第二章 14 『逝く者』
「最高の気分だ」
ルシファーはそう呟くと狂ったように笑う。
「その最高の気分を最悪の気分にしてやりますよ!」
ナインの声は震えている。
だが、前は向いている。
「フォル・アレス・エレメント!」
「魔力を集中させていたな! さっきよりも火力が高い!!」
ルシファーは興奮冷めやらぬ様子で『ヒュメニア』を何重にも発動し、『フォル・アレス・エレメント』の火力が落ちた頃に己の手で握り潰す。
「最初に言っただろ? 遠慮するなよ。なんでさっきから少人数で来るんだぁ? 全員で、一斉に、本気で、全力で。最高火力で!! 来いよ、人間」
その言葉を合図にするかのように皆同時に動き出す。
挑発に乗り冷静さを失ったわけではない。冷静に判断した結果、一斉攻撃を選択した。
高レベルの戦闘が繰り広げられる中、カイセンはついていけないでいた。
(みんな強すぎだろ。スピードも火力もやばくてついていけねえ)
カイセンも戦闘には参加しているが、自分が生き残ることで精一杯で攻撃にはあまり参加できていない。
(俺の魔法はアメノイワト内じゃないと特殊能力発動できないのに、ここで発動したらシエル達の魔法の火力を下げてしまうし、こんな人数閉じ込められる自信はねえ)
『アメノイワト』内で闇魔法は強化される。そして、カイセンのオリジナル魔法はその中でこそ本領を発揮する。
『アイギス』の敵の攻撃を塵と変えてしまう効果も『アメノイワト』の中でしか発動しない。他のオリジナル魔法にもそれが該当する効果が備わっている。
カイセンは圧倒的な魔力量でその魔法を可能とし、強者相手にも善戦をしてきた。しかし、今はその戦法が取れず、これまでの人生で戦闘をしてきた周りと比べると、この世界に来てから半年も経っていないカイセンの基礎戦闘能力の低さが露呈してしまう。
「動きが止まっているぞ?」
カイセンの目の前までルシファーが詰めてきた。
「王牙流・白虎」
テクストが距離を詰め斬ろうとするとルシファーはそれを素手で受け止める。
「魔力を持たない人間は初めて見る。魔力なしでその力量、努力の化身と言ったものか。まあ、魔力を持ったそこの兄の方が強いけどな」
「私の弟を侮辱するのはやめてもらおうか」
リベルが『王牙流・白虎』を使い距離を詰めルシファーの腕を切り落とそうとする。
ルシファーはテクストの剣を放し、少し離れる。
「助かりました、兄様」
テクストの声を聞いたがリベルは振り向いてテクストを見ることはない。それでも、耳はテクストの声を聞き逃さない。
「礼ならばあいつの首一つで十分だ」
「取れるものなら取ってみろ」
リベルの後ろからルシファーの声が聞こえた。
リベルが振り返るよりも先にルシファーは蹴りをお見舞いする。
リベルは壁まで吹き飛ばされる。
「兄様!」とテクストが叫ぶよりも早く、ルシファーがテクストを蹴り飛ばす。
「次は……」
ルシファーは順に人を見渡し、ローゼで目を止める。
その瞬間、目にも留まらぬ速さで移動しローゼの目の前で止まる。
「来ると思っていたぞ」
ローゼは手を前に突き出し、炎の基本攻撃魔法上級を放つ。
ルシファーはそれを軽く避け、再び攻撃を仕掛けようとする。
「こんなもの何の意味がある」
ルシファーの問いかけにローゼは動じない。
「その数秒で、貴様は私を殺せなくなる」
「王牙流・白虎!!」
リベルは壁から体を起こし、ローゼを守るためにすでに動いていた。
「私の守るべきものを傷つけることは許さん!」
リベルが剣を振り下ろす。
ルシファーはそれを受け止めた。
リベルは剣を引きすぐさま次の攻撃へと移る。
「王牙流・青龍!」
横薙ぎの斬撃が迫る。
ルシファーは身体をわずかに傾ける。
青龍は、その身体を紙一重で通り過ぎた。
「グートリヒト」
シエルの光魔法がルシファーの体を掠める。
「私たちのことも忘れないでください」
魔法が飛び交う。
剣が振るわれる。
槍が繰り出される。
「そろそろ限界か?」
ルシファーの煽りに対し、ローゼが煽り返す。
「そう言う貴様こそ、多対一はきつそうだが?」
二人とも、いや全員会話はあっても戦闘を放棄することはない。
攻撃が途切れることがあっても諦めることはない。
「俺は城を壊されると困るからな。ここが中央荒野ならお前らはすでに死んでいる」
「言い訳をしたな。先ほどまでの余裕はどこに行った」
リベルの言葉を聞き、ルシファーが珍しく怒りを見せる。
「この俺に余裕がない瞬間なんて一秒たりともねえんだよ!!」
戦いは冷静さを欠いたものが負ける。
「プルゲトーン」
炎の川を全方向に展開。
「アンチ・マジック」
ナインの魔法によって『プルゲトーン』は消されてしまう。
