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この世界で、もう一度  作者: 霜月
第一章 『スタート・アゲイン 409』
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第一章 6 『触らぬ森に祟りなし』

一人称のミスを修正


 シュテーレンが去った鍛錬場。


「まさかシュテーレンに喧嘩を売るなんてな。普段、鍛錬などはしないタイプだが、あいつは強いぞ。大丈夫なのか?」


 声をかけてきたのは、グリフ・ダンク。

 黒髪をセンターで分けた、整った顔立ちの青年だ。

 魔法使いであり、手には小型の杖を持っている。

 本来、杖を持っても魔法の火力が大きく変わるわけではなく、邪魔になるため持つ者は少ない。

 だが、本人曰く――「かっこいいから」らしい。


「全くですよ。しかしシエル様も、どうしてあのような人を仲間とするのか」


 その隣にいたのは、淡い水色の髪と青い瞳を持つ少女、ミナ・ルルナミだった。


「あいつはどういうやつなんだ?」


 カイセンが尋ねる。


「シュテーレン・メヒテ。魔力を肉体に纏わせた近接戦闘を得意とします。彼と勝負をすると言ったからには、全力で鍛錬してもらいますよ」


 いつも以上に真剣な表情でナインは語る。


「おう。ビシバシ頼む」


 その時、近くで話を聞いていたテクストが会話に混ざる。


「カイセン。君はあの黒い剣を出す魔法。ダインスレイヴと言ったかい? もし多用する気ならば、私が午後にでも鍛錬をつけても構わないが、どうする?」


「……少なくとも、次のメインウェポンが完成するまでは使う予定だから、それまでは頼む」


「分かった。では、明日からでいいかい?」


「ああ。そうしよう」


 テクストは頷く。


「では私はここで帰るとするよ。明日の昼にここでまた会おう」


 テクストが去り、ナインは話を始める。


「では、カイセン。中級魔法を覚えますよ」


「おう」


 その後も中級魔法の鍛錬を続けた。

 初級魔法を覚えたカイセンには、それほど難しいものではなかった。


 カイセンは手を前に向ける。


「グロブス・メディウス・テネブラルム」


 ナインほどの精度ではないが、魔法は無事に発動した。


「なら、次は防御魔法の中級を覚えますよ」


「あれ? いつもなら褒めてくれるのに、今日はあっさりしてんな」


「カイセンはシュテーレンに喧嘩を売ったんですよ? 今のカイセンでは、一対一になった時に勝てません。ビシバシしてくれって言ったのはカイセンでしょう」


(なんかキレてるか?)


「分かった。悪い悪い。防御魔法だったな。中級ならどうなるんだ?」


「攻撃とさほど変わりません。見た目は大して変わらず、防御性能が上がります」


「クリペウス・メディウス・テネブラルム」


 カイセンの前に黒い盾が現れる。


「これも大して難しくはないはずです。やってみてください」


 その後も一時間ほど鍛錬を続け、二人は解散した。


「明日はオリジナル魔法を覚えましょう。考えがあるんでしたよね?」


「ああ」


「では、また明日」


 ナインは自分の部屋へ戻っていった。


 次の日。


「それで、どういう魔法なんですか?」


「領域を作る。俺が作った領域の中に相手を隔離して、多対一の状況を一対一に変える。これなら魔物相手でもいいんじゃねえか?」


(何より、かっこいいしな)


「なるほど。ですが、魔物は基本的に知恵がないので、集団行動をしません。それに、領域を作るというのは難しいかもしれませんね。魔力という面ならカイセンでも無理ではないですが……カイセンは魔力操作が雑なので」


