第一章 2 『腹が減っては戦はできぬ』
「絶対に殺してやる、悪魔め」
カイセンは気を失う。
数時間経つとカイセンは目を覚ます。
「ここは、どこなんだ?」
周囲を見渡す。
目に映るのは小汚い裏路地。
裏路地は奥にも続いている。
「汚いな、見た感じ貧民街への入口か?」
歩き出し裏路地から出る。
するとそこに広がっていた光景はとても日本には見えなかった。
カイセンが目にしたのは、これまで漫画でしか見たことのない街並みだった。
道は綺麗に石畳で舗装され、道の両側には木造や石造りの建物が隙間なく並んでいる。
二階、三階建ての建物も多く、色とりどりの屋根が遠くまで続いていた。
通りには大勢の人々が行き交っている。
商人が店先で声を張り上げ、荷物を積んだ馬車が人々の間をゆっくりと進んでいく。
建物の壁には店の名前や商品を示す看板が掲げられ、道沿いには露店まで並んでいた。
「やっぱり、異世界召喚なのか?」
(街並みはお約束の中世風か。あの男を、悪魔を殺すために力を得て、情報も集めねえと)
カイセンはあの男のことを悪魔と呼ぶようになっていた。
(看板の文字は……なんだこれ!? 意味はわかるのに知らねえ文字だ。まあ、読めるならいいのか? なら次の問題は言葉の壁だが、悪魔の言っていることはなにもわからなかった。つまり……)
「そこのあんた、それ食わせてくれ」
馬肉と書いてある看板を掲げている商人に話しかける。
「はいよ、1個でいいね?五百クルークだよ」
言葉が通じた。
(なら、なんで悪魔の言葉は分からなかったんだよ。種族が違うのか?)
「これで買えるか?」
カイセンはポケットに入っていた財布から五百円玉を取り出し店主に見せる。
「何だこれ、おもちゃか? 悪いがこの国ではクルーク硬貨しか扱っていないよ」
クルーク硬貨。
聞き馴染みのない言葉だ。
おそらく、この世界の共通通貨のようなものだろう。
「なんだよクルークって」
純粋に疑問に思ったので問いかけてみると店主は驚いた表情を浮かべる。
「はぁ? クルーク硬貨を知らないって一体どんな田舎からきたんだよ。はぁ、仕方ねえから教えてやるよこれが百クルークだ。んで、これが五百クルーク。これが千クルークでこの三つの硬貨を使うのが世界共通だ。覚えておけよ、田舎もん」
百、五百、千、と刻まれた硬貨を見せながら説明をしてくれた。
硬貨の裏にはそれぞれ別の人物の顔が彫られていた。
「へえ、この裏に彫ってあるのは誰なんだ?」
店主はお前まじかと言わんばかりの顔でカイセンを見つめる
「百クルークは大賢者メシアス」
「五百クルークは大賢者ヴィッセン」
「千クルークは大賢者ヴァイゼだ」
(大賢者か。この世界では大賢者が偉い奴らなのか?)
「大賢者ってどんくらい偉いんだ?」
カイセンはまたもや質問をする。
その結果、店主は少しイラついた表情を浮かべる。
「あのなぁ、金も払わず情報だけ貰おうとするなんていい度胸じゃねえか」
「働いて五百クルーク稼いでこい!」
「そうしたら教えてやらぁ」
流石に聞きすぎたようだ。
まだ情報の対価に奴隷にしてやると言われたらするよりはマシだろう。
カイセンは再び街を歩き始めると、
街の人が喋っているのが聞こえてくる。
「また魔族が暴れたって?」
「ああ、村が襲われたらしい」
「噂では第三次人魔戦争が起きるかもって」
「まじかよ、やめてほしいな」
商人の会話も聞こえる。
「最近獣人増えてきたよな」
「確かにそうだな、まあ害があるわけではないからいいだろ」
その会話をカイセンはしっかりと聞いていた。
(魔族や獣人がいるのか。ならドワーフやエルフもいるのか?)
カイセンの腹がなる
(やばい……マジで腹減った。何か食わないといけないのに金がない)
建物の隅に座り込む
「どうしたもんかな」
そんな困り果てた時、とある少女が話しかけてきた。
「そこのあなた大丈夫ですか?」
白銀に近い、淡いプラチナブロンドの髪。
腰より少し上まで伸びた長い髪は、毛先が緩く波打っている。
右側の髪だけ細く編み込まれ、小さな青いリボンで結ばれていた。
深い青紫色の瞳。
白を基調とした服の上には淡い青のケープを羽織っている。
「大丈夫だ」
カイセンは一度は迷惑をかけられまいと考えたが背に腹は変えられない状況だったため迷惑をかけることにした。
「あ、やっぱり大丈夫じゃねえ」
「食料を分けてくれないか?」
「そのぐらいならいいですよ」
少女は嫌がる様子もなく近くの店で果物を買ってきてくれた。
(これはりんごか?)
一口食べてみると元の世界と遜色のない味がする美味しいりんごだった。
(あ、りんごだ。この世界にもあるんだな)
「ありがとうな。あと、ついでに聞いてもいいか?」
「全然いいですよ」
「何について聞きたいんですか?」
「ここはなんていう場所だ?」
その問いかけに少女は驚きを隠せない様子だ。
「え? ここは賢星国家レグルスの王都。王都アグエロです。でも、場所もわからないってあなたはどこから来たのですか?」
「地図にも載らない小さな村からかな」
ここがどこに位置していても困らない完璧な回答をカイセンは叩き出す。
「へえ、じゃあなんでレグルスに来たのですか?」
「……なんとなく」
返答に詰まったため適当に返すことにした。
「ありがとう、助かった。できればお礼したいんだけどお金がなくてね。何もできそうにない」
「それなら、もし、よければでいいんですけど。お願いを聞いてくれませんか?」
少女は申し訳なさそうに言う。
「俺にできることなら」
「私の仲間になってくれませんか?!」
カイセンは返答に困る。
仲間というのはよくある冒険メンバーなのかはたまた別の意味なのか。
どのような意図があって餓死しそうだったやつを誘おうと思ったのか。
カイセンには理解ができなかった。
「仲間というのはどういう意味で?」
「言い方を悪くすれば配下ですけど、私は仲間だと思っています!」
「配下? もしかしてあんた、いや、あなた、お偉いさん?」
少女は少し恥ずかしそうにしながら返答する。
「一応そうなります。私の名前はシエル・レーヴェ・ケーニヒ。この国、賢星国家レグルスの第三王女です」




