える声で呟く。

 あの日から、自分はずっと逃げ続けていた。

 強い相手を恐れ、仲間を危険に晒すことを恐れ、自分が何もできないことを恐れていた。

 けれど――。

 目の前のカイセンは、立ち上がっている。

 何度倒されても。

 身体から力を奪われても。

 それでも、仲間を見捨てないために。


「一つだけ聞かせてください。僕とカイセンは……」


 ナインはカイセンを見る。


「友人になれます……かね?」


「何の話だぁ?」


 シュヴェアムートが首を傾げる。


「友人?」


 カイセンは少しだけ笑った。


「……もう親友だろうが」


「……!」


 ナインの目が見開かれる。


「ありがとう……カイセン」


(親友が戦っているのになぜ下を向いていられる。また親友を失う気か! ナイン・レイン! 立ち上がれ! 力があるなら使うんだ。親友のために!)


 ナインはゆっくりと顔を上げる。

 その表情から、恐怖が消えていた。


「久しぶりに、本気を出します」


 ナインは立ち上がる。


「アンチ・マジック」


 その瞬間。

 カイセンの身体を覆っていた重苦しい感覚が、一気に消えた。


「……え?」


 カイセンが身体を動かす。


「すげぇ!」


 身体が軽い。


「体が軽くなった!」


「行きますよ」


 ナインはシュヴェアムートへ手を向ける。


「グロブス・アルトュス・フランメ!」


 放たれたのは炎の上級攻撃魔法。


 しかし、シュヴェアムートは避けようともしない。


「アステネイア」


 炎がシュヴェアムートへ届く直前。


 その勢いが急激に失われる。


 ナインは目を細める。


「攻撃魔法にも効果があるのか」


「僕の憂鬱を甘く見ないことだよ」


 シュヴェアムートは面倒そうに後ろを振り返る。


「ゴブリンキング、キングウルフ」


 奥で待機していた二体のキング級魔物へ声をかける。


「手伝ってくれよ」


 その言葉に、二体のキング級魔物が動き出した。


 カイセンは黒い剣を構える。


「ダインスレイヴ」


 カイセンが駆け出す。


 その瞬間――。


「しゃがんで、カイセン!」


「え? お、おう!」


 カイセンが慌てて身を低くする。

 その頭上を、凄まじい魔力が通り抜けた。


「アレス・エレメント!」


 七色に光る魔法が放たれる。

 それはキングウルフに直撃。

 

 カイセンが顔を上げる。

 そして、目を丸くした。


 そこにいたはずのキングウルフは、もう動いていなかった。

 完全に倒されている。


「……はぁ?」


 シュヴェアムートの声から、先ほどまでの気だるさが一瞬だけ消える。

 シュヴェアムートは倒れたキングウルフを見る。


「せっかく憂鬱な気分の中、育て上げたキングたちが……」


 シュヴェアムートの目が変わる。


「殺す」


 周囲の空気が変わった。


「メラン――」


「やめてください」


  シュヴェアムートが魔法を唱え終える前に、知らない声が森に響く。


 シュヴェアムートが振り返る。


「……ヌイか」


「はい、シュヴェアムート様」


 そこには、一人の若い魔族が立っていた。


「ここでそんなのをぶっ放すのはやめてくださいよ。ゴブリンキングまで殺すつもりですか?」


 シュヴェアムートはしばらく黙っていた。

 やがて、ため息を吐く。


「……分かったよ」


 ナインが二人を睨む。


「待ってください。目的とはなんですか?」


 ヌイは正直に答える。


「第三次人魔戦争の準備です」


「……!」


 ナインの目が見開かれる。


「ならば逃がすわけにはいかない! アレス・エレメ――」


「それでは」


 ヌイがそう言った瞬間。


 二人とゴブリンキングの姿が消えた。


「……」


 ナインは周囲を見回す。


「逃げられてしまいましたか……」


 その直後だった。


「もう……わっけわかんねえ……」


 カイセンの身体が大きく揺れる。


「カイセン?」


 ナインが振り向く。


 そのまま、カイセンは地面へ倒れ込んだ。


「カイセン!?」


 ナインが慌てて駆け寄る。


「カイセン!」


「カイセン!」


「カイセン!!」


 返事はない。

 ナインは倒れたカイセンを必死に抱き起こす。


「カイセン……!」


 森には、戦いの余韻だけが残っていた。

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