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この世界で、もう一度  作者: 霜月
第一章 『スタート・アゲイン 409』
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第一章 3 『猫の手は魔の手』

1話分の文字数増やしてみました。

修正内容:シエルの属性が存在しない氷属性になっていました。正しくは光と水の適性で水を応用し氷を扱います。

「第三王女? もしかして仲間が欲しいって戦争でもする気なのか? ……ですか?」


 思わず出た言葉を、カイセンは慌てて言い直した。


 相手は王族だ。

 今までのような口調で話していていいのか、急に不安になった。


 そんなカイセンを見て、シエルは可愛らしい笑みを浮かべる。


「敬語じゃなくてもいいですよ。敬語がいいなら、それでも構いませんが」


 そう言うと、シエルは笑みを消した。


「戦争ほど大きくはないですが、戦力は欲しい状況です。先ほども申した通り、私は第三王女です。姉が二人と兄が一人おります」


 シエルは一度言葉を切る。


「私は一番年下であり、王位継承戦では支持率や戦力など、さまざまな面で劣っており……劣勢となっています」


 その表情には、先ほどまでの柔らかさがなかった。


 王位継承戦。


 カイセンには、この国の制度について詳しいことは分からない。

 だが、シエルがかなり不利な立場にいることだけは理解できた。


「猫の手でも借りたいと思っていた時、あなたを見つけたんです」


 シエルは少し困ったような表情を浮かべる。


「えーと……名前をお聞きしてもいいですか?」


(ハラダ・カイセンって答えたら、親しくなった時にハラダ呼びになるのか?)


 別に名字で呼ばれることが嫌なわけではない。


 ただ、せっかく異世界に来たのだ。

 名前だけで呼ばれるのも悪くない気がした。


「カイセンだ」


「カイセンですね。私のことはシエルと呼んでください」


「いいのか? 王族なら様付けした方がいいんじゃ」


「私は気にしません。様付けで呼ぶ人もいますね」


「そうなのか」


 王族と普通に会話している。


 その事実に、カイセンは改めて妙な感覚を覚えた。


「でも、なんで俺なんだ? もっと強そうなやつ、いっぱいいるだろ?」


 街を歩いていただけでも、自分より体格のいい人間はいくらでも見かけた。


 金も持っていない。

 身元も分からない。


 そんな自分を選ぶ理由が分からなかった。


 シエルはきょとんとした顔をする。


「あなたほどの魔力を持っている方は、あまりいませんよ?」


「へえ、そうなんだ」


 カイセンは何気なく返した。


 だが、数秒遅れて言葉の意味を理解する。


「……え?」


「どうしました?」


「魔力?」


「はい」


「俺も魔力を持っているのか?」


 シエルは目を丸くした。


「え? はい。自分の魔力に気づかずに生きてきたんですか?」


「使う場面がなかったから……」


 カイセンは咄嗟に誤魔化した。


 まさか自分が異世界から召喚された人間だなどと、素直に話すわけにはいかない。


「俺の魔力はそんなに多いのか? 使い方も分かんねえ」


「そうですね。賢者より少し少ないぐらいです」


(賢者か)


 聞き慣れない言葉ではある。


 だが、大賢者がいるくらいなのだから、賢者という存在がいてもおかしくはない。


「魔力って誰にでも分かるもんなのか?」


「全員が分かるわけではないですね。でも、分かる人は結構いますよ」


 シエルは少し考えてから続けた。


「ですが、権能や適性属性まで見破れる人は普通いません。私は権能『アナーゼ』を持っているので分かりますが。あ、『アナーゼ』というのは私の権能で相手の魔力量、適性属性、権能の有無を見定めることができるんです」


「権能に適性属性か……」


 聞き慣れない言葉が次々と出てくる。


「権能って誰でも持っているのか?」


「いいえ。限られた者しか所持していません」


「へえ」


 シエルは改めてカイセンを見る。


「ちなみに、カイセンの適性属性は……」


(なんだ……?)


 カイセンは無意識に身構える。


 異世界に来た人間なら、一度は憧れるもの。


 魔法。


 そして、自分だけの属性。


 炎か。

 雷か。

 それとも、もっと珍しい属性か。


 知らず知らずのうちに、カイセンは期待していた。


「闇属性ですね」


(闇!?)


