第二章 4 『第三次人魔戦争開戦』
ベルゼブブの権能は手元から離れない設定に変更。
「猪のオーラは走りだし」という部分を削除
人類勢力がついに中央荒野へ突入した。
馬車を降りた兵士達が、それぞれ武器を手に取る。
これまで幾度となく人類と魔族が争ってきた、広大な荒野。
乾いた大地がどこまでも続き、その先には、人類を迎え撃つように大量の魔物と魔族が待ち構えていた。
目に入ったのは、キング級の魔物による軍勢。
そして、その後ろに控える魔族の軍勢。
敵の姿を目の当たりにしたことで、戦場へ足を踏み入れた人類側の兵士達にも緊張が走る。
武器を握る手に力が入り、周囲を警戒する視線が増えていく。
しかし――
「やっちゃえ!」
その空気を切り裂くように、ミレナの声が響いた。
その声を合図に、ミレナの配下であるアルファ達が一斉に動き出す。
五人はそれぞれ距離を取り、魔力を集中させていく。
やがて、それぞれの得意とする属性へ魔力を変換し、魔法を展開した。
アルファは炎魔法上級を。
ベータは水魔法上級を。
ガンマは土魔法上級を。
デルタは雷魔法上級を。
イプシロンは風魔法上級を。
五つの属性による上級魔法が、ほぼ同時に魔物の軍勢へと放たれる。
アルファ達は、上級魔法でありながら、他の魔法使いとは段違いの火力を叩き出していた。
巨大な魔物の身体すら、その魔法の前では耐えることができない。
キング級の魔物達でさえ、圧倒的な魔法を前に為す術もなく倒れていく。
一体。
また一体。
キング級の魔物が次々と地面へ倒れ、周囲にいた魔物達まで巻き込まれていく。
人類側から歓声が上がった。
だが、その光景を見ていた魔族達の反応は違った。
魔物達が次々と倒されているにもかかわらず、魔族達に動揺した様子はない。
「あーあ。キング級死んじゃったじゃん。だからあんなの作っても意味がないって言ったのに」
男の魔族の一人が、倒されたキング級の魔物を眺めながら小言を漏らす。
その声に焦りはない。
むしろ、目の前で戦力が失われているにもかかわらず、どこか退屈そうだった。
「それにしてもなかなかな火力だったな。こっちも見せてやらないと」
男が後ろを振り返る。
その視線の先には、大量の赤い肌をした魔族達がいた。
「行くぞ。我ら傲慢の配下。『テラス』戦争の幕引きだ」
その言葉とともに、赤い肌をした魔族達が一斉に戦場へ向かっていく。
人類と魔族。
両者の距離が、少しずつ縮まっていく。
* * *
「そろそろ始まったかなー?」
ハグノスが興奮冷めやらぬ様子でアスモデウスを見る。
戦場から離れた場所にいるにもかかわらず、その表情には、これから始まる戦いへの期待が浮かんでいた。
「おそらくね。キング級は期待できないからルシファーの配下が戦ってるんじゃないかい?」
アスモデウスは落ち着いた様子で答える。
三人の七大魔族とハグノスは、戦場の様子を確認できる距離まで少しずつ近づいていた。
「あー。あの爆破するやつか!」
ハグノスが思い出したように声を上げる。
「いや、それはもう死んでるよ。今戦ってるのはルシファーの権能で強くなった異形型じゃないかな?」
「異形型……。見たことない!」
ハグノスは興味を示し、アスモデウスを見る。
「ルシファーの権能で与えた力が強すぎて形が歪んでしまったんだよねー」
ベルゼブブが話に割り込んできた。
ハグノスはベルゼブブへ視線を向ける。
「へえ。強いの?」
「そこらへんの魔族よりはね」
「僕と比べたら?」
ハグノスは自分の強さを確かめるように尋ねる。
「そりゃ、ハグノスのほうが強いかな」
その言葉を聞いたハグノスは、満足そうに戦場の方へ視線を向ける。
「あ! 着いたよ」
ハグノスが前方を指差す。
その先には、すでに激しい戦闘が繰り広げられている中央荒野が広がっていた。
三人の七大魔族とハグノスが戦場へ到着した時には、テラスと人類勢力はすでに激しくぶつかり合っていた。
戦場では、魔族と人類が入り乱れている。
魔法が飛び交い、武器がぶつかり合う。
両陣営がそれぞれの力を振るい、互いに押し合っていた。
そんな中、先ほど小言を漏らしていた男は前へ出ることなく、戦場の後方から戦況を見守っている。
その視線の先では、次々と人類と魔族が倒れていく。
その混戦の中を、一人の男が駆け抜けていく。
「低俗な魔族の相手などしていられるか」
イロンはそう言い捨てる。
槍を振るうたびに、立ちはだかるテラスが倒れていく。
イロンは足を止めることなく、戦場の奥へと進んでいった。
やがて、後方から戦場を指揮している男の前までたどり着く。
「一つ聞くぞ、七大魔族はどこだ」
イロンが問いかける。
「あの方達はそろそろ到着されるはず。だが、それよりも先に『テラス』の指揮官であるテルロスがお前を殺してやる」
テルロスはそう言うと、魔法を唱える。
「アロモルピア」
魔法が発動した瞬間、テルロスの身体に変化が起こった。
