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この世界で、もう一度  作者: 霜月
第二章 『第三次人魔戦争 409』
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第二章 6 『喰う子は育つ』

 悲鳴が飛ぶ。


 調子に乗った団員は、肉体どころか血すらも残っていない。


 その様子を見て、何が起きたのか分からず、疑問の声が飛び交う。


 その疑問に、ベルゼブブは笑顔で、なんの悪気もなさそうに答える。


「こーこ」


 ベルゼブブは口を大きく開け、口の中を指差す。


「味はまあまあだったけど、前菜はこんなもんだよね」


 しかし、決してベルゼブブの口の中に団員が入ったわけではない。


 食べたのは、魔法によって生み出された猪の形をしたオーラだった。


 ベルゼブブは舌で唇を舐め、団員たちを次々と見渡す。


「次は誰を食べようかな」


 団員たちの顔から血の気が引く。


 先ほど食べられた団員に、痛みを感じている様子はなかった。


 しかし、問題はそこではない。


 理解できないものに殺される。


 いや、喰われる。


 そんな恐怖を、誰も知らなかった。


 ――錯乱。


 人は理解できないものを前にすると、その性格が行動に表れる。


 恐怖し、叫び喚く者。


 現実から逃避し、ただただ立ち尽くす者。


 恐怖する己を否定し、逆上する者。


 商国ルプスが誇る騎士団、『エイリ』。


 大人数からなる騎士団だ。


 そもそもルプスは、商人の聖地と呼ばれるほどの商国。


 戦争など想定されておらず、騎士団の育成も十分に済んでいない。


 当然、このような状況に慣れていない人間も多くいる。


 何名かの団員が、ベルゼブブへ攻撃を仕掛ける。


 しかし、理性を失った攻撃が当たるはずもない。


 ベルゼブブの権能――『ウォルボア』。


 その口が、団員たちを喰らう。


 そして、消える。


 そこで、何人もの団員が気づいた。


 ベルゼブブの身体が、大きくなっている。


「鎮まれ!」


 団長のチーフが声を張る。


「貴様らは何のために騎士団に入った! 何か理由があってのことではないのか!」


 団員たちの動きが止まる。


「少なくとも私にはある。人を守る。そのためだけに私は動く!」


 周囲の騒めきが、少しずつ落ち着いていく。


「敵を見ろ! 何名かは気づいているだろうが、身体が大きくなっている! おそらく奴の権能だ!」


 チーフはベルゼブブを睨む。


「貴様らの死は、ただの犬死にではない。それどころか、敵に利する行為だ!」


 団員たちが息を呑む。


「やる気がないなら、即刻ここから立ち去れ!」


 チーフが声を張り上げる。


「やる気があるなら、呼吸を整えろ! 武器を構えろ! 魔法を唱えろ! そして戦え!」


 チーフは団員たちを見渡す。


「それが我ら、エイリ騎士団の在り方だ!」


 チーフの鼓舞を聴きながらベルゼブブは退屈そうに頬を掻く。


(食べ放題終わっちゃった)


 その時のベルゼブブの身長は先ほどと比べ、二十センチほど伸びていた。


 ベルゼブブは手を何度もグーパーと開閉させ、あくびをした。


(やっぱり食べると眠くなるんだよね)


 そのようなことを考えている間にエイリ騎士団の士気は絶好調まで上がり、理性なき行動をとる者は誰もいなかった。


「我らは戦闘において、他の二国と比べたら大きく劣っている! だからなんだというんだ! 我らがルプスが誇るのは頭脳だ! それを生かして勝つだけのこと!」


 団員の誰もが「おぉー!」と雄叫びをあげる。


 しかし、もう遅かったのかもしれない。


 ベルゼブブの最も戦闘能力が低かった、あの状態。

 最初のわずか百三十五センチの子供の背格好のうちに倒せなかったのが運の尽きだったのかもしれない。


 ベルゼブブの喰儀(しょくじ)はもう始まっている。


 * * *


 ローゼとリベルがヌイに勝利した時、イロンとシュヴェアムートの戦いは、既に終わっていた。


 勝者は、イロン・レーヴェ・ケーニヒ。


 シュヴェアムートは倒れたまま動かない。


 イロンは、休憩を挟むことなくベルフェゴールの元へ向かう。


 * * *

「あれ? ヌイもシュヴェアムートもやられたの?」


 ベルフェゴールは、戦場の真ん中で堂々と寝転がっていた。


「面倒だけど……仕方がないな」


 ベルフェゴールは重たい腰を、ゆっくりと上げようとする。


 しかし、それをイロンが待つはずもなかった。


 イロンが槍を投げる。


「カゼ」


 ベルフェゴールが魔法を唱える。


 突如として吹き荒れた風によって、槍は大きく軌道を逸らされた。


 イロンはすぐさま土魔法を発動し、新たな槍を生み出す。


(風属性か。槍を投げては当たらないな)


 ベルフェゴールはようやく立ち上がる。


 そして、目を細めてイロンを睨む。


 イロンも槍を構え、ベルフェゴールを睨み返した。


 互いに動かない。


 しかし――。


 それも当然だった。


 ベルフェゴールは目を細めて睨んでいたのではない。


 目を閉じ、そのまま寝ていたのだ。


「……」


 イロンがそれに気づく。


 槍を強く握り直す。


「ふざけているのか?」


 イロンがベルフェゴールへ向かって走り出す。


 そして、槍を突き出した。


 槍先がベルフェゴールの身体へ届く、その寸前。


 槍が空中で止まった。


(何かを纏っている……。風の防具か?)


