第二章 1 『二度あることは三度ある』
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賢歴三千二十四年六月一日。
この日、賢星国家レグルスの王城に、全世界の人類側戦力が集う。
議題は、第三次人魔戦争。
王城の広間。
そこには、大きな円形の空間が作られていた。
壁際には各国の代表者や護衛が立ち並び、その中央には、今回の話し合いに参加する権力者や戦闘員が集まっている。
そして、広間の中央。
「どういうことだ。なぜカストルの戦力が一人もいない」
そう声を上げたのは、リベル・アイン。
アイン家の長男、テクストの兄である。
リベルの視線の先。
そこにいるはずの人間が、いない。
カストル帝国の代表者。
その護衛。
そして、カストルが誇る戦闘員たち。
誰一人として、この場にはいなかった。
「確かに妙だな」
「カストルはまだ来ていないのか?」
「もう始まるぞ」
周囲からも疑問の声が上がる。
リベルの言う通り、カストルから来た人間は一人もいなかった。
言わずもがな、異常事態だ。
カストルは、もともと交流的な国ではない。
他国との交流も少なく、外の世界に積極的に関わる国ではなかった。
だが。
戦争となれば話は別だ。
第一次人魔戦争。
そして、第二次人魔戦争。
どちらの戦争でも、カストルは積極的に参加していた。
それほどまでに、人類側にとってカストルは重要な戦力だった。
「何かあったのか?」
誰かが呟く。
「いや、考えすぎだろう」
別の者が答える。
「単純に遅れているだけかもしれない」
その言葉に、何人かが頷く。
リベルも、今はそれ以上追及することはしなかった。
しかし。
胸の奥に残る違和感だけは、消えなかった。
そんな国が。
第一次も。
第二次も。
人類側として戦った国が。
なぜ今回だけ、誰一人として姿を見せないのか。
そして。
「カストルの国旗を掲げた馬車が今到着しました!」
衛兵の報告が、広間に響き渡った。
その瞬間。
広間にいた者たちは、揃ってそちらを見る。
王城の入口。
カストルの国旗を掲げた馬車から十三人降りてくる。
「来たか」
「ようやく到着したんだな」
先ほどまで漂っていた緊張が、少しだけ和らぐ。
リベルも、小さく息を吐いた。
どうやら余計な心配だったらしい。
先頭に立っていた男は鋭い目つき。
そして、少し人間離れした赤い肌。
その姿を見た者たちは、一瞬だけ戸惑う。
だが。
すぐに納得した。
獣人だ。
カストルは、賢星国家の中でも特に獣人文化が根付いている国。
獣人が代表者として現れること自体は、何も不思議ではない。
彼らは何も言わず、広間へと歩いてくる。
その姿を見ながら、リベルは考えていた。
――妙だ。
何かがおかしい。
だが、その正体が分からない。
そして。
十三人の先頭に立つ男が、広間の中央へと歩み出た。
誰もが彼を見る。
男は周囲を見渡し――。
「今から一ヵ月後、我ら誇り高き魔族は、第三次人魔戦争の宣戦布告をする」
その言葉を聞いたコンマ数秒後、真っ先に動いたのは、第一王子、イロン・レーヴェ・ケーニヒだった。
イロンの手に魔力が集まる。
次の瞬間。
槍が、魔法によって生成された。
そのまま、宣戦布告をした魔族へと踏み込む。
槍が振り抜かれた。
そして――。
魔族の心臓を貫いた。
「……ッ」
魔族の身体が大きく揺れる。
直後。
その身体が爆発した。
爆風が広間を走る。
だが、爆発そのものの規模は大きくない。
周囲の者たちはすぐに体勢を立て直す。
しかし。
「あーあ。死んじゃった」
爆発したものとは違う魔族が、
「我らは七大魔族の第一柱、傲慢のアロガンツ・ルシファー様の配下達、『テューマ』」
その言葉に、広間の空気がさらに張り詰める。
イロンは再び槍を構える。
そして。
「――消えろ」
二体目の魔族を、槍で刺し殺す。
魔族の身体が爆発する。
リベルは、その光景を見ながら冷静に思考していた。
(あと十一体……)
リベルは周囲を見渡す。
この場所には、王位継承候補。
各国の代表者。
そして、各国を代表する戦闘員たち。
これだけの人間が集まる場所で、さらに爆発が起きればどうなる。
(おそらく、死がトリガーになっている爆発つきか)
爆発の範囲は大したものではない。
だが、ここは王城の中。
逃げ場が限られている。
建物の内部で連続して爆発すれば、話は変わってくる。
必然的に皆が取った行動は――。
主人を守ること。
テクストやカイセンは、シエルを。
第二王女、ローゼの配下であるリベルは、ローゼを。
イロンは配下を持たない主義だから、自分自身を。
それぞれが己の欲のために動く。
その場にいた者たちが、それぞれの守るべきものの前へ立つ。
魔族から目を離さない。
次に何が起きても対応できるように。
幸い、魔族の爆発のトリガーは死。
ならば。
何もしなければ、害はない。
――そう思われた。
しかし。
その直後。
ドンッ!!