「まあ、否定はしねえけどよ」


 カイセンは少し悲しげな表情を浮かべる。


「まあ、やってみましょう」


 そうして鍛錬を続けているうちに、約束の日がやってきた。


 カイセンとナインが魔物の住む森へ到着すると、すでにシュテーレンが待っていた。


「ちゃんと来たか」


「今回は逃げなかったんだな。ナイン」


 シュテーレンはナインを見て嘲笑う。


「シュテーレンこそ逃げないんですね。あの時と違って」


 ナインはいつもとは違い、相手を馬鹿にするような口調で言う。


 その言葉が逆鱗に触れたのか、シュテーレンはナインを睨みつける。


「殺すぞ、お前。あれは逃げたんじゃねえ。準備をするために村に戻っただけだ。さっさと始めんぞ」


 シュテーレンは言葉を続ける。


「雑魚は一ポイント。大物は五ポイント。十ポイント稼いだら森を出て、魔法を空に撃て。まあ、この森に大物はいねえかもな」


 シュテーレンは話を急いで変えるかのように言った。


「雑魚にやられねえように気をつけろよ?」


 その言葉に、心配という感情は一つもなかった。


「んじゃ、俺は行くぜ」


 先にシュテーレンが森へ入り、その後をカイセンとナインが追った。


 森へ入ってから、しばらく歩く。


「おかしいですね。魔物がいない」


「僕たちが森に入った時点で、襲いかかってきてもおかしくはないのですが……」


「シュテーレンが、もう倒しちまったとか?」


「死体がないので、それもないと思います」


 ナインは周囲を見回す。


「単に魔物の数が少ないのか……あるいは」


 その時だった。


 ナインが突然、足を止めた。


「……何かいます。魔力を感じます。四体ほど」


 ナインは木々の向こうへ視線を向ける。


「おそらく低級の魔物でしょう」


「分かった」


 カイセンが身構える。


「来ます」


 次の瞬間、木々の間から四体の魔物が飛び出してきた。


 ゴブリンが三体。

 そして、ウルフが一体。


「グロブス・テネブラルム!」


 カイセンが手を前へ突き出す。


 黒い球体が飛び出し、ゴブリンの一体へ直撃する。


「どうだ! ナイン!」


「その調子です。ですが、油断してはいけませんよ」


 ナインも手を前へ向ける。


「グロブス・フランメ」


 炎の球体が飛び、残ったゴブリン二体を吹き飛ばした。


「ゴブリンは倒せていますが……」


 ナインがウルフを見る。


「ウルフはまだ生きています」


「なっ……」


 カイセンが振り返る。


「一人だったら、今ので致命傷を受けていましたよ」


「……悪い」


「責めているわけではありません。ですが、実戦では一瞬の油断が命取りになります」


 ナインは残ったウルフを倒す。


「これで四ポイントですね」


「あと六ポイントか」


「ええ。ただ……」


 ナインの表情が曇る。


「何か嫌な予感がします」


「嫌な予感?」


「はい。できるだけ早くポイントを稼いで、森を出ましょう」


「おう。じゃあ、奥に進むか――」


 その時。


 森の奥から、悲鳴が響き渡った。


「――っ!」


 二人が同時に顔を上げる。


「この声……シュテーレンか?」


「おそらく」


 ナインの顔から血の気が引いていく。


「ですが、こんな森でシュテーレンが苦戦するなんてありえません」


「……」


「やっぱり、何かいます」


 ナインは森の奥を見る。


「一度撤退して、応援を呼びましょう」


「その間にシュテーレンが殺されたらどうする?」


「それでも――」


「行くぞ、ナイン」


 カイセンが言葉を遮る。


「お前とシュテーレンの間に何かあったのは、見てれば分かる」


「……」


「明らかに態度が違う。お前があいつを嫌ってるのも分かる」


 カイセンは森の奥へ視線を向ける。


「だからって、見殺しにしていいのか?」


「……」


 ナインは黙り込む。


 しばらくして、ゆっくりと息を吐いた。


「……分かりました」


 ナインが顔を上げる。


「ただし、敵を見て勝てないと判断したら撤退しますよ」


「分かった。それでいい」


 二人は森の奥へ向かって走り出した。


 * * *


「……あれは」


 ナインが足を止める。


 視線の先には、大量の魔物がいた。


 ゴブリン。

 ウルフ。


 その中心で、一体の巨大なゴブリンと、一体の巨大なウルフが佇んでいる。


「ゴブリンキングに……キングウルフ」


 ナインが小声で呟く。


「なるほど。ゴブリンとウルフが集団で動いていた理由は、あれですか」


 キング級の二体。


「キング級が統制を取っていた……」


 ナインはさらに小さく呟く。


「キング級が二体となれば、シュテーレンが苦戦しているのも分かります」


「くそっ!」


 シュテーレンが叫ぶ。


 迫り来るゴブリンを殴り飛ばし、さらに襲いかかってきたウルフを蹴り飛ばす。


「なんでこんな奴らがこの森にいるんだよ!」


 しかし、シュテーレンがどれだけ魔物を倒しても、次々と新たな魔物が押し寄せてくる。


 ゴブリンキングとキングウルフは、戦場の奥でじっと構えていた。


 二体が直接戦うことはない。

 キング級である二体が低級の魔物を従え、シュテーレンを消耗させているのだ。


「……行くのか? ナイン」


 カイセンが尋ねる。


 ナインは二体のキング級を見つめる。


「キング級が二体……」


 少し考えた後、ナインは答えた。


「三人で協力すれば、勝てないことはないです」


 そして、シュテーレンを見る。


「シュテーレンも実力者ですし、僕も実力はある方です」


(でも、やっぱりまだ嫌な予感がする。これ以上に嫌なことが起こる予感が。キング級が力を合わせるなんて聞いたことがない)


「なら――」


 カイセンが前へ踏み出す。


「行くぞ!」


 手を前へ向ける。


「ダインスレイヴ!」


 黒い剣が手の中に現れる。


「はあっ!」


 カイセンは迫ってきたゴブリンへ斬りかかった。


 ゴブリンが倒れる。


 さらに別のゴブリンへ剣を振るい、続けて襲いかかってきたウルフを斬り伏せる。


「あ?」


 シュテーレンが振り返る。


「何しに来た、お前!」


「助けに来てやったのになんだよ、その言い方は!」


「いらねえよ、助けなんて! さっさと帰れ!」


「悲鳴を上げていたように聞こえたのは、僕の聞き間違いですかね?」


 ナインも魔物を倒しながら口を挟む。


「お前ら揃いも揃って、俺を怒らせに来たんじゃねえよな!」


 シュテーレンが拳を振り抜く。


 襲いかかってきたゴブリンが吹き飛んだ。


「キング級の前に、お前らを殺してやろうかぁ!」


「仲間割れとは……」


 突然、どこからともなく声が聞こえた。


「随分と余裕じゃないかぁ」


 三人の動きが止まる。


「ゴブリンキングとキングウルフじゃあ、満足できなかったかぁ?」


 三人が一斉に声のした方を見る。


 木々の間から、一人の男が姿を現した。


 気だるそうな立ち姿。

 眠そうな目。

 そして、戦場には似つかわしくないほど気の抜けた口調。


 シュテーレンとカイセンが、ほぼ同時に叫ぶ。


「誰だ、お前!」


 男は少しだけ顔を上げる。


「僕?」


 自分を指差す。


「僕は、七大魔族の一人――」


 男は、まるで自分の紹介を面倒くさがるように続けた。


「怠惰を司るファウルハイト・ベルフェゴール様の配下」


 そして、淡々と名乗る。


「憂鬱の魔族――シュヴェアムート」


 男は薄く笑った。


「短い間、よろしく」


「……魔族」


 ナインの表情が凍りつく。


 その瞬間。

 彼が感じていた「嫌な予感」の正体が――。

 ようやく、その姿を現した。

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