 イロンが力を込める。


 しかし、槍はそれ以上進まない。


(かなり硬い……)


 イロンが槍を引き、再び振りかざそうとした。


 その瞬間――。


「ん……」


 ベルフェゴールが目を開く。


「あ、おはよう」


 まるで今起きたばかりのような顔で、ベルフェゴールが言う。


「寝ている間に攻撃するなんて、酷いな……」


「おかしいのは戦闘中に寝ている貴様だ」


 ベルフェゴールは欠伸をする。


「まあ、そうだけどさ」


「カゼ」


 ベルフェゴールが魔法を発動する。


 強烈な風が吹き荒れ、イロンの身体が大きく揺さぶられる。


 イロンは即座に土魔法を発動する。


 身体を覆うように土の鎧を作り、風に耐える。


「これなら簡単には飛ばされん」


「そこまでして戦うの?」


「当然だ」


 そのとき――。


「フラメンボーゲン」


 ローゼが炎の弓を放つ。


 炎の矢がベルフェゴールへ向かって飛翔する。


「カゼ」


 風が吹き、炎の矢の軌道が逸れる。


「……」


 ローゼが目を細める。


「やはり風か」


 イロンもベルフェゴールを見据える。


 そこへ、リベルが前へ出る。


「ならば、風ごと斬り裂く!」


「王牙流・朱雀!」


 リベルが剣を振り抜く。


 その一閃は、紅蓮の翼を広げた朱雀の如く、爆炎を伴ってベルフェゴールへ襲いかかる。


「カゼ」


 ベルフェゴールが再び魔法を発動する。


 しかし――。


 炎の一閃は風を突き抜けた。


「……あ」


 ベルフェゴールの表情が僅かに変わる。


 炎が迫る。


「面倒だな……」


 ベルフェゴールが片手を前へ向ける。


「アスピス」


 これまで適当に扱っていた風が、一瞬で圧縮される。


 風が凝縮し、巨大な円状の盾となってベルフェゴールの前に現れた。


朱雀が風の盾へ激突する。


風の盾に亀裂が走った。


「……あ」


次の瞬間、アスピスが砕け散る。


しかし、朱雀もまた勢いを失い、ベルフェゴールへ届くことなく消えていった。


「アスピスは結構疲れるんだけどなぁ……」


 そう呟きながら、ベルフェゴールは再び欠伸をした。


 * * *


 シエル陣営とアスモデウスの戦いはまだ続いていた。


 シエル達はアスモデウスの権能が回数制限ありなことに賭け、攻撃を続けていた。


 しかし、おそらく回数制限ではなさそうだ。


 なぜならアスモデウスは特に惜しむことなく権能を使用するからだ。


 つまり、アスモデウスを封印するには攻撃を仕掛けてから、権能を使用される前に気絶させる。もしくは、権能を使う気力がなくなるほど相手の心を折るしかなかった。


 この陣営での瞬時に出せる最高火力はナインの『ネオ・アレス・エレメント』である。


 時間を稼ぎ、魔法に集中する時間ができれば、倒せないこともないのかもしれない。


 しかし、その間にナインを守りながら戦うほど皆に体力は残っているか微妙なところである。


 それに比べ、アスモデウスは権能を使い、体力が戻っているため、余裕がある。


 その時、カイセンが一つ作戦を思いつく。


「俺がアメノイワトであいつと一対一の状況を作り時間を稼ぐ、その間に最大火力で魔法を打てるように集中してくれ」


「無茶ですよ。七人で相手してこれなんですから、一対一なんて」


「なんの話をしてるんだい? 僕にも聞かせてくれよ」


 カイセン達は小声で話しているためアスモデウスには聞こえない。


「カイセン。やれるのか?」 


 テクストはまっすぐとカイセンを見つめる。


「ああ。任せてくれ」


 テクストはその言葉だけでカイセンを信じることにした。


「わかった。では頼んだぞ」 


 その判断に、ナインだけではなく、他の仲間であるミナやエマも驚く。


「待ってよ。さすがに危ないと思うよ」


「ガチでヤバイからやめときな!」


 ミナもエマも決してカイセンを馬鹿にしているわけではない。ただ心配なのである。


「カイセンがやれると言うならば、私は任せます」


 シエルはカイセンを疑わない。カイセンならやってくれると信じていた。


 ナインはカイセンを信じきれなかった自分を責め、声をかける。


「頑張ってください。カイセン!」


 ミナは「頼みましたよ」。

 エマは「任せたよ!」。

 ゴウは「頼んだぞ!」。

 

 それぞれカイセンを信頼し、期待してカイセンを鼓舞する。


 カイセンはアスモデウスを見る。


 律儀に待っていたアスモデウスがカイセンの視線に気づいた。


「さぁ、なにをするんだい?」


 その問いに対してカイセンは行動で答える。


「アメノイワト」


 カイセンとアスモデウスだけが『アメノイワト』の中に入っていく。


「これは……黒い空間。分断が目的か」


「ああ、お前にはここでナインから念話がくるまで、足止めを受けてもらうぞ」


 アスモデウスは少し笑う。


「悪いね。僕をそれまで止められると思っているのが、とてもおかしくて」


 アスモデウスはカイセンを見る。


「それに、一対一は僕にとっても、ありがたい」


 カイセンが構える。


「アネパレルトン」


 アスモデウスがそう唱えた瞬間、カイセンの視界が揺れる。


「君、面白い過去を背負っているね」


 その言葉が聞こえ、カイセンの視界が再び安定した時、目に映っていたのはカイセンが元々いた世界。


 その世界にある、自分の家だった。

【キャラクター紹介】


チーフ・エリモル


年齢:32歳

誕生日:11月11日

身長:185cm

体重:82kg

体格:大柄で筋肉質

髪・目:黒髪・茶色の瞳

一人称:私

好きなもの:平和

苦手なもの:殺人

好きな言葉:騎士

適性:土

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