↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界で、もう一度  作者: 霜月
第二章 『第三次人魔戦争 409』
21/34

第二章 5 『知』

「一応聞くけど、君たちの中にカイセンっている?」


「俺がカイセンだが、なにか悪いか?」


「あー。やっぱりか」


 アスモデウスは七人を見渡す。


(ハグノスはいつ帰ってくるだろうか。まあ、それより先に終わるのは確かだね)


「適性は炎、権能も持っていますね」


 シエルが権能『アナーゼ』を発動する。


 権能の具体的な能力までは分からない。


 だが、炎属性への適性と権能を持っていることが分かっただけでも十分だった。


「それじゃあ、始めようか」


 アスモデウスが手を上げる。


 次の瞬間、地面から炎が立ち上がり、七人へ向かって広がっていく。


「アンチ・マジック!」


 ナインが前に出る。


 迫っていた炎が消滅した。


 だが、ナインはすぐには次の魔法を使わない。


 アンチ・マジックは魔力の消費が激しい。


 無闇に使えば、肝心な場面で使えなくなる。


「今です!」


 シエルの声と同時に、テクスト、ゴウ、エマが走り出す。


 三人がそれぞれ違う方向からアスモデウスへ迫る。


 アスモデウスが炎の壁を生み出す。


「マサカサ!」


 ミナが権能を発動する。


 炎の動きが反転し、アスモデウスへ向かう。


「おっと」


 アスモデウスが避けた。


 その隙にゴウとエマが左右から迫る。


 アスモデウスは二人の攻撃を受け流し、炎を纏った腕で反撃する。


「王牙流・白虎!」


 テクストが割って入り、その攻撃を受け止める。


 そのまま剣を振る。


 アスモデウスが身体を逸らした。


 剣先が肩を掠める。


「……へえ」


 アスモデウスが笑った。


 炎が再び周囲に広がる。


 カイセンがグロブス・メディウス・テネブラルムを放つ。


 アスモデウスが炎で防ごうとする。


「アンチ・マジック!」


 ナインが炎の一部だけを消した。


 完全に消し去るのではなく、カイセンの魔法が通るだけの道を作る。


 アスモデウスが気づいた瞬間、黒球が直撃する。


 さらにテクストが踏み込み、ゴウとエマが左右から追撃する。


 アスモデウスは炎を使って防ごうとするが、ミナのマサカサによって動きを崩される。


 最後にシエルの光属性魔法が直撃した。


「……まさか、ここまでやられるとはね」


 アスモデウスが砂煙の中から立ち上がる。


 衣服は破れ、身体にも傷が残っている。


「面白いね」


 アスモデウスが七人を見る。


「ここにしようか」


 アスモデウスは何かを選んだかのように言う。


「エイドカロス」


 カイセン達が瞬きをして再び目を開く。


 次の瞬間――


 傷が消えた。


 破れていた衣服も元に戻る。


 そして、先ほどまで消費していたはずの魔力までもが完全に戻っていた。


「……!」


 七人が警戒する。


 アスモデウスは、先ほどまでの傷など最初から存在しなかったかのように立っていた。


「どうだい? 僕の権能は」


 カイセンがナインを見る。


「アンチ・マジックで元の状態に戻せないのか?」


 ナインが首を横に振る。


「無理です。権能は基本的に、誰の妨害も受けない。アンチ・マジックの対象外です」


 カイセンは、初めて聞く情報に少し驚く。


「権能って言っても体力と魔力の消費はあるよな? ならいずれ倒せるだろ」


 ゴウの考えを、ナインが正す。


「そこが少し引っかかるところです。彼の権能がもし、回数制限持ちならばなんとかなる。しかし、体力と魔力の消費ならば大変なことになります」


 ナインはアスモデウスを見る。


「なぜなら、彼の魔力も体力も、その権能で元通りになっているのですから」


 * * *


「僕は戦う気ないからさ。どっか行ってくれない?」


 ベルフェゴールが、イロンたちを見ながら言う。


「戯言を、お前を討伐するのが私たちの役目だ」


 イロンがベルフェゴールを睨みつける。


