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この世界で、もう一度  作者: 霜月
第一章 『スタート・アゲイン 409』
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第一章 ex 『テクスト・アイン 後編』

 模擬戦を終えた二人は、王都図書館へ来ていた。


 テクストはこの図書館をよく利用している。


 魔法に関する書物はほとんど読み終えており、今では新しい本を見つけることの方が難しくなっていた。


 それでも、足を運ぶことをやめることはなかった。


 魔力を持たずに生まれた自分に、何か理由があるのではないか。


 あるいは、自分と同じような者が、過去に存在したのではないか。


 それを知るために、テクストは今まで何冊もの本を読み続けてきた。


 そんな中、テクストの目に一冊の本が留まった。


(この魔力の本は読んだことがないな。随分、古い文献のようだ……)


 表紙も、紙も、かなり古い。


 これほど古い文献なら、自分と同じような事例について、何か書かれているかもしれない。


 テクストは本を手に取った。


 そのまま受付台へ向かおうとしたところで、カイセンが声をかけてくる。


 二人はそのまま他愛のない話をしながら屋敷へ戻った。


 屋敷に戻ると、テクストは自室で先ほどの本を開いた。


(さて、この本に私と同じ事例について書かれてはいるか……)


 ページをめくる。


 一ページ。


 また一ページ。


 魔力の性質。


 魔器について。


 魔法の歴史。


 様々な知識が記されている。


 しかし、自分が求めているものは見つからない。


 テクストは最後のページまで目を通した。


(古い文献なため少し期待したが、やはり書かれていないか)


 本を閉じる。


 これまで何度も同じことを繰り返してきた。


 魔力を持たずに生まれた者。


 後から魔力を得た者。


 魔力を持たない者が、魔力を扱えるようになった例。


 探しても、探しても、自分に当てはまるものは見つからない。


 それでも、探すことをやめることはできなかった。


 何か一つでも、自分がここにいる理由を知るために。


 テクストは小さく息を吐くと、本を棚へ戻し、眠りについた。


 そして――時が経つ。


 事件が起きた。


 強欲の魔族が、カイセンとナインを配下にするため、シエルの屋敷へ現れた日。


「……何だ?」


 テクストは自室で剣の手入れをしていた。


 そのときだった。


 カイセンの部屋の方から、何かが壊れる音が響いた。


 テクストはすぐに立ち上がった。


 考えるより先に身体が動いていた。


 カイセンの部屋へ向かう。


 そこで、ナインと鉢合わせた。


 二人は短く状況を確認する。


 相手は七大魔族。


 正面から戦うには危険すぎる相手だった。


 だからこそ、ナインの魔法を囮にして不意打ちを仕掛ける。


 魔法が消える。


 その瞬間、テクストはマモンの背後へ回り込んだ。


「消えろ。王牙流・連牙!」


 テクストは鋭い攻撃を連続して繰り出す。


 不意打ち。


 本来なら、剣士として好む戦い方ではない。


 だが、今はそんなことを言っていられる状況ではなかった。


「もっとも私としては不意打ちなどやりたくなかったのだが、相手が相手だ。仲間を失うくらいなら、名誉などいらない」


(相手は七大魔族。これくらいでは死なないとは思うが……これでどれくらい削れたか)


 しかし、マモンは倒れない。


 ゆっくりと立ち上がると、今度はテクストへ向かって攻撃を仕掛けた。


 テクストは間一髪でそれを避けた。


「チッ。避けたか。こんな楽しい空間に、ゴミが入ってきてんじゃねえよ。お前ーー魔力ねえだろ」


 その言葉に、テクストの動きが一瞬だけ止まった。


「魔力がこの世の全てを凌駕する。これが俺のフィロソフィーってやつだ」


 マモンはテクストを見つめる。


「つまり、魔力がねえお前は、この世界じゃゴミなんだよ」


(魔力がなければ……ゴミか)