十体全員が、同時に爆発した。
「――ッ!」
先ほどまでとは比べものにならない爆風が、広間全体へと広がる。
立っていた者たちは、それぞれ身を低くする。
誰かが誰かを庇い。
誰かが魔法で爆風を防ぐ。
広間の中を爆風が駆け抜け、何名かの戦力者が負傷する。
そして。
爆発の煙が晴れていく。
そこには、最後に残った一人の魔族が立っていた。
その魔族は、ゆっくりと口を開く。
「戦争の場は中央荒野だヨ」
余裕のある声だった。
その言葉に、何人かが身構える。
だが、魔族は気にする様子もなく続けた。
「もちろん。カストルの転移魔法陣の場所は封鎖済ミ。頑張ってきてネ」
その言葉と同時に。
最後の一人も爆発した。
静寂。
誰も、すぐには言葉を発しなかった。
カストルは魔族に乗っ取られていた。
ならば。
今回、カストルから誰一人として来なかった理由も。
今ここへ十三体の魔族がやって来た理由も。
すべて繋がる。
「今すぐにカストルに連絡を入れろ!」
商国ルプスの騎士団、エイリの団長が声を張る。
すぐに念話による通信が試みられる。
この世界の連絡手段は、念話か手紙。
今回、招く際は、手紙を使った。
何度も試みる。
だが。
繋がらない。
繋げる相手が見つからない。
その結果を聞いた者たちは、誰も口を開かなかった。
それはつまり。
カストルが魔族の手に落ちたという事実を、裏付けるものだった。
カストルが一体いつから魔族に落ちていたのか。
つい最近なのか。
それとも――。
昔からなのか。
その答えは。
* * *
大きな机を囲むように、七つの椅子が並べられている。
そのうち四つには、誰かが座っていた。
「でさー、でさー。なんで乗っ取りしてた事言っちゃうわけ?」
見た目は幼い男。
喋り方も子供のようで、椅子に座っているというのに足が地面に届いていない。
その男の正体は――。
七大魔族の第四柱、暴食の魔族。
フェレライ・ベルゼブブ。
「いいじゃないか。間抜けな人間達にはこれくらいのハンデを上げなくては」
そう言ったのは、圧倒的な顔立ちを持つ男だった。
理想的な身体。
声すらも美しい。
その正体は――。
七大魔族の第三柱、色欲の魔族。
ヴォルスト・アスモデウス。
「前回の第二次人魔戦争が起きたのは四百三十七年前。その長い期間乗っ取られていることに気づかないんだからさ」
「今回も僕はやらなくていいよね?」
気怠そうに話す男。
その正体は、七大魔族の第二柱。
怠惰の魔族、ファウルハイト・ベルフェゴール。
「いや、ダメでしょー。ベルルが第二次の時に戦わなかったの忘れないからね?」
ベルゼブブの愚痴に、アスモデウスは同意する。
「本当だよ。あれに関してはとてもムカついた。そうだろう?」
アスモデウスが、自分の配下を見る。
「えー。僕はそんな前から生きてるわけじゃないので、わかんないや」
そう聞き、アスモデウスは過去を見返す。
「……そういえばそうだったな」
「でもなんで中央荒野なの? どんどん侵略していけば良くない? 第二次でカストルだけ乗っ取ったのも、よくわかんないしさ」
「不利な状況で勝っても俺は嬉しくない」
ベルゼブブの疑問に対し反応したのは一人の男だった。
「一方的な侵攻ではなく、一方的に、完膚なきまでに、蹂躙したい」
男は、静かに笑う。
「その瞬間に見る人間の顔が、俺の喜びとなるから――な」
七大魔族の第一柱。
傲慢の魔族。
アロガンツ・ルシファー。
第三次人魔戦争は、もう止められない。
どちらかが何かを失うまで。
戦争は――。
終わることはない。
【キャラクター紹介】
リベル・アイン
年齢:24歳
誕生日:6月6日
身長:181cm
体重:74kg
体格:細身で引き締まっている
髪・目:茶髪・赤
一人称:私
好きなもの:不明
苦手なもの:なし
好きな言葉:不明
所属:ローゼの配下
適性:炎




