第一章 13 『騎士の目に魔力見えず』
後書きにあるガイツ・マモンの年齢と誕生日変更しました。
7〜12話までの魔法名と権能名変更まとめました。
変更が多くて申し訳ありません。
シュヴェアムート
シュラップ→アトニアー
ミューデ→カマトス
マット→アステネイア
デプリーー →メランーー
グリフ
バースト→エクスプロシオ
ナイン
プラズマリヒト→ ブラウゼ・ブリッツ・ラウフェン
マズル
テラ・ファケレ→ゲー・プラッソー
ラントヴルム→ゲー・ドラコーン
モンナテルン
ヴュルゲ→メーコス
レヴィアタン
グラビティ・ヴォイド→メライナ・オペー
グラビオン→バリュノー
マモン
ウェッレ→テロー
ラピーレ→ミメーシス
「七大魔族って、こんな弱いのか?」
カイセンが呟いた。
目の前では、先ほどまで圧倒的な力を見せていたレヴィアタンが、シエルの光魔法によって追い詰められている。
闇属性。
それだけを見れば、シエルにとって相性の悪い相手ではない。むしろ相性の良い相手だ。
だが、それでも相手は七大魔族の一柱だ。
カイセンが肩書きから想像していた強さと、実際に目の前にいるレヴィアタンの強さ。その差に、疑問を抱かずにはいられなかった。
「闇属性だったとはいえ、七大魔族にしては弱すぎると思うよ。七柱って、こんなものなのかな?」
シエルはそう言って、カイセンを見る。
「じゃあ、ちょっと離れていて。一人だと発動に時間はかかるけど、封印魔法を使うから」
(封印魔法?)
この世界に来てから、初めて聞く言葉だった。
カイセンが疑問を抱いている間にも、シエルは魔力を集中させていく。
「パンドーー」
その瞬間。
周囲の空気が変わった。
七大魔族にのみ有効な封印魔法、パンドラ。
発動には、対象がかなり弱っていること。そして、まだ死んでいないことが条件となる。
しかし――。
「おーっと……」
シエルが魔法を完成させるよりも先に、レヴィアタンが動いた。
「それを受けるわけにはいきませんね。それが、憤怒を封印したとかいう魔法ですか?」
「知っているのですね」
「ええ。全く理不尽な魔法ですよ」
レヴィアタンは苦笑する。
「理不尽なのは、貴方達の性質ですよ。あれがなければ、第二次人魔戦争なんて起きなかったのですから」
「私もよく分からないんですけどね〜。気がついたら目が覚めて、覚えていたのは一度人間に殺されたということだけです」
その言葉を聞いても、シエルの表情は変わらない。
「さあ、そろそろ終わらせますか」
「そうですね。貴方はもう一度、私の光魔法を受けて終わりです」
シエルが構える。
しかし――。
「いいえ?」
レヴィアタンが笑った。
「終わるのは、あなたたちですよ?」
レヴィアタンの視線が、周囲を覆う黒渦へと向けられる。
「この、閉じゆく黒渦と一緒に」
口元が歪む。
その笑みには、もう余裕しかなかった。
「ホーキング」
魔法が発動する。
黒渦が大きく揺らいだ。
まるで外側から押し潰されるかのように、その範囲が急速に狭まっていく。
「それじゃあ――」
「待ちなさい!」
シエルがレヴィアタンへ手を向ける。
「シュネル・リヒト!」
シエルが持つ光魔法の中でも、最速の魔法。
放たれた光は、一瞬でレヴィアタンへと届いた。
「――っ!」
直撃。
レヴィアタンの身体が大きく揺らぐ。
激痛に耐えきれず、悲鳴が響いた。
それでも、レヴィアタンは動きを止めない。
「カスマ……!」
レヴィアタンの目の前に、人一人が通れるほどの裂け目が生まれる。
そして、その裂け目へ身体を滑り込ませた。
「なっ――!」
カイセンが声を上げる。
だが、もう遅い。
裂け目はすぐに閉じ、レヴィアタンの姿は完全に消えた。
「待て!」
カイセンが走り出す。
しかし、追いつけるはずもない。
「熱っ!」
黒渦の中に取り残されたカイセンが、思わず声を上げた。
「どうすんだよ、これ!」
「ここの解除を急がないと!」
シエルも周囲を見回す。
「発生している蒸気で、焼け死んでしまいそう」
黒渦はさらに狭くなっていく。
逃げ場はない。
このままでは、二人とも黒渦に押し潰される。
(どうする)
カイセンの頭が必死に回転する。
(どうすればいい。何かあるはずだ。何か――何か!)