「王牙流・黄竜!!」
リベルが『王牙流・黄竜』を放つ。その黄竜の形をした斬撃はルシファーを襲う。
ルシファーはすぐに防御魔法を何重にも展開しようとする。しかし、一つすら防御魔法は展開できない。
少し離れたところでナインが目から血を流している。
「アンチ・マジック」
ナインはルシファーが防御魔法を展開した瞬間にそれを消していた。
黄竜がルシファーに直撃し、その身を喰らうように暴れ、やがて消えた。しかし、ルシファーは黄竜をまともに受けてもなお、その場に立っていた。
「諄い」
ローゼが『エンジシ』を発動しルシファーを焼き続ける。
そのままルシファーは焼けて倒れてしまう。そうなることを願っていた。だが、現実はそう甘くない。
「有り得ない!」
ルシファーは『エンジシ』を打ち消す。
「この俺が――傲慢の魔族たるこの俺が!」
その姿はさらに悪魔に近づいており、左の青い瞳は赤く染まりかけている。
「人間ごときに負けるわけがないだろうが!!」
その時、ルシファーは少し頭を抑え、イロンたちから距離を取る。
その顔には動揺と焦りが見えた。
「来い、お前ら」
その言葉を合図に「はっ!」と返事をし十三体の魔族が部屋に侵入してきた。
「我ら傲慢のアロガンツ・ルシファー様の配下――『デスモス』」
その魔族全員が一斉に「アロモルピア」と叫ぶ。
魔法が発動した瞬間、魔族たちの身体に変化が起こった。
肌が赤く染まり、その身体が徐々に異形の形へと変化していく。
これまでのルシファーの配下と同じく異形型の魔族へと。
「ワレラ、ゴウマンノ。ワレラ、ワレラ、ニンゲン、コロス」
魔族たちは統率を取るのをやめ一斉に攻撃を仕掛けてくる。
「お前らとはもっと戦いやすいところで、もっとよくお前らの顔が見えるところでまた戦ってやる!」
イロンたち全員が一斉に攻撃を仕掛けようとするが『デスモス』によって防がれる。
「――ハッ、ハハハハハハハハハハ!!! ァハハハハハハハッ!!!」
ルシファーは狂ったように笑いながら翼を羽ばたかせ城の入り口の方に逃げていく。
『デスモス』は一体一体が強く、これが統率をとってきたならば脅威は七大魔族の下位レベルに匹敵するだろう。
数的有利を活かして勝利に近づいていたが、今度は八対十三。『デスモス』の知能が低いことが唯一の救いだ。
「ゾンネンリヒト」
シエルは先ほどから後方で魔力を集中させていた。その魔力を使い『ゾンネンリヒト』を放つ。『デスモス』の二体を拘束、そして光が発する熱で焼いていく。
「確かに火力も高ければ、体も硬い。だが、知能がなければそれは魔物と変わらん」
イロンは素早く動き魔族を翻弄し、完封する。ローゼたちも各々が頭を使い、魔族を倒す。
「アメノイワト」
カイセンは『アメノイワト』を発動し魔族一体だけを閉じ込める。
「ダインスレイヴ」
少々時間はかかったが、魔法を駆使して魔族を倒す。
『アメノイワト』を解除するとすでに他の人によって『デスモス』は全滅していた。
「私たちを殺すのが目的ならば弱すぎる」
ローゼが呟くとすかさずリベルが反応する。
「おそらく足止めですかね」
リベルは槍についた魔族の血を払う。
「行くぞ」
一同はルシファーを封印するために追い始める。
ルシファーがなぜ逃げたのか、どこまで逃げたのか。何一つわからないが、それでも追うしかない。
イロンたちは城を出ると魔陸を見渡す。
すると、森の木々が巨大な猪が走り去ったかのように薙ぎ倒されていた。
おそらく、ルシファーが薙ぎ倒しながら進んだのだろう。
その時、森の中心部からとてつもない魔力が放たれる。
(ルシファーだな。罠か?)
イロンに焦りはない。冷静に判断した結果、森の中心部に向かうこととなった。
中心部に近づくほど空気が重くなる。
魔力を感じる。気持ちの悪い魔力が存在するならばこれのようなことを指すのだろう。
さらに近づくと、鉄錆を思わせる、強烈な臭気が鼻腔を突き刺した。
そして、ついに魔力の発生源がいる場所に到着した。
そこにいたのはルシファーと思われる生物。胡座をかき、美しかった白翼は黒く染まっている。爪は先ほどよりも伸び、目は両方とも赤く染まっている。
匂いの正体がわかった。
それは血だ。
胡座をかいたルシファーの膝の上には『ミレナ・レーヴェ・ケーニヒ』と思われる女性の生首が乗っていた。
生首は原型をとどめていなかったが、周囲に転がっている首のない死体の衣服からみて間違いない。
「堕ちたな」
イロンの言葉に反応したのか、それとも無関係なのか。ルシファーは咆哮を上げた。
その姿はまるで、人あらざる者とでもなったかのようだった。




