第二章 2 『戦は一日にして成らず』
「鎮まれ」
イロンの声が、ざわついていた広間を一蹴した。
先ほどまで響いていた怒号や困惑の声が、少しずつ消えていく。
広間に集まった者たちは、皆一様にイロンへと視線を向けた。
「カストルが魔族の手によって支配されたことは、もう分かったはずだ」
イロンは周囲を見渡す。
そこにいるのは、各国の代表者。そして、それぞれの国が誇る戦闘員たちだ。
先ほどまでの混乱は、まだ完全には消えていない。
しかし、ここにいる者たちは皆、戦うために集められた人間だ。
いつまでも混乱しているわけにはいかない。
「ならば、我々が取るべき行動は一つ。これから起こる戦争への対策を講じることだ」
イロンの言葉に、周囲から小さく頷く者が現れる。
「確かに、その通りだ」
そう同意したのは、商国ルプスが誇る騎士団、その団長。
チーフ・エリモルだった。
「ここにいる者たちをまとめる役目は、君に任せるよ。イロン殿」
チーフの言葉に、イロンは僅かに目を細める。
「ありがたい判断だ。しかし、なぜ?」
「決まっているだろう」
チーフは周囲を見渡した。
「この戦争の指揮を執る者には、それ相応の権限が必要になる。ならば、この場にいる者の中で、君が適任だ」
「……なるほど」
イロンは一度、周囲にいる各国の代表者たちを見る。
誰も異論を唱える様子はない。
それを確認すると、イロンは静かに口を開いた。
「しかし、私がこの戦争を統率するということは、この戦争で得られる利益の大半をレグルスが得ることになるが?」
「分かっているとも」
チーフは即答した。
「そもそも、第一次人魔戦争で最も大きな活躍を残したのも、賢星国家と呼ばれる前のレグルスだと言われている」
「……そうか。ならば、ありがたく頂戴しよう」
その言葉とともに、第三次人魔戦争における人類側の指揮権は、レグルス王国へと渡った。
「ではまず、第一次と第二次について振り返らせていただく」
指揮権を得たイロンは、すぐに本題へと入った。
「第一次人魔戦争。賢歴二千四百八十七年に起きた戦争だ」
イロンの声が広間に響く。
「この戦争で勝利したのは人間。そして、人類側が収めた最大の功績は――七大魔族、全員の討伐だ」
その言葉に、周囲から僅かにざわめきが起こる。
「そして第二次人魔戦争。賢歴二千五百八十七年に起きた戦争だ」
イロンは続ける。
「その戦争では、死んだはずの七大魔族が突如として復活した。それは突然の復活だったため、人類側は対応することができなかった。そして――人間は敗北した」
広間が静まり返る。
「ここで問題となるのが、七大魔族の性質だ」
イロンは一拍置いた。
「先ほど話した通り、七大魔族は一度討伐されたにもかかわらず、第二次人魔戦争で復活した」
「復活に限度があるのか。それとも無限なのか。それについては、未だに分かっていない」
イロンは淡々と言葉を続ける。
「その性質から、七大魔族は『不死の魔族』とも呼ばれている」
そして、イロンは今回の戦争において重要となる話へ移った。
「その対策として作られたのが、封印魔法だ」
その言葉に、一部の者が反応する。
「この魔法は上位階級にしか伝えられていない。七大魔族を討伐するのではなく、封じることで復活そのものを防ぐための魔法だ」
イロンは一度、言葉を切った。
そして、その魔法を生み出した人物の名を口にする。
「作成者は――大賢者、メシアス・アルム」
その名が、広間に響き渡った。
すると――。
「そもそも、大賢者はどうした!」
一人の男が声を上げた。
「なぜこの場にいない! 二人は今も生きているだろうが!」
その言葉に、周囲からも同意の声が上がる。
「大賢者ヴァイゼ・ゲシヒテは『くだらん』と断ったらしいぞ!」
「大賢者メシアス・アルムはどこにいる! 誰もあいつの居場所を知らんのか!」
「ふざけるな!」
「何を考えているのだ!」
「本当は弱いんじゃないのか!」
次々と声が飛び交う。
再び広間が騒然とし始める。
「鎮まれ!」
イロンが再び声を張った。
その一喝で、広間は再び静まり返る。
「この場には、賢人は一人、賢者は二人も来ている。今は過去最高の人数だ」
イロンは、集まった人々を一人ずつ見渡す。
「さらに、獣人の力も借りられる」
そして、言い切った。
「それ以上を求めて、どうする」
誰も、言い返すことはできなかった。