 カイセンの心が一瞬だけ躍る。


(かっこいいけど……もっと他にあっただろ!)


 心の中で叫びながらも、表情には出さない。


「闇は強いのか?」


「闇属性は炎、水、風、土、雷と相性がいいです」


「え、それめっちゃ強いんじゃ――」


「ですが、光属性に対してはとても弱く、基本的には瞬殺されます」


「……」


 カイセンの期待が一瞬でしぼんだ。


「それに、先ほど挙げた基本属性と呼ばれる五つに対しても、少し有利な程度です」


 せっかく異世界に来たのだから、圧倒的に強い属性であってほしかった。


「ちなみに私は光と水の適性を持っています」


「……」


 カイセンはシエルを見る。


 そして自分を見る。


「いきなり逆らえなくなったな」


 シエルは小さく笑った。


「属性は何個あるんだ?」


「炎、水、風、土、雷の基本属性と、光、闇の特殊属性があります。それぞれに相性も存在しますが、闇が光に弱いというもの以外は、あまり大きな差はありません」


「俺の闇って、あんまメリットないのかよ」


「そういうわけでもありませんよ」


 シエルは少し考える。


「カイセンは、闇属性以外を使っても問題ないと思います」


「そうなのか?」


「普通は、適性属性かそうでないかで、適性値に少なくとも三十ほど差がつきます。それに対して、カイセンは十も差がありません」


「十もない?」


「はい」


(俺の体って結構特殊なのか……?)