 その言葉が、頭の中に残った。


 聞き慣れた言葉だった。


 幼い頃から、何度も聞いてきた。


「一族の恥が」


 かつては憧れた兄から向けられた軽蔑。


 そして、弟から向けられた嘲笑の言葉。


 その頃の記憶は、今でも鮮明に残っている。


 怒り。


 悔しさ。


 悲しさ。


 何より、自分には魔力がないという事実だけは否定できなかった。


 兄にも、弟にもあるものが、自分にはない。


 親から向けられる視線にも、何も感じられなかった。


 嫌悪でもない。


 愛情でもない。


 ただ、何もこもっていない視線。


 まるで、自分を見ていないかのような視線だった。


 だからこそ、テクストは剣を振った。


 魔力がなくても戦えるように。


 魔力を持つ者に負けないように。


 いつか、自分の存在を認めさせるために。


「確かに、私が魔力を持っていないのは認めよう」


 テクストは剣を構える。


「事実を偽るつもりはない」


 一歩踏み込む。


「しかし、魔力を持たないということは――ゴミということではない!」


 再び剣を振るう。


 だが、マモンは強かった。


 一撃。


 二撃。


 何度攻撃しても届かない。


 逆に、マモンの攻撃によって少しずつ追い詰められていく。


 それでもテクストは退かなかった。


(私は……)


 剣を握る。


(ゴミではない)


 もう一度、踏み込む。


 だが――。


 身体が追いつかない。


 剣を振るう力が落ちていく。


 息が乱れる。


 視界が揺れる。


 それでも、倒れるわけにはいかなかった。


 カイセンがいる。


 ナインがいる。


 二人を守らなければならない。


 それが自分の役目だからだ。


 しかし、テクストの力はとうとう限界に達した。


 膝が落ちる。


 剣を支えにして、なんとか立ち上がろうとする。


 だが、身体が動かない。


 マモンが二人へ向かって告げる。


 自分の配下になれ、と。


 カイセンとナインは、それを拒めばテクストが倒されると判断した。


 そして二人は――マモンについていくことを選んだ。


「……!」


 テクストは二人を見る。


 待て。


 そう言いたかった。


 だが、声が出ない。


(やめろ……)


 身体を動かそうとする。


(待て……私はまだ……)


 立て。


 剣を握れ。


 まだ戦える。


 そう思っているのに、身体は言うことを聞かなかった。


「待て……私はまだ戦える……」


 二人の背中が遠ざかっていく。


 手を伸ばすことさえできない。


 そして――テクストの意識は途切れた。


 * * *


「申し訳ありません。強欲に襲撃されました。私は強欲の言葉に冷静さを失い、攻撃を受けてしまいました。その結果、ナインとカイセンが連れていかれることに……」


 目を覚ましたテクストは、シエルに事情を説明していた。


 シエルは冷静に尋ねる。


「そうですか。強欲の目的は?」


「強欲は魔力に執着しているようで、ナインとカイセンに興味を持ったようです。それで、配下とするために来たと」


 テクストは手を強く握った。


 自分は何もできなかった。


 守ると決めた仲間を守れなかった。


 そして――マモンにも勝てなかった。


 それだけではない。


 騎士として守るべきカイセン達に、結果的に自分が守られてしまった。


 その事実が、胸に重く残っていた。


 守る側であるはずの自分が、守られた。


 それはテクストにとって、敗北以上に悔しいことだった。


「私も行きます! なので、少し回復するまでお待ちを……」


(必ず……)


 拳に力が入る。


(次は必ず……勝つ)


 * * *


 強欲の魔族が住む魔城マインスへ向かうまでの時間、テクストはいつも以上に修行に打ち込んだ。


 剣を振る。


 何度も。


 何度も。


 腕が重くなっても、振る。


 身体が疲れても、振る。


(魔力があれば、あの場で勝てていたのか?)


 剣が止まりかける。


 だが、すぐに振り直した。


(いや、それを考えるのはよそう)


 魔力がないから負けた。


 そんなことを考えても、何も変わらない。


 自分には魔力がない。


 だから剣を振る。


 それだけだった。


 ……それでも、頭から離れない。


 マモンの言葉。


『魔力がねえお前は、この世界じゃゴミなんだよ』


(……違う)


 剣を振る。


(私はゴミではない)


 また振る。


(私は剣士だ)


 さらに振る。


 カイセンとナインを救うためなのか。


 マモンに敗れた雪辱を晴らすためなのか。


 それとも、シエルを守れる騎士でありたいからなのか。


 テクスト自身にも、それは分からなかった。


 ただ、一つだけ分かっていることがある。


 次にマモンと会ったときは――絶対に負けない。


 やがて、シエルから出発の連絡が届いた。


 テクストたちは転移魔法によってカストルへ移動する。


 そこから馬車に乗り、二日。


 長い旅を終えた先に――魔城マインスがあった。


 テクストは馬車から降り、城を見上げる。


 あの男がいる。


 前回、自分を打ち負かした男。


 強欲のガイツ・マモン。


 テクストは剣へ手を添えた。


(今度こそ――勝つ)