「では、次に誰がどの七大魔族を担当するかだ」
イロンは話を先へ進める。
「現在、封印もされておらず、生きている七大魔族は五人。傲慢、怠惰、暴食、色欲、嫉妬だ」
イロンは、五つの名を一つずつ口にする。
「憤怒は大賢者メシアス・アルムが、封印魔法の実験で封印した」
そして、もう一人。
「強欲は、第三王女のシエルとその配下が、封印に失敗したものの討伐した」
その言葉に、何人かがシエルの方へ視線を向ける。
「ならば、我々エイリが暴食と嫉妬を担当しよう」
チーフが名乗りを上げる。
「ならば、私たち賢者と賢人、各国の戦闘員は怠惰を担当しようか」
そう話したのは、一人の賢者だった。
「分かった」
イロンは頷く。
「ならば、私たちが傲慢と色欲を担当する。そして、全てを封印し終えたら、残った戦力で魔王を討伐する。それでいいか?」
イロンは広間を見渡す。
誰も異論を唱えない。
「これはあくまで予定だ。今の割り振りを無視して、見つけた七大魔族を相手にしてもらってもいい」
こうして、第三次人魔戦争へ向けた話し合いは進み、その日は終わった。
翌日。
「昨日はすごい日だったな」
「そうですね。戦争は一ヶ月後……。はっきり言って、僕は戦争なんてやりたくないんですけどね」
カイセンとナインは、鍛錬場で話をしていた。
「戦争が近いんですから、今日からはいつも以上に厳しい修行をしますよ」
「おう!」
カイセンは気合いを入れる。
まず始めたのは、アメノイワトの安定化だった。
これまでは、発動するだけでも魔力の消費が大きく、維持することも難しい。
戦闘中に安定して使えなければ、実戦では使い物にならない。
だからこそ、今のうちに欠点を潰す必要があった。
修行方法は単純だ。
発動する。
維持する。
消えたら、また発動する。
そして、気絶したなら、目を覚ました後にまた発動する。
何度も、何度も繰り返す。
カイセンへの負担は、とてつもないものだった。
それでも、カイセンは修行をやめなかった。
戦争が一ヶ月後に迫っている。
その事実が、カイセンを動かしていた。
その間、ナインもまた修行を続けていた。
(僕ももっと強くならなくては……。もしかしたら、あの日の魔族もいるかもしれない……)
ナインは、かつて失った友人のことを思い出しながら、魔力を集中させる。
過去の恐怖を振り払うように、何度も魔力を練り上げていく。
やがて、カイセンは魔法の修行を終え、次は剣術の修行へと移った。
最近、カイセンがダインスレイヴを使うことは減っている。
それでも、剣術を学んでおいて損はない。
「昨日、お前の兄ちゃんっぽいのがいたよな」
「ああ。あれが私の兄、リベル・アインだ」
カイセンとテクストは、剣を交えながら話をしていた。
「……仲悪いんだっけか?」
「難しいな。兄は私を軽蔑していた。しかし、嫌われていると感じたことはなかった」
テクストは剣を振る。
カイセンはそれを受け止め、後ろへ下がった。
「そもそも、軽蔑していたというのも、私の思い違いなのかもしれない。幼い頃の私の記憶は、優しい兄のことばかりだ。『一族の恥が』と言われた記憶もあるが、それは追い詰められた私が、そう受け取ってしまっただけなのかもしれない」
「難しいな」
カイセンは、あまり理解できていない様子だった。
「そうだろう。貴族というのは、難しいものだ」
テクストは少し笑った。
「なら、捨ててみたらどうだ?」
テクストは疑問の表情を浮かべる。
「何を?」
「貴族の地位をだよ。邪魔なら捨ててしまえよ」
その言葉に、テクストは笑ってしまう。
「流石に捨てられないさ。私はアインの人間として生きるのが苦痛なわけではない。むしろ、堂々とアインを名乗れるように努力しているほどだ」
「そうなのか。なら、お互い頑張らないとな!」
「そうだね」
二人は会話を続けながら、剣を交えていた。
「そういえば、目はもう慣れたのか?」
「ああ。最初は違和感があったが、今では以前と見劣りしないくらいには動けるようになった」
「そうか。なら、よかった」
【キャラクター紹介】
イロン・レーヴェ・ケーニヒ
年齢:24歳
誕生日:7月11日
身長:180cm
体重:72kg
体格:細身で引き締まっている
髪・目:金髪・深い青紫
一人称:私
好きなもの:槍
嫌いなもの:無能
好きな言葉:勝利
適性:土