 カイセンは自分の手を見る。


 異世界に来てから、自分の身体について知らないことばかりだ。


 だが、今はそれを深く考えている場合ではない。


 悪魔を殺す。


 そのための力が必要なのだ。


 シエルは少し間を置くと、再び真剣な顔になった。


「それで……私の仲間になってくれますか?」


 カイセンはシエルを見る。


 あの男――自分を一ヶ月もの間、あの部屋に閉じ込めていた男を殺す。


 そのためには力も知識も足りない。


 この世界について何も知らない自分一人では、あまりにも無謀だった。


 ならば。


「俺は目的がある」


「目的?」


「悪魔を殺すことだ」


 シエルは何も言わず、カイセンの言葉を聞いている。


「そのためには力や知識が、まだまだ足りない」


 カイセンは一度息を吐いた。


「俺も力をシエルに貸す。だから……シエルも俺に手を貸してくれないか?」


 少しだけ間を置く。


「食べ物をもらった上、まだ欲しがるなんて強欲すぎるかもしれないが……」


 シエルの表情が変わった。


「仲間になってくれるのですね?!」


 先ほどまでの真面目な表情が一気に崩れ、嬉しそうな笑顔になる。


「俺もシエルの力を借りることになるけど、それでもいいのか?」


「そのくらいいいですよ。人に何かを求めておいて、自分は何も返さないような残酷な王にはなりたくありません」


 シエルは笑顔で答えた。


「いつまで一緒に行動できるかも分からないぞ? 大事な場面で悪魔を見つけたら、そっちを優先するかもしれない。それでもいいのか?」


「はい。言ったでしょう? 猫の手も借りたい状況だって」


「それならいいんだけどよ」


 シエルの顔がぱっと明るくなる。


「それでは、これからよろしくお願いします! カイセン!」


「ああ」


 カイセンも笑う。


「よろしくな、シエル」


「それじゃあ、早速行きましょう」


「どこへ?」


「私の仲間のところです。カイセンはその者たちと同じ立場になります。すぐそこなので、歩いていきましょう」


 二人は並んで歩き始めた。


「ところで、悪魔を殺すって何があったんですか?」


「いろいろだよ」


 カイセンはそれ以上を語らなかった。


 シエルも、彼が話したくないのだと察したのか、それ以上深く聞こうとはしなかった。


「悪魔ですか……」


「知っているのか?」


 カイセンは胸に期待を膨らませる。


 もしシエルが悪魔について知っているのなら、あの男へ近づくための手掛かりになるかもしれない。


 しかし、その期待はすぐに打ち砕かれた。


「申し訳ありませんが、悪魔という種族は聞いたことがありません」


「そうか。いや、種族名ではないのかもしれない。俺が勝手に呼んでいるだけだからな」


 カイセンは少し考え、話題を変える。


「そういえば、王位って何をしたら継承できるんだ?」


「そうですね……民からの支持を得るのも一つです」


 シエルは淡々と答える。


「しかし、一番手っ取り早いのは、他の王候補を殺すことです」


「兄妹なのにか……」


「兄妹と言っても、あの人たちとはあまり関係がありません」


 シエルの声が少しだけ冷たくなる。


「幼い頃から隔離して育てられました。第一王女のミレナ姉様は時々会いに来ますけど、他の二人とはほとんど会っていません。顔くらいしか知りませんね」


「……王族って大変なんだな」


「そうですね」


 そんな話をしているうちに、シエルが足を止めた。


「あ、着きましたよ」


 カイセンも前を見る。


 そこには、大きな屋敷が建っていた。


 周囲の建物と比べても明らかに大きい。


(でかい屋敷だな……)


 王都の中でも、かなり目立つ建物だった。


「ここが私の家です。中には鍛錬場もあって、皆さんはそこにいます」


 二人が屋敷の中へ入る。


 すると、すぐに一人のメイドが駆け寄ってきた。


「おかえりなさいませ、シエル様。お客様でしょうか?」


「ただいま。こちらはカイセン。新しい仲間になるの」


「カイセン様。メイドのメリスです。よろしくお願いします」


「よろしく」


「みんな揃ってる?」


「現在は何名か外に出ています」


「そうなのね。分かったよ。ありがとう」


 メリスが一礼する。


 二人はそのまま屋敷の奥へ進んでいった。


 歩きながら、カイセンは先ほどの会話を思い出す。


「シエルって、メイドに向かってはタメ口なんだな」


「メイドだけじゃないですよ。ほとんどの仲間には、あの喋り方です」


「今の喋り方は外向きってことか」


「そういうことです」


「なら、俺にもそうしてくれないか?」


「分かりまし……分かったよ。なら、いつも通りの喋り方にするね」


 そんな会話をしているうちに、鍛錬場へ到着する。


 シエルが扉を開ける。


「シエル様! いかがいたしましたか?」


 真っ先に声をかけてきたのは、一人の青年だった。


 赤みのある茶髪を無造作に整え、短めの髪はところどころ跳ねている。


 瞳も髪と同じ茶色。


 整った顔立ちに加え、貴族を思わせる服装。


 腰には剣を携えており、立っているだけでも様になる男だった。


「新しい仲間を連れてきたの。名前はカイセン」


「ほう」


 青年はカイセンを見る。


「私はテクスト・アインだ。よろしく頼むよ、カイセン殿」


「よろしくな、アイン殿?」


「テクストでいいさ」


「そうか。ならこっちもカイセンでいい」


 テクストは軽く会釈する。


「して、カイセンはどれほどの実力者なのですか?」


 その問いに答えたのは、別の青年だった。


「魔力量なら、相当なものですよ」


 緑色の髪をした青年が近づいてくる。


「僕の名前はナイン・レイン。ここでは新人育成をやっています。二十歳です」


「よろしく」


「よろしく」


 ナインはカイセンを観察するように見つめる。


「魔力量が多いのか。ほう……」


 テクストは興味深そうにカイセンを見る。


「それほどの魔力を持っているのか。ならば、強いのだろうな。ぜひ、お手合わせ願いたい」


「実力を聞かれても、俺は魔法の戦い方も知らないぞ」


「なに……?」


 テクストの表情が固まる。


 ナインも少し驚いた様子だった。


「魔法の使い方を知らない?」


「ああ。そもそも魔力があることすら今日知った」


「……なるほど」


 ナインは少し考える。


「それなら、僕が教えましょう。新人育成が僕の役目ですから」


「そうか。よろしく頼む」


 ナインは小さく笑う。


「任せてください」


 テクストも納得したように頷く。


「ならば、二週間後にでも模擬戦をやってみないか?」


「二週間後?」


「ああ。魔法を覚えた状態で、一度実力を確かめたい」


 カイセンは少し考える。


 力をつけるのにも、模擬戦はいい手段だろう。


「おう。いいぜ。実戦あるのみって言うからな」


「では、二週間後。また会おう、カイセン」


 こうしてカイセンは、シエルの仲間たちと出会った。


 そして同時に、この世界で初めて本格的に魔法を学ぶことになるのだった。

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