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この世界で、もう一度  作者: 霜月
第二章 『第三次人魔戦争 409』
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第二章 12 『俯瞰者』

封印魔法名修正

後書き描き忘れてた

 ベルゼブブが魔力を集中し始める。


「フェズさん、回復終わりました!」


 ベルゼブブが魔力を集中し始めてから少し経つ。ヒラの報告を聞き、フェズが立ち上がる。


(あれを止めるには再び『ユートピア』を発動させるしかなさそうやな。そんためにはあいつに自分の何かを疑わせなあかん)


 フェズは空気を固め、それを踏み、空高くで羽ばたくベルゼブブの近くまで行く。


「グロブス・アルテュス・ヴィント」


 風属性の基本魔法上級が放たれるが、ベルゼブブの周囲に漂う魔力によって打ち消される。


「おかしいやろ、ただの魔力の漏れに魔法が負けるなんて」


 ベルゼブブはフェズを見下ろしていた。


「そんな大技で終わらせようとして焦ってるん? やっぱシン達にビビったんか?」


 ベルゼブブは冷静に返す。


「権能を発動しないのか? いや、できないのか」


「頭ええな。やっぱ人の脳みそたくさん喰うてるからか? 魔族の喰うてたら、今頃知能のないバケモノやったな」


 フェズは煽ってベルゼブブの冷静さを欠こうとしている。


 しかし、ベルゼブブは「哀れ」とだけ言い捨てる。


 その後もフェズは様々な言葉を投げかけた。


 だが、反応は薄い。


 ベルゼブブは何事もなかったかのように、淡々と魔力を集中していく。


「……せやけど」


 フェズが言う。


「キミの『暴食』っていうんも、案外安いもんやな」


 ベルゼブブの目の色が変わった。


「……何?」


 初めて、ベルゼブブがまともに反応した。


「シンも食うことが好きやから分かるんや」


 フェズが続ける。


「食うことを楽しんでる奴と、殺すことを楽しんでる奴は、全然ちゃう」


 ベルゼブブの目が細くなる。


「……」


「シンにはな」


 フェズがベルゼブブを真っ直ぐ見据える。


「あんさんが食を楽しんでるんやなくて――」


 一拍。


「ただ、殺しを楽しんでるようにしか見えへんで?」


 ベルゼブブの目の色が変わった。


「……戯言が過ぎるぞ」


 ベルゼブブが低い声で言い放つ。


 そして、大きく息を吸う。


「過食、拒食、絶食、少食、粗食、偏食、飽食、美食、悪食、暴食!」


 一語一語を吐き出すたびに、周囲の空気が揺らぐ。


「我は、その全ての『喰』を肯定する!」


 ベルゼブブがフェズを睨みつける。


「だが――我の『喰』を否定することだけは、絶対に許さん!」


(話に喰いついて来た)


 フェズが少し笑う。


「シンのことを美食の糧と言うてたな? でも、そんな大技で喰べることが美食なんか? やっぱり『喰』っていうんは安いもんやから嘘に使ったんやな」


 ベルゼブブの顔が怒りで歪んでいく。


「ふざけるなよ! 人間風情がァァァ!」


 ベルゼブブが怒鳴ると、空気が揺れる。


「そう怒んなや。そんなに核心に触れられて焦ったんか?」


「五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い! 我にとっての『喰』とは生きる意味! それを否定するなど――」