 城に入ると、マモンの配下と思われる魔族が何体かいた。


 しかし、彼らを相手にしている間も、テクストの意識はただ一人へ向いていた。


 前回、何もできなかった。


 今度は違う。


 その思いだけを胸に、テクストとシエルは先へ進む。


 やがて仲間たちも、それぞれ幹部との戦いへ入っていく。


 そして最後まで進み続けたテクストとシエルは、ついにマモンのいる部屋へ辿り着いた。


 扉を開く。


 テクストはマモンを見た瞬間、表情を険しくした。


「強欲! 貴様を今ここで討つ!」


 剣を握り、マモンへ駆ける。


「テロー」


 マモンが武器を生み出し、テクストの剣を受け止めた。


「アレス・エレメント!」


 その直後、ナインもマズルを相手にするため、戦闘へ入った。


「ゲー・プラッソー」


 床が幾重にもせり上がり、魔法を防ぐ。


「あなたの相手は僕ですよ」


 マズルはマモンへ許可を取り、ナインとともに別の部屋へ移動した。


 シエルとカイセンも突如現れたレヴィアタンの黒渦の中に入り消えた。


「騎士の名家、アイン家に生まれ、レグルス王国、第三王女、いずれ王となられるシエル様に仕える騎士。テクスト・アイン。貴様を倒す」


 残されたテクストとマモンの戦いは続く。


「王牙流・連牙!」


 テクストが連続して斬り込む。


 しかし、マモンは軽々と避けていく。


「エメーシス」


 マモンが権能を使う。


 しかし、何も起こらない。


「本来は敵の技をコピーする権能なんだが……お前が魔力を使っていないからか?」


 そのとき、扉が開いた。


「連れてきたよぉ。マモン様ぁ」


 モンナテルンだった。


 その手には、気を失ったミナがいる。


「おい、モンナテルン。気絶させたら支配はできないって言っただろ」


「あぁ、そうだった。忘れてたよ。ごめんねぇ」


「グリフはどうした!」


「グリフ? ああ、もう一人の男のことねぇ。あいつなら殺したぁ」


 テクストの表情が変わる。


「王牙流・白虎!」


 一瞬で距離を詰め、斬撃を放つ。


「速ぁ……!」


 モンナテルンが辛うじて避ける。


 だが、次の瞬間。


「モンナテルン。今まで大儀だった」


「王牙流・青龍!」


 龍を思わせる剣技が走る。


 モンナテルンは最後まで笑みを浮かべていた。


「わ〜い。マモン様に褒められたぁ」


 そして、その場に崩れ落ちた。


「次は貴様だ! 強欲のガイツ・マモン!」


 モンナテルンを倒した後も、マモンとテクストの戦いは続いていた。


「王牙流・連牙!」


 再び連続攻撃を仕掛ける。


 しかし、マモンはすべてを避ける。


 その攻撃にはすでに慣れてきている。いや、飽きてきていた。


「そろそろ終わらせるか」


「テロー」


 マモンの背後に二十本もの武器が現れ、床へ落ちる。


「そんなに武器を出しても、持てないだろう?」


「焦んなよ」


「エントレー」


 二十本の武器が一斉に浮かび上がり、四方八方からテクストへ襲いかかる。


「王牙流・玄武!」


 テクストは必死に防ぐ。


 一本、また一本。


 だが、すべてを防ぎ切ることはできない。


 やがて力尽き、テクストは膝をついた。


「最後に言うことはあるか?」


 マモンが剣を構える。


 テクストは動けない。


 だが、その胸に浮かんだのは、ただ自分がここで終わることへの恐怖ではなかった。


 兄弟を見返したい。


 父と母に認められたい。


 そして――シエルを王の座へ連れて行きたい。


 そのためにも、ここで終わるわけにはいかない。


 守るべき騎士が、守られるだけでは終われない。


 あのときの悔しさが、再び胸の奥を突き刺す。


 力が欲しい。


 一瞬でもいい。


 この圧倒的な相手を退けるだけの力が。


 その瞬間、頭の中に声が響いた。


(貴公が結んだ誓約を、今ここで果たす)