「!」
その瞬間。
カイセンの頭に、一つの考えが浮かんだ。
「シエル!」
「何?」
「俺はこれを使ったら、たぶん魔力切れで倒れる!」
カイセンはシエルを見る。
「俺が倒れたら、レヴィアタンは頼んだ!」
シエルは迷わなかった。
「分かったよ!」
カイセンが目を閉じる。
残された魔力を、一点へと集中させる。
「アメノイワト」
カイセンを中心に、黒い領域が広がっていく。
それは周囲の黒渦を飲み込むように広がり、レヴィアタンが生み出したメライナ・オペーを上書きしていく。
黒が、黒を塗り潰す。
そして――。
完全に、メライナ・オペーが消滅した。
「シエル……。あとは任せた」
その言葉を最後に、カイセンは意識を失った。
同時に、アメノイワトも消滅する。
次の瞬間。
二人は、元々いた部屋へと戻っていた。
* * *
カイセンがアメノイワトを発動する、少し前。
マモンとテクストの戦いは、まだ続いていた。
マモンが本気を出していないのか。
それとも、テクストが強くなったのか。
いまだ、決着はついていない。
「王牙流・連牙!」
テクストが間合いを詰め、連続して斬撃を放つ。
しかし――。
「それはもう見飽きた」
マモンは軽々と攻撃を避けていく。
「他にはもうないのか?」
斬撃を躱しながら、マモンは退屈そうに呟いた。
「なら、そろそろ終わらせるか」
「テロー」
マモンの背後に、次々と武器が現れる。
剣。
斧。
槍。
その数、二十本。
現れた武器は宙に浮くことなく、そのまま床へと落下した。
「そんなに武器を出しても、持てないだろう?」
テクストが警戒しながら言う。
マモンはニヤリと笑った。
「焦んなよ」
マモンがテクストを指差す。
「エントレー」
その瞬間。
床に落ちていた二十本の武器が、一斉に浮かび上がった。
「な――」
次の瞬間。
二十本の武器が、一斉にテクストへと飛んでいく。
前から。
左右から。
逃げ道を塞ぐように、あらゆる方向から武器が迫り来る。
「王牙流・玄武!」
テクストはすぐさま防御の構えを取った。
一本。
また一本。
飛来する武器を次々と弾き飛ばしていく。
だが――多すぎる。
全てを防ぐことはできない。
何本かの武器がテクストの身体へと当たり、その勢いで身体が揺らぐ。
「終わりだな」
マモンが淡々と言った。
「エントレー」
すると、先ほど弾き飛ばされた武器が、再び宙へと浮かび上がる。
「――!」
テクストの目が見開かれた。
一度終わったと思った攻撃が、もう一度襲ってくる。
「王牙流・玄武!」
テクストは再び防御の構えを取る。
しかし、先ほどの攻撃で負った傷がある。
動きも鈍っている。
何より――一度できなかったことが、二度目にできるはずがない。
「ぐっ……!」
テクストの防御をすり抜けた武器が、次々と迫る。
必死に弾こうとする。
だが、間に合わない。
やがて、テクストの身体から力が抜ける。
そして――膝をつき、そのまま倒れ込んだ。
「最後に言うことはあるか?」
マモンが剣を手に取り、テクストへ向ける。
テクストは地面に手をついたまま、動かない。
死。
その現実が、すぐ目の前まで迫っていた。
テクストの頭の中を、様々な感情と思考が駆け巡る。
恐怖。
(私は、こんなところで終わるのか?)
(嫌だ)
(死にたくない)
(私は、死にたくない)
悔しみ。
(父様も母様も、私に怒ることはなかった)
(だが、褒めることもなかった)
(兄や弟は、いつも私を見下していた)
(それが、苦痛で仕方がなかった)
妬み。
(嫌だ。死にたくない)
(力が欲しい)
(魔力に憧れたか?)
(憧れたさ)
(他にも、この症状の人間がいるのかもしれないと思って探した)
(生まれた後に魔力を手に入れた人間がいるかもしれないと思って、調べもした)
(だが、誰もいなかった)
(ずるい)
(魔力を持つ全員が憎い)
本懐。
(嫌だ)
(死にたくない)
(私は、この後も生きて、生きて、生きて――)
(兄弟を見返す)
(父様と母様に褒められる)
(そして、シエル様を王の座へ連れて行く)
生きなければならない。
まだ終われない。
そして――渇望。
(……一瞬でもいい)
(魔力を使って、圧倒的な力を使って、こいつを倒したい!)