肌が赤く染まり、その身体が徐々に異形の形へと変化していく。
先ほどまで他の魔族と変わらない姿だったテルロス。
しかし今は、その姿もまた異形へと変わっていた。
「ワレ、テルロス。オマエ、コロス」
異形となったテルロスが、イロンを睨みつける。
「力を得るために異形となる道を選んだか。力を手に入れたとして、それを生かす知を捨てては意味がない」
イロンが槍を構える。
テルロスもまた、魔力を集中させていく。
「ダマレ、ワレ、ツヨイ。オニュクーー」
テルロスが魔法を唱え終えるよりも早く、イロンが動いた。
槍が一閃する。
次の瞬間、テルロスの身体が崩れ落ちた。
イロンは倒れたテルロスへ目を向けることなく、再び前を向く。
「お前らなんかで足を止めるわけにはいかない」
そして、イロンが目を向けた先には、細長い身体に灰色の長髪、白い肌、ゆったりとしたローブを身にまとった魔族がいた。
その姿を見た瞬間、イロンの視線が鋭くなる。
「あの見た目、記録に残っていた七大魔族の怠惰と同じ」
イロンが声を張る。
「レグルス王国の兵士達よ! 七大魔族の怠惰、ファウルハイト・ベルフェゴールを発見! 攻撃しろ!」
その声が戦場に響き渡る。
「おおー!」
兵士達が一斉に声を上げた。
「げっ、もうバレた。まだ魔力解放してないのに」
ベルフェゴールはそう言い、ため息を吐く。
その直後。
三人の七大魔族が、それぞれ魔力を解放した。
膨大な魔力が一斉に放たれ、戦場全体を覆っていく。
天をも超えそうな魔力の柱が、いくつも立ち上がった。
その圧倒的な魔力を感じ取った一同は、それぞれの標的を発見する。
「色欲を発見! 行きますよ!」
シエルが声を張り、カイセン達も動く。
「暴食を発見! 行くぞ、エイリ騎士団!」
チーフもまた声を張り上げ、周囲へ指示を飛ばす。
そして、イロンは周囲を見渡した。
戦場に現れた七大魔族の気配を確認しながら、残る魔族の位置を探る。
(嫉妬と傲慢がいない? 魔力を抑えている可能性もある。注意しなければ)
* * *
「こいつが暴食? 子供じゃねえか」
エイリ騎士団の団員がベルゼブブを見てそう言う。
そこに立っていたのは、金色の髪と金色の瞳を持つ、小さな子供のような姿の魔族だった。
白い大きめのシャツに黒い短パン。
武器らしい武器も持たず、裸足のまま立っている。
戦場にいる兵士達と比べても、その姿はあまりにも幼く見えた。
しかし、その口元から覗く歯だけは、普通の子供とは明らかに違っていた。
鋭く並んだ歯。
そして、その瞳に宿っているのは恐怖でも警戒でもない。
目の前に現れた人類を見て、ただ楽しそうにしている。
「俺だけで勝てますよ。見ててください」
そう言って、一人の団員が走り出す。
「おい待て!」
チーフが止めようとする。
しかし、団員は止まらない。
「功績ゲット!」
団員は笑みを浮かべながら、ベルゼブブへと迫っていく。
剣を振りかざした、その瞬間。
ベルゼブブが片手を前へ出した。
「ウォルボア」
手の先に魔力が集まり、黒とも赤ともつかないオーラが膨れ上がる。
やがて、そのオーラは一匹の巨大な猪の形へと変わっていき、その巨大な口を大きく開いた。
団員の姿が、その口の中へと消える。
「ゴキッ」
何かを噛み砕くような音が響いた。
「グチュッ」
何か柔らかいものが潰れた音が響いた。
「ゴクンッ」
猪のオーラが口を閉じる。
そこにいたはずの団員の姿は、もうなかった。
ベルゼブブは楽しそうに笑う。
「ごちそうさま」
* * *
「あれー? やっぱカイセンの魔力を感知できないな?」
ハグノスが目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。
しかし、カイセンの魔力を捉えることはできなかった。
カイセンはついこの間、魔力を制御することを覚えたばかりだった。
「おかしいなー? カイセンって王様の護衛なんだよね? 来てるはずなんだけどな。ちょっと周り見てくる!」
そう言って、ハグノスは戦場を駆け抜けていく。
(大丈夫なのか? ハグノスは魔力探知下手だけど)
その頃には、シエル達もアスモデウスのもとへたどり着いていた。
(この魔族が色欲……)
シエルの視線の先にいるのは、色欲の魔族、ヴォルスト・アスモデウス。
黒に近い紫色の髪と赤紫色の瞳を持つ、整った顔立ちの魔族だった。
その姿からは、目の前にいるだけで周囲を圧倒するような威圧感が漂っている。
「みんな、気をつけて! 倒しますよ!」
シエルの掛け声に合わせて、カイセン達が動き出す。
【キャラクター紹介】
フェレライ・ベルゼブブ
年齢:437歳
誕生日:6月6日
身長:約135cm
体格:小柄
髪・目:金色の髪・金色の瞳
一人称:僕
好きなもの:食べること
嫌いなもの:空腹
好きな言葉:食物連鎖
適性:水
権能:『ウォルボア』
猪の形をしたオーラを生み出し、相手を噛み砕いて飲み込む。
所属:七大魔族・暴食