「シュヴェアムート。やっておいて」


 ベルフェゴールの後ろから現れたのは、カイセンとナイン、そしてシュテーレンが森で出会った憂鬱の魔族、シュヴェアムートだった。


「僕も面倒なんだけどな……。まあ、逆らえるわけもないし」


 シュヴェアムートはイロンたちを睨む。


「アトニアー」


 シュヴェアムートが魔法を発動する。


 しかし、ほとんどの兵士は倒れなかった。


「……」


 シュヴェアムートは僅かに目を見開く。


「流石に精鋭揃いか……」


 続けて魔法を発動する。


「カマトス。アステネイア」


 連続して繰り出される闇属性魔法によって、何人もの兵士が倒れていく。


 それでも、先頭に立つイロンやローゼ、そしてレグルスが誇る精鋭の何名かは立ち上がった。


「面倒だな、あれ使っていい?」


 シュヴェアムートが振り向き、ベルフェゴールを見る。


 すると、ベルフェゴールの代わりにヌイが答えた。


「ダメに決まっています」


「なら手伝ってくれよ」


 シュヴェアムートとヌイがそんな話をしている間に、アルファがシュヴェアムートの魔法によって今にも気絶しそうになっているミレナへ駆け寄る。


「ミレナ様、大丈夫ですか?」


「大丈夫な……わけ……ないでしょう……。早く……助けなさい」


 その命令を聞き、アルファたちはミレナを連れて戦場から離れる。


 その間にも、イロンはシュヴェアムートへ向かっていく。


 ローゼもまた、ヌイへと向かって駆け出す。


 こうして、イロンはシュヴェアムートを、ローゼはヌイを相手取ることとなった。


 * * *


 リベルがヌイに向かって剣を振る。


「王牙流・青龍」


 しかし、ヌイはそれをいとも簡単に避ける。


(速い。いや、これは瞬間移動の類か)


「ローゼ様。おそらく、瞬間移動かと。それを踏まえてお戦いを」


 それを聞き、ローゼは動く。


「確かに速い。感じ取った魔力の動きも、線ではなく、点になっている」


 相手の魔力を感知して敵の場所を探すのは定石だ。


 普通は移動した時、魔力も線のように少しずつ移動していく。


 しかし、ヌイは一度消えて、瞬時に別の場所に現れる。


 魔力の移動が線ではなく、点なのだ。


「瞬間移動か……」


 リベルが対処法に悩む。


「魔法……いや、権能に近い能力か」


 ローゼの推測をヌイは肯定する。


「その通りです。僕の権能の能力。ですがそれを理解したところで何ができるというんですか?」


「何ができるかと聞いたな? もちろんできる。貴様を殺すことがな」


 ローゼはそう言い放ち、推測を話し続ける。


「権能といえど限界はある。瞬間移動となれば移動可能な最大距離と再発動までにかかる時間があるはずだ」


 ヌイがローゼを睨む。


 その目つきが、ローゼの考察を確信へと変えた。


「ならば、私がこの魔族の限界を引き出させてみましょう」


 そう言い放ったリベルの顔に恐怖はなく、ただ冷静に剣を構える。


 戦闘が始まる。


 リベルが攻撃を仕掛けると、ヌイは瞬間移動でリベルの背後に飛び、袖に隠していたナイフで攻撃を仕掛ける。


 リベルもそれに反応し、剣で止め、押し返す。


 その時、ヌイは瞬間移動ではなく、足で地面を蹴って後ろに下がった。


 リベルは足を止めずに距離を詰める。


 剣を振る。ヌイがナイフでは止めきれず、そのまま斬り倒されそうになった瞬間、瞬間移動で遠くへ移動する。


(今の瞬間、なぜ地面を蹴って逃げた。最初から瞬間移動をすれば良いものを)


 ローゼは冷静に二人の戦闘を分析し、ヌイの権能を見極めようとする。


「王牙流・白虎」


 猛烈な白い閃光が奔る。


「速いですね。私の瞬間移動が霞んでしまいそうです」


「今からこの剣術で貴様を狙い続ける。避けられるものなら避け続けてみろ」


 ヌイが瞬間移動する。リベルが白虎で距離を詰める。しかし、ヌイはそれを瞬間移動で避ける。


(おそらく、あの魔族の再発動までの時間は五秒程度。あとは距離だが……。今のところ細かくはわからんが最高で四十メートルほど。まだ伸びるかどうか)