「生きる意味やって? ならキミはいつからその『喰』を生きる意味やと思ってるんや?」


 フェズは賭けに出た。


 一か八かの賭け。


 勝てばベルゼブブの意思に隙が生まれる。


 負ければベルゼブブの意思を固くし、もう二度と『ユートピア』は効かないだろう。


「我が『喰』に目覚めた時! そんなものは決まって……」


 ベルゼブブが喋るのをやめる。


「どないしたんや?」


「可怪しい。可怪しい。可怪しい。可怪しい!」


 ベルゼブブは記憶を頼りに思い出そうとする。


 ――四百三十七年前。


 フェレライ・ベルゼブブは百年の時を経て、生を取り戻した。


 ベルゼブブが手を動かし、周囲を見る。


 ベルゼブブが胸に手を当て、心臓の鼓動を確認する。


 ベルゼブブが自分の腕を強く引っ掻き、痛みを感じることで生を実感する。


 その時のベルゼブブの感情は主に三つ。


 一つ、生への喜び。


 二つ、人間への憎悪。


 三つ、『喰』への執着心。


 第一次人魔戦争で死んだベルゼブブは、百年の時を経て生を取り戻した。


 だが、彼に残っていたのは、圧倒的な魔力と人間への憎悪。


 そして、なぜそう思うのかも今のベルゼブブにはわからない、『喰』への執着だけだった。


 その時、ベルゼブブは自分の名前すら知らなかった。


 そのため、第二次人魔戦争の時、人間が自分を呼んでいた名前、フェレライ・ベルゼブブを名乗っている。


 ベルゼブブがどれだけ記憶を辿っても、四百三十七年前より前の記憶は一切残っていない。


 どれだけ記憶を辿っても、ベルゼブブが『喰』に執着し始めた理由が突き止められない。


「我にとっての喰ってなんなのだ……」


 ぽつりと口から溢れた。


 本音が漏れてしまった。


 集中していた『ウォルボア』を放棄してまで、ベルゼブブは口を手で塞ぐ。


 そこまでしてでも隠したい本音だった。


 しかし、もう遅い。


 その一言を、フェズは聞き逃さなかった。


(揺らいだ)


 フェズは、かつてないほどの笑みを浮かべる。


「ユートピア」


 ベルゼブブの周囲に、様々な種類の動物が現れる。


 その全てが巨大な姿をしており、ベルゼブブへ襲いかかる。


 自分の『喰』を疑ったベルゼブブは、『喰』という概念の権能を使用できなかった。


 ベルゼブブは、近づいてくる動物たちに恐怖する。


「グロブス・ヴァッサー」


 権能を使えなくなったベルゼブブは、頭が混乱しているのか、魔力を体に纏えばいいものを水魔法として使用した。


 さらに、ベルゼブブは戦闘用の水魔法を鍛えていなかったため、初級魔法しか使えず、動物すら倒せなかった。


「ん? 水は補給用やなかったんか?」


 その言葉が、さらにベルゼブブの精神を抉る。


 自分の魔法で巨大な動物すら倒せなかった。


 その事実が、ベルゼブブに自分の力を疑わせた。


 ベルゼブブの足から力が抜ける。


 そして、体全体に力が入らなくなる。


「嫌だ」


 そう言い捨てるが、ベルゼブブはもはや立つことすらできなかった。


 喰われていく。


 自分の身体が、動物たちに喰われていく。


 『ユートピア』の中で、ベルゼブブは再び死んだ。


 現実では、ベルゼブブの羽が羽ばたくのを止め、地面に落ちる。


「喰物連鎖の頂点はキミやなかったようやな」


 そう言うと、フェズは周囲の人を集める。


 ベルゼブブの封印を始める。


 できる限りの人を集め、魔力を集中させる。


「パンドラ!!」


 複数人の魔力が一斉に重なった。


 その瞬間、ベルゼブブの周囲に六つの光の面が形成される。


 六つの面がベルゼブブを完全に囲んでいき、面と面が繋がる。


 『ユートピア』の中で死んだ生き物は、現実では植物状態のようになってしまう。


 そんなベルゼブブが抵抗できるはずもない。


 箱は閉じ、小さくなり、消えていく。


(シンの戦い方が格好悪いことぐらいわかっとんねん。せやけどな、圧倒的な力に勝つためにはこれしかないねん……)