その瞬間。
テクストの頭の中に、声が響いた。
(貴公が結んだ誓約を、今ここで果たす)
「……?」
テクストは、その声の意味を理解できなかった。
だが、その直後。
頭の中に、一つの言葉が浮かび上がる。
知らないはずの言葉。
聞いたことすらないはずの言葉。
それなのに――なぜか、知っている。
まるで、ずっと前から知っていたかのように。
「特にないか」
マモンが痺れを切らす。
「なら――」
マモンが剣を振り上げた。
テクストは顔を上げる。
「ウヴォルニェーニ」
その言葉が口からこぼれた瞬間――。
テクストの身体から、圧倒的な魔力が放たれた。
「なんだその魔力は!」
マモンが叫ぶ。
「お前は持っていなかったはずだ! 一ミリも魔力を持っていなかったはずだ!」
マモンの顔に、明らかな混乱が浮かぶ。
しかし、その混乱はすぐに歓喜へと変わった。
「聞いたことがない……!」
マモンの口元が吊り上がる。
「いや……知らないことが知れる。それはいいことだよなぁ!」
「来い! テクスト・アイン! お前に興味が湧いてきた!」
マモンが叫ぶ。
その声を聞きながら、テクストはすでに構えを取っていた。
「確かに、この力は凄まじい」
テクストが剣を握り直す。
「貴様が魔力に固執する理由もわかる」
魔力が剣へと集まり、同時に身体を包み込む。
「王牙流・青龍!」
テクストが剣を振り抜く。
これまでの青龍とは、比べ物にならない。
何よりも違うのは、剣に纏わせた魔力そのものが、青龍の形へと変わっていることだった。
(なるほど。これは素晴らしい。それに初めてでも結構、魔力を扱える。本で勉強したおかげかもしれんな)
部屋に、マモンの笑い声が響き渡る。
「これほどの魔力量! 凄まじい! 凄まじいぞ!」
マモンはテローで次々と盾を生み出し、青龍の一撃を防いでいく。
「俺の予想では、お前はこれまで魔力を使わずに貯めてきた!」
マモンが笑う。
「形は違うが、大賢者と同じものだ! 実は俺とお前、似ているのかもな!」
「七大魔族の第六柱、強欲のガイツ・マモン! その魔力を、お前を相手に! 出し惜しみなどするわけにはいかないな!」
「プレオネクシア・デュナメオース!!」
マモンの周囲に、凄まじい魔力が集まっていく。
プレオネクシア・デュナメオース。
それは、マモンが殺した者たちの魔力を、自らの魔力として蓄積し、必要な時に一気に放出する権能。
殺した相手の魔力を奪い、それを長い年月をかけて蓄え続ける。
その性質上、蓄積された魔力は一人分ではない。
マモンがこれまで奪ってきた、数え切れないほどの魔力が一つに集められている
「最後に放ったのは八十年前ぐらいだ!」
「八十年の間に殺した奴らの全てを――今、ぶつける!」
圧倒的な魔力の塊が放たれる。
「たしか、カイセンが教えて欲しいと言っていたな」
テクストは剣を構える。
「私が王牙流で、数少ない再現できなかった技……」
「王牙流・朱雀!」
魔力を纏った飛ぶ斬撃が、朱雀の姿へと変わる。
朱雀とマモンの魔力の塊が、真正面から激突した。
だが――。
朱雀が押し負ける。
魔力の塊に呑み込まれ、朱雀は消滅した。
「王牙流・黄竜‼︎」
瞬間。
テクストが剣を振り抜いた。
放たれた斬撃は、これまでの王牙流とは明らかに違っていた。
膨大な魔力を纏った斬撃が、巨大な黄竜の姿へと変わる。
黄竜は部屋そのものを震わせながら、マモンの魔力の塊へと迫っていく。
「くはは……!」
マモンの表情が歓喜に歪む。
黄竜が、魔力の塊へ真正面から食らいついた。
先ほどの朱雀とは違う。
押し負けない。
二つの巨大な力が衝突し、周囲の空気が激しく震える。
「流石だ! テクスト・アイン!」
マモンが叫ぶ。
「これが――お前の魔力か!」
黄竜が唸る。
そして、マモンの魔力の塊を徐々に押し返していく。
二人とも、体力も魔力もこの一撃で使い切っていた。
勝負は、ここで決まる。
黄竜はまるでマモンの魔力の塊を喰らうかのように、さらに押し込んでいく。
そして――。
ついに黄竜が打ち勝った。
それでも止まらない。
黄竜はそのままマモンへと向かっていく。
「ぐああああああああっ!」
マモンの悲鳴が響き渡る。
やがて黄竜が消えていく。
そして、その場に残ったのは――。
まだ立っているマモンだった。
「悪いが、頑丈なところが俺の取り柄の一つでな……」
マモンがテクストを見る。
「お互い魔力ももう残ってない。またいつかやり合おう、テクスト・アイン」
マモンがフラフラな動きで立ち去ろうとする。
しかし――。
「一つ、思い違いをしているようだな」
テクストが呼び止めた。
マモンが振り返る。
「私は魔力が無くとも剣士だ」
テクストは剣を構える。
「剣さえあれば戦える。貴様を逃すわけにはいかん。ここで終わりとしよう」
マモンは惨めに逃げ回ることも、喚き散らすこともなかった。
強欲は、すでに満たされていた。
未知だったものを知った。
求めていた魔力の使い手と戦った。
それだけで、マモンにとっては十分だった。
「お前が賢者ならば、百年後に俺ではない俺がお前を殺すんだがな」
マモンが静かに言う。
テクストは剣を構えたまま答える。
「私が百年後に生きていたとしても、百年後に勝つのはこの私だ」
「お前の欲が、渇望が、いつか叶うといいな」
「ああ、そうだな」
七大魔族の第六柱。
強欲のガイツ・マモン。
ここに散る。
百年後に目覚める時まで。
【キャラクター紹介】
ガイツ・マモン
種族:魔族
立場:七大魔族の第六柱
異名:強欲
年齢:437歳
誕生日:6月6日
身長:183cm
体格:細身だが筋肉質
髪・目:黒髪・金眼
一人称:俺
好きなもの:魔力
嫌いなもの:弱いやつ
好きな言葉:フィロソフィー