「油断していますね?」


 ローゼが分析している間にヌイが背後に瞬間移動する。


「言っておくが、私は戦える王だ」


 ローゼがヌイの方を振り向く。


「フラメンヴァル」


 ローゼとヌイの間に炎の壁が現れる。ローゼはそこに手を突っ込み、フラメンヴァルに使われている炎を引っ張り、弓のように変異させる。


「フラメンボーゲン」


 魔力の再利用。


 そんなことができるのは、天才の域に達していると言っても過言ではない。


「穿て」


 しかし、攻撃が当たる前に、ヌイは瞬間移動で遠くへ飛ぶ。


「ローゼ様に何をする!」


 リベルがこれまでで一番声を荒げてヌイに斬りかかる。


 その後も戦闘は続き、ついにローゼは結論を出す。


「貴様の権能は、再発動までに五秒。そして、最大移動距離は五十メートルと言ったところか」


 ヌイがローゼを睨みつける。


「本当に貴様は顔に出やすいな。聞いたな? リベル」


「はい。素晴らしい分析です。ではあれをお使いに?」


「よくわかっているな。時間を稼げ」


 そう言うとローゼは魔力を集中し始め、リベルは頷きヌイの方に走り出す。


「時間稼ぎ? かなり大きな魔法を使うのですか? ですが、それじゃあ、隙だらけですよ」


 ヌイが再びローゼの背後に瞬間移動し、ナイフを振りかざす。


「隙? そんなもの、私がいる以上、無いようなものだ」


 リベルが追いつく。


「教えてやろう。我がアイン家の家訓というものを。それには優先順位があり、自分の身を守るべし、王族の身を守るべし、そして最も優先するべき家訓は、敵を討つべし」


「だからなんですか?」


 ヌイは少し焦りながらも五秒が経った瞬間、瞬間移動で遠くへ逃げる。


「私としては王族が最優先ではないことに騎士として少し疑念があるのだが、アイン家は王族を守る騎士ではなく、王国を守る騎士だと教えられている」


「答えになっていませんよ」


 ヌイは権能の使いすぎによるものなのか、それともただ焦っているだけなのか、汗が止まらない。


「答えるつもりがないからな」


 リベルの返答にヌイは少し怒りを露わにするが、すぐに自分を落ち着かせ、冷静に行動する。


「そうですか!」


 瞬間移動でリベルの死角に飛び、ナイフで攻撃を仕掛ける。


 しかし、リベルは「それはもう見飽きた」と言い捨て、攻撃を跳ね返す。


 その後もやることは同じ、瞬間移動による不意打ち、そして瞬間移動での逃走。


 そして、ローゼが魔力を集中させ初めてから四十四秒が経過した。


(周りの味方は他の魔族との戦闘で近くにはいないな)


「行くぞ、リベル」


「はい。ローゼ様」


 ローゼが魔法を発動する。


「エンジシ」


 その言葉と同時に、ヌイを中心として六十メートルほどの範囲に、炎の柱が立つ。


 ヌイの瞬間移動では、そこから外へ出ることのできない距離。


 炎の柱が立っていないのは、今ヌイがいる場所と、ローゼとリベルが立っている場所だけだ。


 つまり、ヌイがこの空間から逃げ出すには、一度ローゼとリベルの位置に移動し、五秒間耐えた後、再び瞬間移動を発動しなければならない。


 ヌイの素の戦闘能力で二人から五秒間耐えることなど不可能だった。


「詰みだ。さあ、早くこちらに瞬間移動してこい。私かリベルがその命、奪い取ってやろう。それとも、わざと炎の柱を立てなかったその位置にも、炎の柱を立ててやろうか?」


 ローゼは最初から『エンジシ』でヌイの位置にも炎の柱を立てればよかった。


 それをしなかったのは、ローゼの嗜好か。それとも、他の何かか。


 なんにせよ、ヌイの勝ち筋は既に途絶えていた。


「まあ、いいでしょう。私の役目はもともと時間稼ぎ、魔力も消費させられたようですし、十分な働きでしょう」


 ヌイは清々しい顔でそう言い放つ。


「ですが、悪あがきをしてみようと思います」


 瞬間移動。


 移動先はもちろん二人のいる場所。


「王牙流・青龍」


「グロブス・アルテュス・イグネウス」


 炎の上級基本魔法。


 二つの攻撃は、ヌイが攻撃を繰り出すよりも早く、その命を奪った。


「貴様の過ちを一つあげるとしたら、権能に頼りすぎたことだ」


 ローゼはそう言い放ち、エンジシを消し、次の戦闘に向けて動き出した。

【権能について】


この世界には、通常の魔法とは異なる「権能」という特殊な能力があります。


権能は基本的に他者からの妨害を受けず、それぞれが固有の能力を持っています。


権能というのは、一つの魔法というよりも、概念に近いものです。


シエルやミナの権能には、アナーゼやマサカサという一つの名称しかありませんが、マモンのように複数の名称と効果を持つ者もいます。


シエルは「相手を見極める」という概念。

ミナは「反転」という概念。

マモンは「欲」という概念。


このように、権能はそれぞれ異なる概念を基盤としています。


魔法は「属性」を基盤とした技術。

権能は「概念」を基盤とした、その人物固有の能力です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。