 こうして――。


 七大魔族の第四柱、暴食の魔族の封印に成功した。


 戦場に歓声が沸く。


 その中で、シロロが目を覚ます。


「……!? フェズ様! 大丈夫でしたか!?」


 シロロは、ベルゼブブがどうなったのかではなく、フェズが無事なのかを真っ先に気にしているようだった。


「大丈夫やで。シロロちゃんのおかげで止血もできてたし、あの氷がなかったらやばかったかもな」


 そのフェズの顔を見て、シロロは顔を赤くする。


「ぶ、無事なら良かったです!」


 これで、戦場にて暴れていた七大魔族は、三人とも封印された。


 残る七大魔族は、嫉妬と傲慢。


 そして、魔王。


 その三者がどこにいるのかは、未だにわからない。


 そのため、人間側は部隊を分けることにした。


 戦場に残る魔族を殲滅する部隊。


 そして、魔王城へ攻め込む部隊。


 魔王城へ攻め込む部隊は、少人数で編成された。


 イロン、ローゼ、リベル、シエル、ナイン、テクスト、カイセン、ミナ。


 戦場部隊は、フェズを筆頭に行動する。


 体力を回復させる時間を確保するため、魔王城への攻め込みは明日となった。


 その夜、戦争での被害および不確定要素についての議論が交わされた。


 一つ目、第一王女のミレナ・レーヴェ・ケーニヒが戦場のどこにもいないこと。


 二つ目、暴食との戦闘で賢星国家ルプスの戦力が明らかに低下したこと。


 そのことを議論した後、皆は眠りについた。そして夜は明け、八人は魔王城へと攻め込むこととなった。


 歩きながらシエルたちは会話を交わす。


「魔王は、本当にこの城にいるのでしょうか?」


 ミナが尋ねる。


「おそらく、そうでしょうね。もしかしたら、嫉妬や傲慢の七大魔族もいるかもしれませんね」


 ナインは、ミナを見ながら質問に答える。


 それをシエルの隣で聞いていたテクストが話に加わる。


「ならば、まとめて倒せばいい。そうですよね? 兄様」


 リベルがテクストを見る。


「その通りだ。アイン家の名に恥じぬ活躍を期待している」


 そのような会話をしている間に魔王城に到着した。


「これが魔王城リューゲンか。近くで見るとやっぱりでけえな」


 カイセンが魔王城を見上げながら呟く。


 城の門ですら巨大であり、鍵はかかっていない。


 城の中を進んでいくが、特に魔族が襲ってくることはない。そもそも、魔族が一人も見当たらない。


 いくつもの部屋があり、扉を開けて回ったが、誰もいない。


 そして、最後に最も奥の部屋へと辿り着く。その扉のそばには、ガタガタと激しく歯の根を鳴らし、その場にへたり込んだミレナがいた。


「ミレナ姉様!? どうしてここに!?」


 シエルがミレナに駆け寄る。


「え? え? あ、シエルちゃん? 助けて! 助けてよ! 助けてよぉ!」


 ミレナはシエルの服の袖を掴み涙を流す。


 シエルが「何があったの?」と聞いても、ミレナは「助けて」の一点張りだった。


「行くぞ」


 イロンがミレナに向けていた視線を戻し、扉を開けようとする。


「い、いや! 開けないで! 助けて! シエルちゃん! シエルちゃん!」


 ローゼはイロンに続き歩き始める。


 シエルも少し躊躇いつつもミレナの手を離す。


 イロンが魔法で扉を開け始める。


「シエルちゃん! あなたは……。あなたは! 私のために動けばいいのよ! 私の命令に従って! 私のことを第一に考えて! 私の人形として可愛くニコニコと笑っていればいいのよ!」


 ミレナの悲鳴混じった言葉を聞き、シエルは少し顔を暗くする。


 そして、もう振り返らない。


「ミレナ姉様。私はあなたの人形ではない」


 それを聞いたミレナは涙と怒りで顔を歪ませながら、城の入り口の方に走って逃げていく。


 その間に、イロンが魔法で扉を壊す。


その部屋の中央には、無惨にも殺されたアルファ達が転がっていた。


その先には、大きな机を囲むように設置された七つの椅子。


さらにその奥には、太陽の光が差し込む場所に、玉座と思われる椅子が置かれていた。


 七つの椅子の一つ。


 そこに一人の魔族が座っていた。


「色欲(慈愛者)はどうした?」


 魔族は椅子から立ち上がる。


「怠惰(死蔵者)は?」


 魔族が歩き出す。


「暴食(喰執者)は?」


 魔族は玉座へ続く階段を登り始める。


「まさかーー負けたのか?」


 魔族が玉座に腰を下ろした。


 先ほどまで暗闇にいた魔族の顔が、太陽の光によって初めて皆の目に晒された。その瞬間、ナインの表情から余裕が消えた。


「貴様は誰だ」


 イロンが魔族を見ながら、槍を向け、尋ねる。


「俺か?」


 男は薄く笑う。


「七大魔族の第一柱」


 玉座の肘掛けに腕を置く。


「傲慢の魔族ーーアロガンツ・ルシファー」


「傲慢の魔族? 魔王じゃなくて?」


 カイセンが呟く。


「魔王? そんなもの、この世にはいない」


「なんだと?」


 ローゼが声を漏らす。


「まあ、強いて言うならば、俺が魔王というやつだ」


 部屋の空気が変わった。


 ローゼ、カイセン、ナイン、ミナが魔力を集中させる。


 リベルとテクストが剣を構える。


 イロンが槍を投げ、それをルシファーが首を逸らして避ける。


 ルシファーは立ち上がり言い放つ。


「遠慮するな、まとめてかかってこい」


 ルシファーは笑っていた。

<ルシファーの七大魔族別呼び方>


傲慢・・・俯瞰者

憤怒・・・忘憤者

怠惰・・・死蔵者

色欲・・・慈愛者

暴食・・・喰執者

嫉妬・・・偏慕者

強欲・・・渇欲者

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