「……?」


 意味は分からない。


 だが、次の瞬間、知らないはずの言葉が自然と浮かんだ。


「ウヴォルニェーニ」


 言葉が口からこぼれた瞬間、テクストの身体から凄まじい魔力が溢れ出した。


「なんだ、その魔力は!」


 マモンが驚愕する。


「お前は魔力を持っていなかったはずだ!」


 しかし、驚きはすぐに歓喜へと変わった。


「聞いたことがない……! いや……知らないことが知れる! それはいいことだよなぁ!」


「来い、テクスト・アイン! お前に興味が湧いてきた!」


 テクストは剣を握り直す。


「この力の凄まじさは理解した。貴様が魔力に固執する理由もな」


 魔力が剣と身体を包む。


「王牙流・青龍!」


 放たれた青龍は、これまでとはまるで違っていた。


 剣に纏った魔力そのものが、巨大な青龍の姿を取っている。


「これほどの魔力量! 凄まじい!」


 マモンは盾を次々と生み出し、青龍を受け止める。


「俺の予想では、お前はこれまで魔力を使わずに貯めてきたんだろう! 形は違うが、大賢者と同じだ!」


 マモンが笑う。


「実は俺とお前、似ているのかもな!」


 マモンは、先ほどまで取るに足らない存在だと思っていたテクストを、今になって初めて認めた。


「七大魔族の第六柱、強欲のガイツ・マモン! その魔力を、お前を相手に! 出し惜しみなどするわけにはいかないな!」


「プレオネクシア・デュナメオース!!」


 マモンの周囲に、膨大な魔力が集まる。


 これまで蓄積してきた魔力。


 そのすべてを、一撃に込める。


「最後に放ったのは八十年前ぐらいだ!」


「八十年分、全部ぶつける!」


 巨大な魔力の塊が放たれる。


 テクストは剣を構えた。


「カイセンが教えて欲しいと言っていたな」


 そして――。


「王牙流・朱雀!」


 斬撃が朱雀となって飛翔し、マモンの魔力と激突する。


 だが、朱雀は押し負け、消滅した。


「王牙流・黄竜!」


 続けざまに放たれた斬撃が、巨大な黄竜へと変わる。


 黄竜は魔力の塊へ食らいつき、押し返していく。


「流石だ! テクスト・アイン!」


 マモンが歓喜の声を上げる。


 そして――黄竜が、ついに魔力の塊を打ち破った。


「ぐああああああっ!」


 黄竜はそのままマモンへ迫り、やがて消えていく。


 その場には、なお立ち続けるマモンがいた。


「悪いが、頑丈なところが俺の取り柄の一つでな……」


 マモンはふらつきながら笑う。


「お互い魔力ももう残ってない。またいつかやり合おう、テクスト・アイン」


 背を向ける。


 しかし、テクストが呼び止めた。


「一つ、思い違いをしているようだな」


 マモンが振り返る。


「私は魔力がなくとも剣士だ。剣さえあれば戦える」


 テクストは剣を構えた。


「貴様を逃すわけにはいかん。ここで終わりとしよう」


 マモンは、もう逃げようとはしなかった。


 強欲は、すでに満たされていた。


 未知だったものを知った。


 求め続けた魔力の使い手と戦った。


 それだけで、十分だった。


「お前が賢者ならば、百年後に俺ではない俺がお前を殺すんだがな」


「私が百年後に生きていたとしても、百年後に勝つのはこの私だ」


「お前の欲が、渇望が、いつか叶うといいな」


「ああ、そうだな」


 七大魔族の第六柱。


 強欲のガイツ・マモン。


 ここに散る。


 百年後に目覚める、その時まで。


 テクストが先ほど聞いた謎の声。


 産声を上げる直前にも聞いた声。


 その声はテクストを見ていた。


 すると。


 テクストの左目に、傷が刻まれる。


 左目から、光が失われていく。


(これで戦いで失ったように見えるだろう……)


(これでいい)


(次に魔力を使えば右目を貰おう)


(そして三度目に魔力を使った時には――命を貰うとするか)


(代償は、これでいこうか)

【キャラクター紹介】


テクスト・アイン


年齢:22歳

誕生日:10月31日

身長:177cm

体格:細身で引き締まった騎士体型

髪・目:茶色

一人称:私

好きなもの:仲間

好きだったもの:兄

嫌いなもの:辛い食べ物

好きな言葉:騎士

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